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ルカの嫌がらせ その2

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 私は、自分の分だけ紅茶を入れようと思ったが、なんと湯を沸かすティーポットが、魔法道具だ。
 タリスビアに来て自分でやった事がなかったので、気が付かなかったが、これ、私使えないじゃん!……いや、頑張れば何とかなるか?
 魔法苦手なんだよなぁ。
 

 私はティーポットを持ったまま、ルカの斜め前の一人掛けのソファに座る。
 床になんか座ってられるか、膝が痛いし、昔、言いつけを破って、正座させられていた事を思い出すから嫌なのだ。
 
「誰がソファに座って良いって言った?」
 
 ルカがムッとして、私にそう言う。
 私は、ティーポットに魔力を込めながら、返す。
 
「私より上に居たいなら、ルカが立てばいいじゃないの」
「……」
 
 当たり前にそう思ったから、言ったまでだがルカは、また黙った。
 
 ……ルカってちょっと変なんだよ。
 本当に人間を下に見てるのだったら、既に激昂して、怒鳴り散らしていると思うんだ。
 何をするべきか考えている時間がいつもある。
 
 魔力を何とか操って、ティーポットに込めていれば、段々と温かくなってくる。
 
 ちらっとルカを確認すると、彼は私を見ていて目が合った。
 なにか言おうとして、少し困ったように、首を傾げる。
 
 あれ?なにか様子が違う。

 両手で抱えていたティーポットがボコボコと大きな音を立てて、急に蒸気がぶわっと私の顔面に直撃する。
 
「ッ、」
 
 突然の事に硬直している私に、ルカが手を伸ばしたのが見えた。
 
 ルカはティーポットを叩き落として、私を抱き上げる。
 ジュワァと音がして、焦げるような匂いがする。
 
 手がヒリヒリと痛い。
 いや、よく考えるとヒリヒリという程度ではない。脂汗が滲むぐらい痛いのだ。
 
「うぐ」
 
 ルカに抱き上げられた状態のまま両手を擦り合わせて、傷の状態を確認しようとするが、熱い以外の感覚がなく、涙がじんわりと浮かんできた。
 
「な、何してる」
「っ、ゔ、……」
「人間、には使えない、って、聞かなかったの……?」
 
 何か、ルカが言っていると思ったが、答える余裕が無く、浅い呼吸を繰り返す。
 すると、ルカはテーブルの上に私を座らせて、両手を取る。
 
「いづっ」
「、動かないで」
 
 私の手のひらとルカの手のひらをくっつけるようにして握って、彼は目を閉じる。
 
 人肌に触れている部分が、熱くて痛くて仕方なかったのに、数秒で楽になる。
 
「っ、は、はぁ、あり、がとう」
「……」
 
 ……治癒魔法……本当に獣人は魔法が……得意だな。
 
 ルカの手に触れている部分から感覚が戻って完全に痛みが引く。彼の手は、私の手より少し温かいとおもった。
 
「…………はぁ、……他に、ケガはない?」
 
 心配そうに歪められた瞳は、私をしっかりと捉えている。
 
「無い……大丈夫」
「君は、人間でしょ。ここは人間の国じゃない、人間用のものばかりじゃないんだよ」
「……」
「気をつけて」
「うん」

 真剣な声でそう言われると、私も迂闊だった事に思い至る。
 部屋の外から、人の駆けてくる音が聞こえてきて、乱暴に扉が開かれた。
 
「姫さんっ大きな音がっ」
「ご無事ですか、姫様!」
 
 メイド達はすぐに私に駆け寄ってきて、ルカは私から手を離す。それから、何も言わずに出ていった。
 
 


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