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人混みの中をすいすい歩いていく。日野くんはいろんなことに慣れてる。私だったら何度か人にぶつかりかけてる。
繁華街の真ん中にある広い喫茶店に入って席につくと、日野くんはお店に電話してバイトを休んだ。
「ごめんなさい。私のせいで」
「俺が勝手にしてることだから気にするな。それよりお前、家はいいのか?」
お店の中の時計を見ると十八時を過ぎている。
「門限七時だけど、どうせここから電車とバスじゃ間に合わないし」
怒られるのはもちろん嫌だけど、それ以上に美波に拒絶されて、親友を失ったことのショックで、どうなってもいいやという気持ちが大きい。
「なら少し遅れるって電話しろよ。つーか送ってくよ。どこだ?」
最寄りの駅と団地名を告げるとバイクなら間に合うと言って慌てて店員のお姉さんに謝って私を連れて店を出た。
「門限あるなら早く言えよ」
「忘れてたんだもん」
「わからんでもないけど、忘れんな」
「うん。ごめんね。日野くんはしっかりしてるね」
「してねーよ。お前がふわふわしてんだろ」
「ごめんなさい」
「俺に謝られてもなぁ。あ。そうだ。明日お前のトモダチになんで俺が絡んでんのか訊かれたら付き合ってるとでも言っとけば」
「え。そんなことまでしてもらっちゃ悪いし。日野くん可愛い彼女できなくなるよ」
「お前がなればできるじゃん。可愛い彼女」
何気ない口振りで乙女心を乱さないでほしい。ドキドキして答えが浮かばない。私がボーッと日野くんを見ていると、警察官がやってきて日野くんに声をかけた。
「ちょっといいですか? 今何してるんですかね? 身分証あります?」
「今から送って帰るところです」
日野くんはめんどくさそうに財布から免許証を出した。
「え。君も未成年じゃないか。こんな時間にこんなところにいちゃ駄目なの知ってるよね?」
「はい。今から帰るとこです」
「ちゃんと帰るんだよ」
「はい。すみません」
免許証を返してもらうと、再び私の前を歩き出した。日野くんが壁みたいで人が避けていく。
「お前が制服だから職質受けたじゃねーか」
「それだけじゃないと思うけど……」
「なんだよ、その言い方。別に理由あるかよ。つーか、さっきの話どーするよ? 好きなやつとかいんの?」
「いない……。てか、日野くんはそれいいの?」
「よくないならハナからこんな提案しねーし」
「好きとかじゃないじゃん。お互いのこともよく知らないし」
「最初は誰だってそうだろ。つーか、ふりだからな?」
「わかってる。でもそこまでしてもらうの悪いし」
「俺が相手なのが嫌なんだろ」
「嫌じゃないよ! 嫌じゃないけど、ふりって言われてもよくわかんない……。誰かと付き合ったことなんてないし」
「それっぽく振舞って俺といれば、あの金髪のガキみたいなのは近寄ってこねぇ。悪い話じゃねえと思うけど」
「そんなふうに日野くんを利用するのって、失礼じゃない?」
「利用されっぱなしのくせに、人の事気遣ってんじゃねーよ」
「利用なんてされてない。私、なんの役にも立ってないもん……」
「あんな奴の役に立つ必要があるのか?」
「だって……、友達だもん……。美波は、私の友達だから……」
なに言ってんだろ。私。これじゃ日野くんを困らせてしまう。
「ごめん……。日野くんにはどうでもいい話だよね……。もう帰ろう」
日野くんは何も言わずに、駅の駐輪場まで行き、団地のそばの公園まで乗せてってくれた。門限十五分前。
「私の家、ここまっすぐ行ったあの棟の二階」
日野くんの家を見たあとじゃぼろぼろすぎて恥ずかしい。
「ここで見てるから走って帰れよ」
「いいの?」
「門限に間に合わんくなるぞ」
「うん。あの、日野くん。送ってくれてありがとう。ごめんね、こんなとこまでら送ってもらっちゃって……。迷惑ばっかりかけて……」
「俺が首突っ込んだだけだろ。つーか、お前」
「お前じゃなくて秋野由恵です」
私が言うと、日野くんは気まずそうに言葉を詰まらせて、咳払いをする。
「……俺が秋野のことほっとけねぇんだ。利用するとかしねえとか考えなくていい。迷惑なら近づかねぇけど」
「あ……、迷惑とかじゃないよ」
「じゃあ、さっきの話、どうする?」
「さっきの話……? あ、私と日野くんが付き合ってるふりする……?」
「まあ、……それ」
街灯に照らされた日野くんの顔が赤く見えるのは気のせいだろうか?
