買った天使に手が出せない

キトー

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番外編SS

乗馬の後に(&コミカライズのお知らせ)

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「すごい……とても、おっきいです」

「ああ」

「それに……きもちいい……」

「んぐ……っ、あ、ああっ、そう、だなっ」

 零の言葉に悶えるダイヤだが、けっして卑猥な行為をしているわけではない。卑猥なのはダイヤの脳内だけだ。
 彼らは今、乗馬をしているのだから。

 数日前、零はダイヤから気候の安定した季節になったからと馬での遠出を提案されたのだ。
 乗馬などした事がない零は悩んだが、ダイヤがどうしてもと誘うので了承した。
 その際、馬が未経験であると念を押したが、ダイヤは笑って大丈夫だと答えた。
 そして、今に至るわけである。

「真っ白でとても綺麗な子ですね」

「あぁ。やはり天使には白が似合うと思って特別に取り寄せた」

「天使をイメージしてるんですか? 確かに天使のように綺麗です」

「そうだな、良く似合っている」

 話が噛み合ってませんな、と言いたげなジンラミーだったが、そこは口に出さないのが彼である。
 二人乗りをするダイヤと零。その隣では茶色の馬にまたがるジンラミー。
 そして数人の護衛も彼らを馬で追う。

 零達が居るのはシダーム家の別荘の一つ。
 建物も立派ながら建物以外の敷地もとても広い。
 なんせ敷地内に森も草原も川もあるのだから。
 そしてこれまた立派な馬小屋が数個。そのどれもがそこらの人が暮らす家より立派だ。
 まるで馬の為にあるような別荘だが、あながち間違いではないだろうと零は思う。

「零。慣れてきたならこのまま付近の村に行ってみないか? 馬でしか行けないような山奥にあるんだが、面白い工芸品を作ってるんだ」

 ダイヤの話に頷く零を見て、数人の護衛が集団から外れる。あらかじめ村人に話を通しに行くためだ。
 そのまま三十分ほど乗馬を楽しみ、ティータイムを挟んで再び一時間ほどの馬を走らせた。

「零、楽しいかい?」

「はい! とっても気持ちいいです」

「そ、そうか。気持ちいいか……」

 馬の上、いつもと違う景色にはしゃぐ零だったが、なぜだか乗馬に慣れているはずのダイヤはどこかぎこちなかった。
 零の気持ちいい、の言葉に過剰に反応するのにも理由がある。
 乗馬は馬の動きに合わせて腰を上下に動かす必要がある。
 その腰使いはまるで夜の秘め事を連想させるものなのだが、当然ながら零が昼間からそんな邪な事柄を連想するはずもない。
 だが、零を後ろから抱えるように乗馬をしているこの男は、ハッキリしっかり連続している。
 腰をグン、と前に動かす度に、零の小さくて柔らかな尻に当たるのだから。
 なんなら途中からはわざと腰を押し付けていた。まるで行為の最中のように。ずいぶん前からムラムラしっぱなしである。

「……なぁ零。初めての乗馬で疲れたろう? 村についたらまずは宿に──」

「村の店じまいは早いですからな。村に着いたなら早めに露天を見て回るのが宜しいかと」

「だが零も疲れて──」

「僕なら大丈夫です! この子も素人の僕に気遣ってゆっくり歩いてくれているんですよね? だから全然疲れてませんよ」

「そうか……」

 流石に馬の上で零の服をひん剥くわけにもいかず、しかし下半身はイライラするばかり。
 なのでなんとか情事にもつれ込もうとするダイヤだが、ジンラミーが黙っているはずもない。いつものごとく撃沈してうなだれた。
 そうこういている間に目的の村に着く。

「広いですね。村って聞いたからもっと小さな所を想像していました。それに不思議な香りがします」

「工芸品を焼いている匂いだろう。塗料も独特の物を使っているらしいからね。ところで疲れたなら……」

「大丈夫です!」

「……うん」

 密かに落ち込むダイヤの隣で、零は興味深そうに周りを伺う。
 馬が主な移動手段の村だからか、道は石畳ではなく地面を凹凸のないよう均していて、あちこちに馬駐めがあった。
 そして何より特徴的なのは、建物だ。

