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15. 終章・光の庭 ⑥
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私は彼の膝の間に挟まれて、両腕で抱きしめられて後頭部にキスされる。
「……あなた、実はちょっと私のこと嫌いよね」
「ああ、まあ?何年も放っておけるぐらいには嫌いですよ?」
「……」
「でも、自分で築いたものを全部放り出せるくらいには好きですよ」
後ろからギュって抱きしめられる。私は拗ねてみせる。
榛瑠は矛盾に満ちている人だなって思う。矛盾して揺らいでいる。
……ああもう。どうしよう。大好き。すごく好き。
だから、拗ねてしまうの。悔しくて。
「でも、捨てる以上は見返りがないと意味がないからね。そのまま帰ってまたあなたの世話係に戻ってもしょうがないし。結局、あなた自身より父親を攻略するのが最終的には近道だと判断したのですが、その分時間がかかってしまった。」
「どういう意味?」
「あなたと同じ立ち位置に立とうと思ったら、自分の付加価値を高めるしかないでしょう?むげに手放すのは惜しいと思わせるくらいにはね。だから、アメリカ支社に入ったんですが、時間はくいました。ま、日本に呼ばれたあたりで第一関門はクリアかな」
「え、ちょっと待って、と言うことは、あなたもしかして社長を狙って私と結婚しようと考えたんじゃなくて、最初から逆なの?」
私は彼に向き直った。
「そうですよ、ずっとそういう態度でいたつもりなんですけど」
「そんなの……」
私はすぐに言葉が出なかった。
「普通そんなふうには考えないわよ」
誰が考えるというの?ありえないでしょう。私と一緒にいるために会社を手に入れる?それも自分の会社は放ったらかして?ないない。
榛瑠は肩をすくめると後ろに手をついて私を見ている。
私が彼にそこまでしてもらう価値があるか自信はない。というか、ないよ、どう考えても。
でもここで、ありがとうとか、ごめんなさいっていうのも違う気がする。
それに、彼は本気を出せば、私が想像しないところまで行けてしまう人なんだと思っている。そんな人がここにいる。それはもう、なんていうか……。
「榛瑠、あなた、私どころでなく馬鹿なんじゃないの?」
彼は笑った。
「かもね。でも、自分で選んでバカなことするのは思ったより楽しいよ」
榛瑠が私に手を伸ばして髪に触れる。晴れやかな楽しそうな顔をしていた。
あなたが楽しいなら私は嬉しい。だから、いい。お礼は言わない。
「でもやっと、ここ、という感じですけどね」榛瑠が姿勢を起こしながら言う。「やっと0地点、だな。ここからやらなくてはいけないことも、やりたいこともまだまだある」
どこか独り言のように榛瑠はつぶやいた。
そして、彼は真っ直ぐ前を見た。どこか遠くを見つめて。
私は彼と初めて会った日を思い出した。
あの日、着ているものさえ借り物で何も持たずにその美しい少年は立っていた。金色の瞳に美しく強い光をたたえて、ただ真っ直ぐ前を見て。
あの少年がここにいる。
少年は、瞳に宿った光だけを携えてここまで来たのだ。
……榛瑠、あなたに伝えたい。
好きとか、愛しているなんていうことより、もっともっと、遠く、強くあなたに伝えたいことがある。
私は彼の首に両腕を回して抱きしめた。
榛瑠が受け止めてくれる。
「あのね、榛瑠」
「ん?」
「あのね、えっとね、ここにいてくれてありがとうね」
「一花?」
「ずっと昔のあの時、我が家に来てくれてありがとう」
それはきっと偶然のような必然で。あの時から何もかもが始まったのだ。
ううん、違う。もっと前から全部決まっていて、それは、もう、きっと奇跡みたいなもので。いいことも悪いことも全部。
榛瑠が私を抱きしめる腕に力が加わる。包み込まれる。もう、子供の腕ではない。でも。
「あなたが、変わらずあなたのままでいてくれて、とても嬉しい」
あの光を失うことなくいてくれてとても嬉しい。
「私の人生にあなたをありがとう」
心の底から。
「一花」
榛瑠が私を強く抱きしめる。私も彼をぎゅっと抱きしめる。
嬉しくて、嬉しくて。だから。
「うん、いざとなったら、嫌になったらアメリカでもどこでも行っちゃっていいよ」
彼は私の腕をほどいて顔を見る。
「あのね、なんでそうなるの?」
「え、だって、この世界のどっかに、元気でいてくれれば最悪いいかなって。どうしてもの時の話よ」
榛瑠は笑った。
「お気遣いありがとう。でも、今はあなたの側が一番居心地いいんだけどね」
