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一章
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焦げっぽい茶色の地面に群がる大量の屍。
それは骨だったり、肉だったりした。つまりは魔物たちの死体ということだ。
グリエマを取り囲んだ炎を風魔法で取っ払い、大量の敵を一本の剣と数種の魔法どなぎ倒した後のクロノアは、一体の頭角種と対峙している。
「これで……やっと終わる」
猫背で、首を垂らし上目で敵を見る。素早く納剣したあとで左手に炎を集束させながら、そこからさらなる熱を加えて変色させていく。
まだ、そのままでは射出しない。深紅へと変わった炎を掌の前でドリルのように高速回転させ、攻撃力、或いは突進力を底上げさせる。
体内に残る魔力はもうカラカラだ。
度重なる連戦、そしてグリエマを守るために展開した、炎の結界。
結界と言っても正式なものではなかったため、それを
維持する魔力が必要となっていたのだ。
満を持して発射された火の塊。ぶっ放した瞬間、反動で腕が上方へ吹き飛んだが、それは許容の範囲内だった。
クロノアの意志によって速度が限界ギリギリまで上昇しており、尚且つ旋転によって火力が底上げされていた。
炎弾に命中した頭角種の大蛇は、有無を言わさず頭部を消し飛ばされてしまう。それこそ、抉るような、ネジ跡のようなものを付けて。
「……終わった」
少し移動をしてグリエマの真横に移動すると、クロノアはそう呟いた。
視線の先にはダンジョンの馬鹿みたいに高い天井にある、斧が突き刺さった跡があった。
結論を言うと、クロノアは一人ですべての魔物を蹴散らした。
一匹残らず、無慈悲に。そもそも仕掛けてきたのはあちらなのだから、当然と言えば当然であるが。
時々さっきの毒牙偏蛇《グルウサーペント》のような頭角種も現れたが、
まだまだ成長を続ける己の体と、持ち前の戦闘センスで倒すことを可能としていた。
立て続けの戦闘で魔力の底が見えてきているものの、未だ魔力は健在だ。
体内に眠る魔力は基本、
ある程度個人差もあるが半日程度で回復することとなっている。
更に超越者となった彼はその『自然回復』能力が人一倍強い。
そう、まとめるなら『万能』と言うわけだ。
「はぁ~~~~~~~ある程度、頭角種? も倒せるようになってきたなぁ……」
「……クロノア君」
贅沢に何秒も使って息を吐く。
グリエマはそんな独り言にしては声量が大きすぎるつぶやきのあとで、名前を呼びかけてきた。
「あ、エマさん。もう大丈夫です、魔物は全部倒しておいたので」
「……そうか」
苦しさに快活さを混じらせ、クロノアは言った。
グリエマはそんなクロノアの声が聞こえると、何でもないように短く返事を寄越す。
「君は何者だ?」
「……何者、とは?」
「そのままの意味だ。
君は、何者なんだと聞いている」
「ただの十一歳の少年には、
悪いが私の目には映らなかった。
高い戦闘スキル、そして魔法の応用力。
おおよそ子供が真似できる芸当ではないと思うが」
「――いや、俺はただの子供ですよ」
真剣な眼差しを向けてくるグリエマから、目を逸らすことができなかった。
逸らしたら嘘だと見抜かれる、そう確信していたからだ。
口を結い暫くの間クロノアを凝視した後、もとの軽く楽な体勢へと移行した。
「そうか。ならいいんだよ」
案外すんなりと受け入れたグリエマは緊張の糸が解けたように体をリラックスさせ、腰に着いたポーチから水筒を出してその中に水魔法を注入。
中身を喉に流し込むと、雑に口周りを拭った。
「じゃあ、行こうか。もう体力も回復したからな。
ここに入った人の情報によると、もうすぐで最深部みたいだしな。行方不明者もいるとすればそこだろう」
少し水の残った水筒の蓋を閉め、ポーチへと仕舞う。
「まぁ、といっても情報の量は少ないから、
あまりあてにならないことの方が多いんだが。
途中で退いた人とかが大半らしいしな」
グリエマは前よりかは軽くなった腰を持ち上げて、狭い通路に身を投じに赴く。
(……なんか、この人に隠すのは後ろめたいな。
拾ってもらって挙句保護までしてもらってるし)
クロノアはその後を、へばりつくように追いかける。
足取りは異常なほど軽く、呼吸にはもう余裕ができていた。
その事実は、彼らにできた圧倒的な差を、暗示しているものとも言えた。
(けど、正体をばらした後の反応が、怖い。
どこかに置いて行くんじゃないかって思うと、やっぱり口には出せない)
いや……それでいいのか。嘘を隠したままでいいのか。
こんなに自分を優しくしてくれている人に対して、何かを偽っていていいのか。
いくつもの逆接を繰り広げる彼だったが、結局その事実を告げるという選択に、至ることは無かった。
そして、グリエマの実像が闇に紛れる手前。
彼はある光景とその光景を重ね合わせた。
――数日前に見た夢の、序盤にあった映像。
(……嘘、だろ?まさか――――)
なんとなく、気付いていた。夢の内容が本当なんじゃないかと、彼は心のどこかで直感していた。でも、理解したのはその直前。止めようにも、止められない。