「……真っ白だ……」

「あぁ、綺麗だろう?」

 等間隔で建てられた家や店。そのどれもが見事なほど真っ白で、珍しい光景に零の目を楽しませる。
 窓は小さく真四角で、まるでファンタジー世界のようだと零は思った。

「この村の付近では独特な石が取れるようでね、加工すると白く美しいだけでなく、丈夫で雨風を防いで物を長持ちさせるらしいよ」

「わぁっ」

 建物にもすべて石を加工した塗料が塗られているらしい。
 踏み固められた土もどこか白っぽく、昔テレビで見た異国のようだと零は見とれる。
 そんな美しい村から小太りの男が走ってくる。やや腹の出た年配の男は零達の前で立ち止まると、息が整う前に囃し立てた。

「シダーム様! お出迎えが遅くなり申し訳ありません……っ、ようこそお越しくださいました! これから私村長がお供いたしますので何なりとお申し付けくださいませ」

「では二人っきりでゆっくり休める場所を──」

「本日は工芸品を拝見したく参りました。さっそく宜しいですかな?」

「もちろんですとも! 今すぐご案内いたしましょう」

「……」

 どうやらシダーム家の者が立ち寄ると話を聞き、慌てて飛んできたようだ。
 息を切らしながらもペコペコと頭を下げる男は「本日はお日柄もよく」だとか「娘のミリナも年頃で」などなど雑談をまじえて美しい村を案内する。
 やたらと自分の娘を褒めるので、よっぽど娘さんが可愛いのだな、と零は微笑ましく思った。
 もちろん零意外の者はそうは思わなかったが。

「こちらが最も新しい工房でございます。二年前に改築いたしまして、以前より数倍の広さになっておりす。ここからは私の娘が案内を──」

「いやここまででけっこうだ。案内感謝する」

「倉庫はあちらですな。長居をするつもりはございませんのでどうぞ村長はお気にならさず」

「そ、そうでございますか……」

 ダイヤとジンラミーからきっぱり断られ、肩を落とす男の側を抜けて工房に入る。

「まったく、あの男も諦めが悪い……」

「そのようですな」

「諦め?」

「なに、零が気にする事ではないさ」

「そうですか」

 ダイヤ達の様子が気になったが、気にするなというようにダイヤから肩を抱かれたのでそれ以上は気にしなかった。
 それよりなにより、零は目の前の光景に気を取られた。
 ドーム型の工房もやはり真っ白だが、中はとてもカラフルだったからだ。

「凄いっ、こんなに鮮やかなんですね……っ」

 中には無数の棚が置かれており、すべてにぎっしりと工芸品が並ぶ。
 どうやら焼き物のようだが、そのどれもこれもが鮮やかな塗料が塗られ美しかった。

「元が白く焼き上がるから色が映えるんだ。それにかなり丈夫だから繊細な細工もできる。他国では高く取り引きされている物もあるよ」

 焼き物は皿や花瓶などの実用品からオブジェのような美術品まで様々だった。
 ダイヤが好きに見て回って良いと言うので、零は服の裾が引っかからないよう気をつけながら棚に近づく。

「綺麗だ……それに細部までよくできてますね」

「そうだな、とても綺麗だ」

 繊細な幾何学模様で彩られた工芸品はすべて手作業で、一つとして同じ物はない。
 親指ほどの小さな猫の置物ですら細部まで作り込まれ、今にも動き出しそうだ。

「可愛い……」

「可愛いな……」

 美しい物の前で感嘆の声を漏らす零。その隣で、ダイヤもまた同じように声を漏らした。
 ただし、同じ言葉を吐く二人だがやや視線の向きは違っていた。工芸品に釘付けの零と、そんな零に釘付けのダイヤだったからだ。