そう言って私にキスをする。
「あなた自身が私にとってはギフトだよ。一花」
彼はまたキスをした。そうやって二人でクスクス笑い合いながら何度も何度も優しいキスをする。
私たちは奇跡の続きを生きている。
ー 完 ー
「……あなた、実はちょっと私のこと嫌いよね」
「ああ、まあ?何年も放っておけるぐらいには嫌いですよ?」
「……」
「でも、自分で築いたものを全部放り出せるくらいには好きですよ」
後ろからギュって抱きしめられる。私は拗ねてみせる。
榛瑠は矛盾に満ちている人だなって思う。矛盾して揺らいでいる。
……ああもう。どうしよう。大好き。すごく好き。
だから、拗ねてしまうの。悔しくて。
「でも、捨てる以上は見返りがないと意味がないからね。そのまま帰ってまたあなたの世話係に戻ってもしょうがないし。結局、あなた自身より父親を攻略するのが最終的には近道だと判断したのですが、その分時間がかかってしまった。」
「どういう意味?」
「あなたと同じ立ち位置に立とうと思ったら、自分の付加価値を高めるしかないでしょう?むげに手放すのは惜しいと思わせるくらいにはね。だから、アメリカ支社に入ったんですが、時間はくいました。ま、日本に呼ばれたあたりで第一関門はクリアかな」
「え、ちょっと待って、と言うことは、あなたもしかして社長を狙って私と結婚しようと考えたんじゃなくて、最初から逆なの?」
私は彼に向き直った。
「そうですよ、ずっとそういう態度でいたつもりなんですけど」
「そんなの……」
私はすぐに言葉が出なかった。
「普通そんなふうには考えないわよ」
誰が考えるというの?ありえないでしょう。私と一緒にいるために会社を手に入れる?それも自分の会社は放ったらかして?ないない。
榛瑠は肩をすくめると後ろに手をついて私を見ている。
私が彼にそこまでしてもらう価値があるか自信はない。というか、ないよ、どう考えても。
でもここで、ありがとうとか、ごめんなさいっていうのも違う気がする。
それに、彼は本気を出せば、私が想像しないところまで行けてしまう人なんだと思っている。そんな人がここにいる。それはもう、なんていうか……。
「榛瑠、あなた、私どころでなく馬鹿なんじゃないの?」
彼は笑った。
「かもね。でも、自分で選んでバカなことするのは思ったより楽しいよ」
榛瑠が私に手を伸ばして髪に触れる。晴れやかな楽しそうな顔をしていた。
あなたが楽しいなら私は嬉しい。だから、いい。お礼は言わない。
「でもやっと、ここ、という感じですけどね」榛瑠が姿勢を起こしながら言う。「やっと0地点、だな。ここからやらなくてはいけないことも、やりたいこともまだまだある」
どこか独り言のように榛瑠はつぶやいた。
そして、彼は真っ直ぐ前を見た。どこか遠くを見つめて。
私は彼と初めて会った日を思い出した。
あの日、着ているものさえ借り物で何も持たずにその美しい少年は立っていた。金色の瞳に美しく強い光をたたえて、ただ真っ直ぐ前を見て。
あの少年がここにいる。
少年は、瞳に宿った光だけを携えてここまで来たのだ。
……榛瑠、あなたに伝えたい。
好きとか、愛しているなんていうことより、もっともっと、遠く、強くあなたに伝えたいことがある。
私は彼の首に両腕を回して抱きしめた。
榛瑠が受け止めてくれる。
「あのね、榛瑠」
「ん?」
「あのね、えっとね、ここにいてくれてありがとうね」
「一花?」
「ずっと昔のあの時、我が家に来てくれてありがとう」
それはきっと偶然のような必然で。あの時から何もかもが始まったのだ。
ううん、違う。もっと前から全部決まっていて、それは、もう、きっと奇跡みたいなもので。いいことも悪いことも全部。
榛瑠が私を抱きしめる腕に力が加わる。包み込まれる。もう、子供の腕ではない。でも。
「あなたが、変わらずあなたのままでいてくれて、とても嬉しい」
あの光を失うことなくいてくれてとても嬉しい。
「私の人生にあなたをありがとう」
心の底から。
「一花」
榛瑠が私を強く抱きしめる。私も彼をぎゅっと抱きしめる。
嬉しくて、嬉しくて。だから。
「うん、いざとなったら、嫌になったらアメリカでもどこでも行っちゃっていいよ」
彼は私の腕をほどいて顔を見る。
「あのね、なんでそうなるの?」
「え、だって、この世界のどっかに、元気でいてくれれば最悪いいかなって。どうしてもの時の話よ」
榛瑠は笑った。
「お気遣いありがとう。でも、今はあなたの側が一番居心地いいんだけどね」
そう言って私にキスをする。
「あなた自身が私にとってはギフトだよ。一花」