「私でいいの? からかわれたりするんじゃない?」
いや、日野くんをからかう……。そんな命知らずいるかな? と思い直す。
「俺は、いい……。でも、秋野が、嫌なら、話は別だし、もしからかわれたり、嫌な思いすることがあったらすぐに言ってくれりゃ、何とかする」
「暴力沙汰は困るんだけど……」
「俺だって退学は困るからやんねぇよ」
意外な答えに笑ってしまった。
「日野くんも退学は困るんだね」
「当たり前だろ。中卒なんかシャレになんねぇよ」
「意外」
「俺をなんだと思ってんだよ」
「それは言えない」
「言えない程かよ」
日野くんが笑った。意外にも可愛い笑顔をしている。強面なのにどういうこと?
「じゃあ、これから私、日野くんのカノジョ?」
「……っ」
日野くんが驚いたような顔をする。
「……のフリ」
ドン引きされるのは嫌だから、慌てて付け足す。
「……ん」
日野くんは曖昧に頷く。
「うん」
私も頷く。
「じゃ、また明日」
「また明日」
お互いに手を振って、言われた通りに走った。
階段をあがって家の前の踊り場で公園方面を見ると、まだ日野くんが立っていて、小さく手を振ってくれた。手を振り返すと、シッシッと追い払う仕草を見せる。
玄関に入ると、日野くんのバイクの音が聞こえた。
「ただいま」
一人で立っていっぱいの玄関と廊下の灯りをつける。まだお母さんも弟も帰っていない。
あっという間にバイクの音が遠くなったのが、少し、寂しいと思った。
少しの感傷を打ち消して、お風呂を掃除して、夕食の準備にとりかかる。
だしパックを雪平鍋に入れ、沸騰直前に刻んだ大根と豆腐を加える。塩コショウをした豚ロースに小麦粉、卵、パン粉の順でつける。隣の天ぷら鍋はいい感じの温度だった。衣をつけた豚肉を油に落とすと、カラカラと弾ける音がした。二枚投入して、揚がるのを待った。
日野くんは学年内でも有名だ。中学生のころに高校生相手に喧嘩して勝ったとか、暴走族とつながりがあるとか、もっと大きな怖い人たちと繋がっているとか、一年生の時にクラスメイトを殴って謹慎処分を受けたとか全然いい話はない。そんな話は苦手だ。だから近づこうとも思わなかったのに。人を殴ったり、力で押さえつけるなんて、恐ろしいと思う。
けれど、あの時日野くんがいなかったら、私は人生最悪の事態に遭っていた。カラオケボックスにいた四人を思い浮かべる。
美波が一緒にいて本当に楽しいのは、私じゃなかった。考えないようにしていたけれど、やっぱり駄目だった。足枷をつけられたかのように気持ちが沈んだ。
明日から、美波はもう私と一緒にいてくれないかもしれない。私はつまらない。勉強がずば抜けて出来るワケでもないし、気の利いたことも言えないし、おしゃれでもない。金髪も似合わないし、煙草を吸う勇気もない。
美波がいなくなったら私は一人。学校で、あんなひとがいっぱいに居るところで何時間もひとりぼっち。もしかしたら、友達じゃなくなった私は――。そこまで考えて体が震えてきた。無関心が一番怖いと聞くけれど、私は悪意が怖い。こちらに非がなくても集団の悪意は底なしの地獄を生み出す。
引きずり込まれると逃げ場はない。謂れのない誹謗中傷で死にたくなることもあった。もうあんな日々に戻りたくない。
玄関から鍵が開く音がして、マイナスの思考が止まった。
「ただいま」
「お、おかえり」
鍋の中のとんかつをひっくり返す。