夢が……実現する。
彼は思い詰めた顔で、暗闇に姿を消していった。
それは骨だったり、肉だったりした。つまりは魔物たちの死体ということだ。
グリエマを取り囲んだ炎を風魔法で取っ払い、大量の敵を一本の剣と数種の魔法どなぎ倒した後のクロノアは、一体の頭角種と対峙している。
「これで……やっと終わる」
猫背で、首を垂らし上目で敵を見る。素早く納剣したあとで左手に炎を集束させながら、そこからさらなる熱を加えて変色させていく。
まだ、そのままでは射出しない。深紅へと変わった炎を掌の前でドリルのように高速回転させ、攻撃力、或いは突進力を底上げさせる。
体内に残る魔力はもうカラカラだ。
度重なる連戦、そしてグリエマを守るために展開した、炎の結界。
結界と言っても正式なものではなかったため、それを
維持する魔力が必要となっていたのだ。
満を持して発射された火の塊。ぶっ放した瞬間、反動で腕が上方へ吹き飛んだが、それは許容の範囲内だった。
クロノアの意志によって速度が限界ギリギリまで上昇しており、尚且つ旋転によって火力が底上げされていた。
炎弾に命中した頭角種の大蛇は、有無を言わさず頭部を消し飛ばされてしまう。それこそ、抉るような、ネジ跡のようなものを付けて。
「……終わった」
少し移動をしてグリエマの真横に移動すると、クロノアはそう呟いた。
視線の先にはダンジョンの馬鹿みたいに高い天井にある、斧が突き刺さった跡があった。
結論を言うと、クロノアは一人ですべての魔物を蹴散らした。
一匹残らず、無慈悲に。そもそも仕掛けてきたのはあちらなのだから、当然と言えば当然であるが。
時々さっきの毒牙偏蛇《グルウサーペント》のような頭角種も現れたが、
まだまだ成長を続ける己の体と、持ち前の戦闘センスで倒すことを可能としていた。
立て続けの戦闘で魔力の底が見えてきているものの、未だ魔力は健在だ。
体内に眠る魔力は基本、
ある程度個人差もあるが半日程度で回復することとなっている。
更に超越者となった彼はその『自然回復』能力が人一倍強い。
そう、まとめるなら『万能』と言うわけだ。
「はぁ~~~~~~~ある程度、頭角種? も倒せるようになってきたなぁ……」
「……クロノア君」
贅沢に何秒も使って息を吐く。
グリエマはそんな独り言にしては声量が大きすぎるつぶやきのあとで、名前を呼びかけてきた。
「あ、エマさん。もう大丈夫です、魔物は全部倒しておいたので」
「……そうか」
苦しさに快活さを混じらせ、クロノアは言った。
グリエマはそんなクロノアの声が聞こえると、何でもないように短く返事を寄越す。
「君は何者だ?」
「……何者、とは?」
「そのままの意味だ。
君は、何者なんだと聞いている」
「ただの十一歳の少年には、
悪いが私の目には映らなかった。
高い戦闘スキル、そして魔法の応用力。
おおよそ子供が真似できる芸当ではないと思うが」
「――いや、俺はただの子供ですよ」
真剣な眼差しを向けてくるグリエマから、目を逸らすことができなかった。
逸らしたら嘘だと見抜かれる、そう確信していたからだ。
口を結い暫くの間クロノアを凝視した後、もとの軽く楽な体勢へと移行した。
「そうか。ならいいんだよ」
案外すんなりと受け入れたグリエマは緊張の糸が解けたように体をリラックスさせ、腰に着いたポーチから水筒を出してその中に水魔法を注入。
中身を喉に流し込むと、雑に口周りを拭った。
「じゃあ、行こうか。もう体力も回復したからな。
ここに入った人の情報によると、もうすぐで最深部みたいだしな。行方不明者もいるとすればそこだろう」
少し水の残った水筒の蓋を閉め、ポーチへと仕舞う。
「まぁ、といっても情報の量は少ないから、
あまりあてにならないことの方が多いんだが。
途中で退いた人とかが大半らしいしな」
グリエマは前よりかは軽くなった腰を持ち上げて、狭い通路に身を投じに赴く。
(……なんか、この人に隠すのは後ろめたいな。
拾ってもらって挙句保護までしてもらってるし)
クロノアはその後を、へばりつくように追いかける。
足取りは異常なほど軽く、呼吸にはもう余裕ができていた。
その事実は、彼らにできた圧倒的な差を、暗示しているものとも言えた。
(けど、正体をばらした後の反応が、怖い。
どこかに置いて行くんじゃないかって思うと、やっぱり口には出せない)
いや……それでいいのか。嘘を隠したままでいいのか。
こんなに自分を優しくしてくれている人に対して、何かを偽っていていいのか。
いくつもの逆接を繰り広げる彼だったが、結局その事実を告げるという選択に、至ることは無かった。
そして、グリエマの実像が闇に紛れる手前。
彼はある光景とその光景を重ね合わせた。
――数日前に見た夢の、序盤にあった映像。
(……嘘、だろ?まさか――――)
なんとなく、気付いていた。夢の内容が本当なんじゃないかと、彼は心のどこかで直感していた。でも、理解したのはその直前。止めようにも、止められない。
夢が……実現する。
彼は思い詰めた顔で、暗闇に姿を消していった。
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