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第三章 すべてを投げ打っても
31話 悪女の慟哭②
しおりを挟むついに来た! フィル様のペットだ!
強い魔力を感じたので視線を向けると、ほんの十メートルほど上空に銀翼のドラゴンがいた。青い瞳でギロリと周囲を睨みつけ、大きな口を開けて咆哮をあげる。
「……………………え? バハムート?」
私の思考が完全に停止した。
見間違いかと思って、何度もまばたきしてみたけれど、間違いなく私の秘密の友人であるバハムートだ。
「うん、僕のペットだよ」
「はあ!? なんで!?」
「王城の中で不思議な魔力の気配があったから会ってみたら、ラティの友人だと言ったんだ。だからラティのそばにいたいなら僕と主従関係を結べと言ったんだよ?」
「どうして、いったいなぜ……!?!?」
いや、もう、なにから突っ込んでいいのかもわからない。そもそも幻獣と主従契約など結べるものなのか?
待て待て、論点はそこでいいのか? 私が持ち込んだ幻獣だとバレてる時点でマズいのではないだろうか?
そんな疑問を吹き飛ばす答えが、フィル様から発せられる。
「だってアイツは雄でしょう? 僕の命令に絶対服従するくらいでないと、心配でラティのそばに置いておけないよ」
それが理由……!? 雄だから? ねえ、雄だからダメだったの!?
久しぶりに絶望感に打ちひしがれた。
「嘘……唯一のオアシスが……」
「ほら、ラティ。イライザたちが行動するよ」
そうだ、今は絶望感に浸っている場合ではない。ジルベルト様がイライザ様の夫に認められるように尽力しなければ。すでにバハムートは目標をイライザ様たちに定めて、攻撃を仕掛けていた。
その場にいた貴族たちは逃げ出し、警備の騎士たちがドラゴンを倒せる猛者を連れてくるため走り回っている。人数を集めるのも多少時間がかかるはずなので、その間にケリをつけたいところだ。
私たちは騒ぎに便乗して、フィル様が幻惑の結界を張ってくれたので、周りからは姿が見えないようになっている。これでいざという時に、すぐに助けにいけるようにしていた。
余裕で古竜を倒せるジルベルト様の動きが、なんだかおかしい。どうやらアリステル公爵様が横から口を出して、行動を制限しているようだ。
本気で攻撃を仕掛けるバハムートは、今まで見たことがないくらい恐ろしい。ジリジリと嫌な汗が背中を伝った。
「ゔああああっ!!」
ついにジルベルト様が、バハムートの攻撃を受けてしまった。ふたりを庇って、バハムートが吐き出したブレスを正面から受けてしまったのだ。その場に倒れ込むジルバルト様を、イライザ様が泣き叫びながら抱きしめている。
私とフィル様も緊急事態に結界を解いて駆け寄った。
「っ!!!! ジルっ!!」
「イライザ、待て! アイツはもう助からん!!」
「嫌っ! そんなわけないわ!! ジルはこの国でも五本の指に入る騎士なのよ!」
「イライザ!!」
イライザ様とアリステル公爵が大声で怒鳴り合っている。バハムートはジルベルト様が放ったカウンター攻撃で動けなくなっていた。
「ジル! ねえ、起きてよジル!!」
「イラ……イザ……ごめ……」
ジルベルト様の掠れた声が僅かに聞こえたが、瞳は閉ざされてしまった。
「やだ……やだやだやだ!! ジル! わたくしは貴方がいないと嫌よ!!」
イライザ様の魂の慟哭に、私は足を止めた。
いつも勝ち気で、いつも自信たっぷりで、フィル様と互角に計略を練るイライザ様が泣き叫んでいる。
「ねえ、わたくしが本当に愛するのは、貴方だけなの!! お願い、目を開けて!!」
ジルベルト様の手がパタリと地面に落ちて、動かなくなった。
ハッと我に返り、素早く患者の状況を把握する。
バハムートのブレスは火炎系だった。魔法や打撃の防御結界は鎧にかかっていたけれど、ドラゴンブレスには効果がない。だからモロにダメージを受けている。
全身の七割を超える火傷、ところどころ皮膚が炭化している。もしかしたら、気道も炎でやられて呼吸もできない状態か。
——それなら、一刻の猶予もない。
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