「晩飯なに?」
「とんかつとお味噌汁」
「ただいま」
お母さんがあとから入ってきた。仕事帰りに弟の塾の迎えに行くのが日課だ。疲れた顔をしている。
「なあに由恵、お風呂沸かすの忘れてるじゃない」
「あ、ごめん。掃除してそのままだった」
「もー。お手伝いくらいしっかりしてよね」
「ごめんなさい」
トンカツをバッドにあげて、キャベツの千切りにとりかかる。
「あー。疲れた」
お母さんが言った。
「由恵は学校から帰ったら時間あるでしょ? どうしてまだご飯の準備途中なの? お風呂も忘れてなにしてたの?」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃなくて。時間の使い方を聞いてるの。だいたい由恵は時間の使い方が下手なのよ。だから第一志望にも受からなかったんじゃないの?」
私はお母さんの望む学校に入れなかった。だから弟は中学に入ると同時に塾に通うことになった。私がしっかりしていなかったせいだ。
「それより腹減った。ご飯食おうよ」
弟の満月が私の隣に立ってお味噌汁の鍋を覗き、
「その間風呂沸かせばいいじゃん。スイッチ押すだけなんだし」
といいながら浴室へ向かった。
「満月はお姉ちゃん想いね」
お母さんは嬉しそうに微笑んでいる。
「うん。そうだね」
キッチンペーパーを敷いたお皿の上にとんかつを乗せる。満月が二枚。お母さんと私が一枚ずつ。お父さんは県外に単身赴任をしていて、月末に一度帰ってくる。
お母さんは、お父さんと私のマイペースな行動が好きじゃない。私とお父さんが居るとお母さんをイライラさせてしまう。
夕食を済ませて自分の部屋に戻ってケータイを開いた。着信もメッセージもない。胃のあたりに鉛が入ったみたいに重くなる。このままケータイばかり気にしていても、落ち込むだけと自分に言い聞かせて、数学の課題に取り掛かった。
繁華街の真ん中にある広い喫茶店に入って席につくと、日野くんはお店に電話してバイトを休んだ。
「ごめんなさい。私のせいで」
「俺が勝手にしてることだから気にするな。それよりお前、家はいいのか?」
お店の中の時計を見ると十八時を過ぎている。
「門限七時だけど、どうせここから電車とバスじゃ間に合わないし」
怒られるのはもちろん嫌だけど、それ以上に美波に拒絶されて、親友を失ったことのショックで、どうなってもいいやという気持ちが大きい。
「なら少し遅れるって電話しろよ。つーか送ってくよ。どこだ?」
最寄りの駅と団地名を告げるとバイクなら間に合うと言って慌てて店員のお姉さんに謝って私を連れて店を出た。
「門限あるなら早く言えよ」
「忘れてたんだもん」
「わからんでもないけど、忘れんな」
「うん。ごめんね。日野くんはしっかりしてるね」
「してねーよ。お前がふわふわしてんだろ」
「ごめんなさい」
「俺に謝られてもなぁ。あ。そうだ。明日お前のトモダチになんで俺が絡んでんのか訊かれたら付き合ってるとでも言っとけば」
「え。そんなことまでしてもらっちゃ悪いし。日野くん可愛い彼女できなくなるよ」
「お前がなればできるじゃん。可愛い彼女」
何気ない口振りで乙女心を乱さないでほしい。ドキドキして答えが浮かばない。私がボーッと日野くんを見ていると、警察官がやってきて日野くんに声をかけた。
「ちょっといいですか? 今何してるんですかね? 身分証あります?」