彼はまたキスをした。そうやって二人でクスクス笑い合いながら何度も何度も優しいキスをする。
私たちは奇跡の続きを生きている。
ー 完 ー
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【良い点(箇条書き)】
・珍しいタイプの主人公だと感じた。お金持ちで完璧やシンデレラストーリーはよく見かけるが、お嬢様でありながらこれと言って秀でた部分があるわけでもなく、自信もないタイプの女性が主人公。オリジナリティを感じる。
・九年離れていても気持ちが変わらない。彼がとても一途。
・初めは分からないが、あることをきっかけに主人公の本心が明かされていく。
・主人公は一般的な女性なのだろうか? 自信はないながらも、彼が自分には甘いということを何処かで分かっている。だからこそ自信がないとも言える。
・自分のことを理解し、背伸びをしない等身大の女性だと感じる。
【備考(補足)】31ページ目まで拝読
【見どころ】
余裕である婚約者に対し、翻弄される主人公が見どころなのだと感じた。あまり見たことのないタイプの組み合わせにオリジナリティを感じる。
自分に自信がなく、積極的になることのできない女性の心理が分かる物語でもある。両片思いではあるが、主人公にはその自覚はなく心の中では想いを寄せていても、周りが気になるのか冷たいように感じる態度。きっとこの彼でなければ、彼女の好意に気づき辛いのでは? それだけ彼が、主人公のことを理解しているのだとも言える。主人公は今まで父の勧めで他の男性とお付き合いをしたりもしていたようで、彼の自信が何処から来るのだろう? と思うことも。読了部分ではまだ彼について分からないことが多いが、果たして二人はどうなっていくのだろうか? あなたもお手に取られてみてはいかがでしょうか? 二人の行く先をその目で是非、確かめてみてくださいね。おススメです。
素晴らしいレビューをありがとうございました!!!とても嬉しいです。書いてよかった!
【簡単なあらすじ】
ジャンル:恋愛
お嬢様でありながら、さえないOLの主人公。誕生日は普段は忙しい父とのデートが恒例であった。しかし今回の誕生日にはいつもとは違い、父が婚約者を連れてきたのである。しかもその相手とは9年前に嫌な別れ方をしてしまった、元世話係の男性で?!
【物語の始まりは】
主人公が起こされるところから始まっていく。女性の部屋に勝手に入る元世話係の男。主人公が不満を漏らすも、父の許しを得ているようでその不満は解消されることはなかった。本編に入ると、ことの経緯が語られていく。何か理由があって逢いたくなかったようだが、彼とは同じ職場で働くことに。
【舞台や世界観、方向性】
おそらく現代
九年後に再会した二人が恋愛関係に発展していくのだと思われる。
【主人公と登場人物について】
主人公にとって誕生日は特別な日。普段は忙しくてゆっくり話すこともできない父とのデートの日である。しかし今回の誕生日に待ち受けていたのは悪夢であった。どんな別れたをしたのか序盤では明かされてはいないが、どうやら主人公にとっては逢いたくない相手だったようである。
主人公は社長令嬢でありながら、地味で普通の女性のようだ。それはコンプレックスでもあるようで、父から幾度か素敵な人を紹介して貰ったもののフラれてしまうらしい。その為、現在は恋人もいないよう。
どんな理由からかは序盤ではわからないが、彼に対し主人公の方が気持ちをストレートに表わすことができず、両片思いのような関係である。
【物語について】
主人公は何らかの理由があり、彼に対し素直な感情を向けられない状況のようだが、彼は直属の上司となる。自分とは関わらないでほしいという彼女の言葉通り、彼は職場で初対面のフリをし必要以上に関わって来ることもなかった。彼は見目も良く優秀なためか、あっという間に個人情報が知れ渡ることに。そこで主人公は、自分との違いを更に思い知らされることとなるのだ。
そんなある日、事件が起こってしまう。自分も関与はしていたものの、仕事で重大なミスが発覚するのである。それを助けてくれたのが、上司である彼だった。この辺りから、主人公の心理に素直な気持ちも見て取れるようになり、彼に対しどんな感情を抱いているのか分かり始める。
続く
1ページだけ読んで感想頂くというのに、恋愛ものを頼んで、でもこんな素敵な感想を頂けて嬉しいです。
残念ながら彼は思い通りにいきませんが、榛瑠がいなかったらというifルートを感じて、そうだよなあって。
鬼塚さんというキャラが報われた気がしました。
ありがとうございました!