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ギフト

迂闊

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使いの人が馬車の扉を開けてくれたのでお礼を言いながら乗り込む。中から手が伸びてきて私を乱暴に掴んだ。

反射的に手を払い除けたけど、他の手が私の服を掴んできて馬車の中に引き込まれてしまった。
すぐに服を掴んでいた手を取って関節を極めて逃れようとするも、目の前に手の平をかざされる。

『スリープ』

カウンターマジックリングが作動して相手が崩れ落ちる。

「何ですか一体!?」

後ろから強い衝撃を受ける。
使いの人が私の背中を蹴ったのだ。馬車の床にうつ伏せに倒れこんでしまう。起き上がろうとするも背中に重たいものがのし掛かる。誰かに押さえ付けられている…!

「ったく、参ったぜ。まさかこんな物を持っているとはなぁ。」

指で腕輪をクルクルと回して笑っている男。私のカウンターマジックリングだ。いつの間に…!

「今度こそ眠ってもらうぞ。」
「《イースイクアリィ…」

口を塞がれた!

「よせよせ…。もう抵抗は無意味だ。怪我するだけだから動くなよ?」

チクリと首元に痛みが走る。何かを刺された…。
インベントリからカウンターマジックリングを出して…いや、ノスフェランさんかフィオレさんに連絡を……。
あれ……力が入らない…。
ダメだ…意識を失っちゃ……。

ーーーー

『ミナ!ミナ!しっかりして!!』
「う……あ…れ…?」
「良かった。お身体に異常はありませんか?」
「気が付いたんですね!良かった…。」

目を開けるとそこは町の大通りだった。東区から中央区にへの途中かな。
フィオレさんに人の姿のウルちゃん、ユキさんも私を心配そうに覗き込んでいる。人集りもできていた。
身体が動かない。

近くにはバラバラになった馬車があり、すぐそばには老人…ノスフェランさんが、座り込んでいる3人の男達の前に立っている。

『さて、あなた方の主人はどなたでしょうか?素直に話せば楽に死なせてあげましょう。』
「主人?何のことだ?」

手をヒラリと首の前で一閃。男の首がノスフェランさんの手の上に乗っていた。
切り口から血は出ない。

「な、なんだ…!?俺はどうなっているんだ!!?」
「首が…!首が喋って…!!?」
『素直にお話し頂ければこの様な姿にならずに済んだのに…。』

首の無い身体の足に魔力で作った剣を突き刺す。

「ぎゃあぁぁぁぁっっ!!!」
『痛いでしょう?痛覚は残してあります。どうです?自分の身体を刻まれるのを見る気分は?』
「や゛め゛で ぐ だ ざ い゛!!」
『では教えて下さい。あなたの主人はどなたですか?』
「でぃるーん侯爵でずぅ……」
『よく出来ました。』
「うぎゃぁぁぁぁぁっっ!!?」

魔力剣で足を細かく刻んでいる。
ノスフェランさん…やり過ぎだよ。死んじゃうよ。

『今から侯爵の所に向かいます。この3人は連れて行きますね。』

そう言って残り2人の首も刎ねた。2人とも首は生きている…。3つの喋る首を持ったノスフェランさんは、そのまま地面に沈んでいった。

「ウルちゃん…ノスフェランさんを止めて…。」
「いえ、ミナ様。私も怒っているのです。彼奴がやらないのなら私がこの街ごと消し炭にしてやりましょう。」
『ミナはアイツらに攫われたんだよ?可哀想なんて思っちゃダメだよ。二度とこんな事が出来ない様に徹底的にやらないと!』

人集りを掻き分けて兵士達がやってくる。

「何の騒ぎだ?」
「隊長!人が3人死んでます!」
「貴様らがやったのか?」

「黙れ人間!我らの主人、ミナ様が襲われたのだ。我はウルディザスター。ミナ様に付き従う者。そこの3人は今し方もう1人の従者が連れて行った。」
「何…?何を言っている?」
『つまり、あたし達は被害者ってことだよ!話のわかるエラい人を連れてきな!でないと大変な事になるよ!』

ウルちゃんとフィオレさんが物凄い剣幕で兵士の人を威圧している。
兵士の人達はガクガクと震えながら地面に座り込んでしまった。

「ミナさん、あとはウルちゃん達に任せましょう。」
「ミナ!無事か!?」

ルーティアさんが空から降りて来た。

「ヘルプが教えてくれた。みんなこっちに向かっている。」

そうだったんだね。ヘルプさんありがとう。

程なくしてミルドさん、ダキアさんにアリソンさんにクロウさん、少し遅れてイクスさんがやってきた。

状況をユキさんが説明してくれている。

「とにかく宿に戻ろう。」
「そうだな。」

ダキアさんが私を抱きかかえて連れて行ってくれる。ユキさんとフィオレさんはここに残るそう。事態の説明をするのだとか。ウルちゃんは王様の所に行ってくると言って飛んでいってしまった。

「しかし侯爵か。…処置無しだな。」
「ノスフェランにやられちゃえばいいよー。」
「この国の為に頑張っているミナさんを攫おうだなんて、許せませんね。」
「ノスフェランやウルが動かなければ俺が殺しに行っていた。」
「全くだ。しかし1人になった所を狙うとは…ずっと機会を伺っていたという事か。」

ダキアさんの腕の中で揺られていたらまた気が遠くなってきた。やっぱり何か薬を打たれたんだ…。迂闊だった……。

ーーーー

目が覚めたら朝だった。枕元にはウルちゃんが猫の姿で丸くなって寝ている。ユキさんは…いない。

[意識を失ったあと、宿に戻りエリーゼが来て治療をしてくれました。毒は消えています。ユキは現在樹海の迷宮にて収容者の管理補佐を行なっています。]

…そうなんだ。私も行こうかな。

「おはようございます。ミナ様。」
「おはようウルちゃん。昨日はありがとう。」
「いいえ、お守り出来なくて申し訳ありません。」

人の姿に変身して服を着始める。まだうまく着られないみたいなので手伝ってあげた。

私も着替えて部屋を出る。廊下にはエリーゼさんがいた。

「…おはようございます。」
「エリーゼさん、おはようございます。昨日は治療をしてくださってありがとうございました。」
「いえ…その、申し訳ありません。」
「エリーゼさんが謝る事じゃないですよ。」
「いえ!私達がもっと注意しておくべきでした。」
「いやいや…そんな事はないですよ。私も不注意過ぎました。もう手出しされないだろうって油断してたし、自分の身は自分で守れるって過信してました。」
「とにかく無事で良かったです。今後は私が警護に入ります。」
「必要ない。我が居る限り二度とあのような事は起こらない。」
「…それでも、何かのお役にたてるかもしれませんので、警護させてください。」
「くどい!」
「ウルちゃん、エリーゼさんに失礼だよ。」
「…失礼しました。」
「エリーゼさん、ずっと起きてたんですか?」
「はい。」
「ウルちゃんもいるので大丈夫ですから、少し休んで下さい。」
「…はい。」

肩を落として帰っていくエリーゼさん。

…なんか様子が変だけど、何かあったのかな…?
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