「今から送って帰るところです」
日野くんはめんどくさそうに財布から免許証を出した。
「え。君も未成年じゃないか。こんな時間にこんなところにいちゃ駄目なの知ってるよね?」
「はい。今から帰るとこです」
「ちゃんと帰るんだよ」
「はい。すみません」
免許証を返してもらうと、再び私の前を歩き出した。日野くんが壁みたいで人が避けていく。
「お前が制服だから職質受けたじゃねーか」
「それだけじゃないと思うけど……」
「なんだよ、その言い方。別に理由あるかよ。つーか、さっきの話どーするよ? 好きなやつとかいんの?」
「いない……。てか、日野くんはそれいいの?」
「よくないならハナからこんな提案しねーし」
「好きとかじゃないじゃん。お互いのこともよく知らないし」
「最初は誰だってそうだろ。つーか、ふりだからな?」
「わかってる。でもそこまでしてもらうの悪いし」
「俺が相手なのが嫌なんだろ」
「嫌じゃないよ! 嫌じゃないけど、ふりって言われてもよくわかんない……。誰かと付き合ったことなんてないし」
「それっぽく振舞って俺といれば、あの金髪のガキみたいなのは近寄ってこねぇ。悪い話じゃねえと思うけど」
「そんなふうに日野くんを利用するのって、失礼じゃない?」
「利用されっぱなしのくせに、人の事気遣ってんじゃねーよ」
「利用なんてされてない。私、なんの役にも立ってないもん……」
「あんな奴の役に立つ必要があるのか?」
「だって……、友達だもん……。美波は、私の友達だから……」
なに言ってんだろ。私。これじゃ日野くんを困らせてしまう。
「ごめん……。日野くんにはどうでもいい話だよね……。もう帰ろう」
日野くんは何も言わずに、駅の駐輪場まで行き、団地のそばの公園まで乗せてってくれた。門限十五分前。
「私の家、ここまっすぐ行ったあの棟の二階」
日野くんの家を見たあとじゃぼろぼろすぎて恥ずかしい。
「ここで見てるから走って帰れよ」
「いいの?」
「門限に間に合わんくなるぞ」
「うん。あの、日野くん。送ってくれてありがとう。ごめんね、こんなとこまでら送ってもらっちゃって……。迷惑ばっかりかけて……」
「俺が首突っ込んだだけだろ。つーか、お前」
「お前じゃなくて秋野由恵です」
私が言うと、日野くんは気まずそうに言葉を詰まらせて、咳払いをする。
「……俺が秋野のことほっとけねぇんだ。利用するとかしねえとか考えなくていい。迷惑なら近づかねぇけど」
「あ……、迷惑とかじゃないよ」
「じゃあ、さっきの話、どうする?」
「さっきの話……? あ、私と日野くんが付き合ってるふりする……?」
「まあ、……それ」
街灯に照らされた日野くんの顔が赤く見えるのは気のせいだろうか?
「私でいいの? からかわれたりするんじゃない?」
いや、日野くんをからかう……。そんな命知らずいるかな? と思い直す。
「俺は、いい……。でも、秋野が、嫌なら、話は別だし、もしからかわれたり、嫌な思いすることがあったらすぐに言ってくれりゃ、何とかする」
「暴力沙汰は困るんだけど……」
「俺だって退学は困るからやんねぇよ」
意外な答えに笑ってしまった。
「日野くんも退学は困るんだね」
「当たり前だろ。中卒なんかシャレになんねぇよ」
「意外」
「俺をなんだと思ってんだよ」
「それは言えない」
「言えない程かよ」
日野くんが笑った。意外にも可愛い笑顔をしている。強面なのにどういうこと?