「──……お父さん」

「どうしたミリナ? 早く行ってきなさい」

「あの二人の間に私が入って行けっての?」

「そうだ! 自信をもてミリナ、お前は美しい。きっとダイヤ・シダーム様も今のお前を見ればあんな小僧より──」

「お父さんの目が節穴だって事は良く分かったわ」

「み、ミリナ!?」

 そんな二人を遠目に見ていた少女は呆れの溜め息を一つ吐き、やってらんないわと言いたげに去っていった。
 慌てて追いかける父親、もとい、村長は、その後数日娘から口を聞いてもらえなかったとか。


 * * *


「楽しかったかい?」

「はい! 全部初めての事ばかりで楽しかったです」

「そうか、良かったよ」

 日も暮れ夕食も済ませた二人は、大理石の広いテーブルに購入した工芸品を並べて思い出話に浸る。
 零があまりにも熱心に工芸品を見ていたので、ダイヤも張り切って購入した。
 もし馬車があったなら荷台いっぱいに買っていた事だろう。馬で良かったと零はひっそり思う。

「この竜も良くできてますよね。てっきり置物かと思ったら花瓶でびっくりしました」

「ハートの部屋にキャンドル立てがあるだろう? あれも確かここの工芸品だったな」

「でしたらこの花を模したゴブレットも気に入ってもらえますかね」

「もちろんだ」

 あれはクラブに、これはいつも世話になっている侍女に……と、零は買った土産を整理しながら楽しそうに笑う。
 そんな零の腰を引き寄せて、ダイヤも幸せそうに目を細めた。

「──それと、これはダイヤ様に……」

「私かい?」

 そんな、満足気にしていたダイヤへ、零はそっと一つの工芸品を手渡した。
 それは手のひらにほどの大きさの置物だった。
 少女とも少年ともつかない美しい姿の人形で、背中には背丈と同じほどの翼が生えている。

「──天使……?」

「はい。えっと、ダイヤ様はよく天使の話をされてるから、お好きなのかなって……」

「……っ、あ、あぁ! 大好きだ愛してるっ!!」

「いささか様子がおかしくなるほどお好きなようですな」

 震える手で目をかっぴらくダイヤに、ジンラミーは専用のケースをさっそく特注させる。
 そして零はダイヤの好意的な反応に胸を撫で下ろした。

「良かった、僕もたまにはダイヤ様に何か贈りたくて……あ、羽の部分が欠けやすいそうなので優しく扱ってくださいね」

「もちろん何よりも大切に丁寧になおかつ優しく扱うとも! なので今夜──」

 可愛い恋人の可愛い行動。そして思春期の青年のように年がら年中恋人を求めている男。
 もう邪魔するものは何も無い。ここはやかましい妹弟も居ない。
 このまま旅の余韻に触れながら二人でキャッキャウフフしてる間にしっぽりと──いかないのがダイヤという男である。

「──零、今日は流石に疲れたのではございませんか?」

「えーっと、はい。実は内ももが筋肉痛になりそうです……」

「え」

 零の返事に驚いたダイヤだったが、はにかみながら柔らかな内ももを擦る零の手に、ついゴクリと喉を鳴らす。

「な、なら私がマッサージを──」

「素人が下手にするとかえって傷つけますぞ。腕の確かな者を待たせておりますので」

「…………」

 零の腰を引き寄せていたダイヤの手を外させ、ジンラミーはさっそく零を立たせて別室に誘導する。
 なんとか引き止めたいダイヤだが、可愛い可愛い恋人が体が辛いとは言っているのだから引き止めるわけにもいかない。

「……マッサージ師は男じゃないだろうな?」

「年配の女性ですとも」

 悔しそうに溢した不平へ、ジンラミーは当然ですと言わんばかりに目配せをして歩き出す。
「馬に乗るって大変なんですね」と言いながら去っていく可愛い後ろ姿を、ダイヤは涙を飲んで見送る事となる。
 零が馬に慣れるまで、ダイヤのおあずけは続いたのだった。

【おわり】


 ここまでお読みいただきありがとうございます。
 そしてなんと、【買った天使に手が出せない】のコミカライズが本日5/16(木曜日)から連載開始となりました!アリガタイ…
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