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第25話 僕の知らない彼女 ACT 10

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「ま、少しはお前が気にしていること、晴れた感じか?」

「はぁ―、そう言うことだっていうのはわかった。恵美がそんなにも苦しんでしたというのも。―――――それに本当に好きな人がいたんだっていうのも」
「ショックか? ヤキモチ妬きてぇか?」

「はぁ? ヤキモチ? 妬く? その響音さんに? ――――――妬けるなら妬きたい。んでもって炭になるまで焼きたい」
「炭になったら鎮火するのか? お前のその想いはようぉ!」
「――――――多分無理かも。炭なったら残り火にまた新しい薪を入れるんじゃないかなぁ」
「て、言うことはこの響音と戦うっていうことなんだろうな」

「うっ! それはそのぉ――――」
勝ち目はないかも……。だってさ、自分の命をかけてまで、恵美を守った人だよ。その想いに勝とうとすること自体無謀だよ。それともこの命をかけろっていうことを、この人は言っているのか? 恵美を本当にものにしたいんだったら、それくらいなんでもないだろって。

命かけろ! かぁ―。

つまりは半端な気持ちで恵美には近づくな。っていうことを合わせて訴えているのか?
近づくなっていったって、今の関係はだんだん遠ざかっているのが現状。確かにそりゃ、一緒に暮らしているから、普通よりは体としては近くにはいるし、告る前の状態からすれば外見的には相当近づいている。
でもなぁ、実際はお互い何の進展もないんだよなぁ。

それにこんな話を聞いてしまったら、これからどうやって、恵美と接したら、いや、接することは今まで告ったこと以外ねぇんじゃねぇ。
ていうか、一緒にあの家で暮らすの気まずい。さらに気まずくなってきた。

淡い恋心は、重くヘビーな関係を生み出した。て、さぁ、恵美とは実際幼馴染ていうんだろうけど、こんだけ、親たちが親密な関係なのに、どうして僕たちは接点がなかったんだ?
もう少しなんだ、お互いのその存在も知っていてもいいと思うし、こんな大事件に恵美が巻き込まれていたんだったら、僕の耳にも入っていてもおかしくはないと思うんだけど。

そんなことは何も聞いていなかった。
それともあえて……聞かせないようにしていたのか……。

「なんだ笹崎、急にだまりんで。敗北宣言でもしよって言うのか?」

その時何かカチンときた!

「敗北宣言? そんなのするわけないですよ。やりますよ。たとえフラれたにせよ、僕は恵美のことが好きなんだ……でもなんかその好きだっていうのが、別な意味にもなってきているような気がするけど、でも、これから恵美を守らないといけないのは僕しかいないよ。響音さんが自分の命を投げ出してまで、守った恵美の命を僕は……」

「………僕は」先生は空を見上げながら言った。

「―――――――――守る」
「そうか」としか、先生は応えなかった。

何か勢いで言ってしまった感じもするけど、多分言ったことに後悔はしていない。

「ま、それじゃ、これからもよろしく頼む。恵美のこと――――――なぁ、兄弟!」
「兄弟って、僕は響音さんの代わりですか?」
「………えっと、そう言う意味での兄弟じゃねぇんだけど」
「はぁ、それじゃ何ですか? 兄弟っていうのは?」

「なんだ、……お前、律子とやっていたんだろ」

「へっ!」

思わず変な声を出してしまった。ま、まさか律ねぇ、そんなこともこの人に元カレに暴露していたのか!
「いや、彼奴から直接聞いたわけじゃねぇんだけどな、なんとなくわかんだよ。彼奴がお前のこと話すときのその、しゃべり方とか、仕草でな」

「ゲッ! マジ……」
「んでもって俺を振ったのもまぁ、確かによう、俺はあいつより音楽の方を優先にしちまっていたから愛想つけられたんだろうけど、好きな人が出来たって言われたときはちょっとショックだったな」

「それって……」
「お前の親父さんだっていうのがわかったのは別れてからだ。で、その息子に手を出すとは彼奴もなんだ好きもんだからなぁ。でもいい体してただろう律子の奴。大学時代はミスコンで優勝もしてんだぜ」

「はぁ―。……そのす、すみません」
「はぁ、なんで謝るんだ?」

「………でも、その、なんというか、親子でごめんなさいします」
「あはははは、そんなの気にもしていねぇよ。ま、でもこれで兄弟確定したな」

「み、みたいですね」
ホント顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。
こんな話こういう場所でしなくてもいいのに、してしまった感が否めない。

「ま、恋愛は自由だ。誰が誰を好きなろうがそれは自由だ。だけど、それが思い通りになるかどうかは、わからんもんだ。でもな、その想いを抱き続けたまま、その想い人に伝えなければ、それはただの片思いだ。Unrequited love. ……片思い。それは自己満足終わらせるにはあまりにも空しいと俺は思う。……例え、言葉にしなくても、通じ合えていたとしても、はっきりと言葉にして伝えないといけないことなんだと俺は 思っている。此奴は……響音は、はっきりと恵美にそのことを伝えていたのかどうかは、俺にも分からねぇけどな」

先生はちらっと腕時計を見て。
「さぁてと、そろそろ帰るか。また来るからな――――――響音」

そう言って、再び墓石に手を合わせ、僕らはこの場を後にした。

車に乗り込み、そのまま帰るのかと思っていたが
「なぁ、笹崎。いや結城だな。俺のことも頼斗でいい。あ、でも学校じゃ一応先生はつけといてくれねぇか。なんかほかの生徒に示しがつかねぇからな」

「いいんですか?」
「いいも何も、ここまで来ちまったんだ、もう生徒と教師の間でじゃ済まねぇだろ」

なんか頼斗さんが言うと、いけない関係のように聞こえてしまうのが怖い。言っとくけど、僕らはBLの世界には絶対に入らない。いや、入る要素はないし、そっち方面は全く興味がない。

「それじゃ、そうします。頼斗さん」
「おう!」
「ついでにお兄さんともつけましょうか?」
「いや、待て。それは遠慮しておく」
さすがに照れたんだろうか。はにかんだ顔が可愛い。

「ところでさ、これから俺の実家によって行くけどいいだろ。顔見せねぇとうるせぇからな」
「僕も一緒でいいんですか?」
「ああ、構わねぇ。むしろ幸子さちこさんは歓迎してくれるだろな。お前のこと」

「幸子さんって」
「親父の後妻。そして響音の母親だ。会ってびっくりするなよ」

「どういうことですか?」
「ま、行ってみりゃ、わかるって」

そのまま車は町中を走っていく。
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