「じゃあ、これから私、日野くんのカノジョ?」
「……っ」
日野くんが驚いたような顔をする。
「……のフリ」
ドン引きされるのは嫌だから、慌てて付け足す。
「……ん」
日野くんは曖昧に頷く。
「うん」
私も頷く。
「じゃ、また明日」
「また明日」
お互いに手を振って、言われた通りに走った。
階段をあがって家の前の踊り場で公園方面を見ると、まだ日野くんが立っていて、小さく手を振ってくれた。手を振り返すと、シッシッと追い払う仕草を見せる。
玄関に入ると、日野くんのバイクの音が聞こえた。
「ただいま」
一人で立っていっぱいの玄関と廊下の灯りをつける。まだお母さんも弟も帰っていない。
あっという間にバイクの音が遠くなったのが、少し、寂しいと思った。
少しの感傷を打ち消して、お風呂を掃除して、夕食の準備にとりかかる。
だしパックを雪平鍋に入れ、沸騰直前に刻んだ大根と豆腐を加える。塩コショウをした豚ロースに小麦粉、卵、パン粉の順でつける。隣の天ぷら鍋はいい感じの温度だった。衣をつけた豚肉を油に落とすと、カラカラと弾ける音がした。二枚投入して、揚がるのを待った。
日野くんは学年内でも有名だ。中学生のころに高校生相手に喧嘩して勝ったとか、暴走族とつながりがあるとか、もっと大きな怖い人たちと繋がっているとか、一年生の時にクラスメイトを殴って謹慎処分を受けたとか全然いい話はない。そんな話は苦手だ。だから近づこうとも思わなかったのに。人を殴ったり、力で押さえつけるなんて、恐ろしいと思う。
けれど、あの時日野くんがいなかったら、私は人生最悪の事態に遭っていた。カラオケボックスにいた四人を思い浮かべる。
美波が一緒にいて本当に楽しいのは、私じゃなかった。考えないようにしていたけれど、やっぱり駄目だった。足枷をつけられたかのように気持ちが沈んだ。
明日から、美波はもう私と一緒にいてくれないかもしれない。私はつまらない。勉強がずば抜けて出来るワケでもないし、気の利いたことも言えないし、おしゃれでもない。金髪も似合わないし、煙草を吸う勇気もない。
美波がいなくなったら私は一人。学校で、あんなひとがいっぱいに居るところで何時間もひとりぼっち。もしかしたら、友達じゃなくなった私は――。そこまで考えて体が震えてきた。無関心が一番怖いと聞くけれど、私は悪意が怖い。こちらに非がなくても集団の悪意は底なしの地獄を生み出す。
引きずり込まれると逃げ場はない。謂れのない誹謗中傷で死にたくなることもあった。もうあんな日々に戻りたくない。
玄関から鍵が開く音がして、マイナスの思考が止まった。
「ただいま」
「お、おかえり」
鍋の中のとんかつをひっくり返す。
「晩飯なに?」
「とんかつとお味噌汁」
「ただいま」
お母さんがあとから入ってきた。仕事帰りに弟の塾の迎えに行くのが日課だ。疲れた顔をしている。
「なあに由恵、お風呂沸かすの忘れてるじゃない」
「あ、ごめん。掃除してそのままだった」
「もー。お手伝いくらいしっかりしてよね」
「ごめんなさい」
トンカツをバッドにあげて、キャベツの千切りにとりかかる。
「あー。疲れた」
お母さんが言った。
「由恵は学校から帰ったら時間あるでしょ? どうしてまだご飯の準備途中なの? お風呂も忘れてなにしてたの?」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいじゃなくて。時間の使い方を聞いてるの。だいたい由恵は時間の使い方が下手なのよ。だから第一志望にも受からなかったんじゃないの?」
私はお母さんの望む学校に入れなかった。だから弟は中学に入ると同時に塾に通うことになった。私がしっかりしていなかったせいだ。
「それより腹減った。ご飯食おうよ」
弟の満月が私の隣に立ってお味噌汁の鍋を覗き、
「その間風呂沸かせばいいじゃん。スイッチ押すだけなんだし」
といいながら浴室へ向かった。
「満月はお姉ちゃん想いね」
お母さんは嬉しそうに微笑んでいる。
「うん。そうだね」
キッチンペーパーを敷いたお皿の上にとんかつを乗せる。満月が二枚。お母さんと私が一枚ずつ。お父さんは県外に単身赴任をしていて、月末に一度帰ってくる。
お母さんは、お父さんと私のマイペースな行動が好きじゃない。私とお父さんが居るとお母さんをイライラさせてしまう。
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