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二章
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焚火を前方に、木製の椅子に座り隣り合う二人。
外はいくらか吹雪の勢いが弱まり、気温も以前よりかは上がっている。
クロノアは通常時と遜色ないほどの落ち着きを取り戻し、思い返しはするものの取り乱すようなことはしなくなった。未だ引きづっていることに変わりはないが、彼女の言葉が彼のネガティブな側面を押さえてくれたため、ひとまずは大丈夫だ。
そんな中、先に声を掛けたのは彼女の方だった。
「楽になりましたか?」
「うん、おかげさまで。ありがとう、本当に」
彼女の優しい声色に、クロノアは目を向けて素直な謝辞を述べる。
(……やっぱ、誰かに似てるんだよな)
「そんなに見られると……ちょっと恥ずかしいです」
「あ、ごめん」
赤面して視線を逸らす彼女から、前方で盛る焚火へ咄嗟に目線を変える。
「あの……」
遠慮気味に口を開く彼女は、両手の指先をくっつけ、その中の人差し指を交差し、回転させている。いわゆる指遊びをしていることから、あまり落ち着かない様子だ。
「私……なんでここにいるのでしょうか。私、たしかクラスと魔法学院にいたはずなんですけど、気が付いたら特徴的な目をした大人の人の前にいて……」
「……ファフアル、さん?」
ふと判明した事実。
大人で特徴的な目をしている、と言ったらタイムしかいない。そしてあの場にいた人物は、彼が守り抜こうとした人物、ただ一人。
「あ……はい。それ、私です。どこかでお会いしましたっけ?
お名前とか、聞いてもいいですか?」
彼女は肯定した。その名が、自身が所有するものであると。
「クロノア・ディアムルスです。本当に……覚えていないんですか?」
本名を知らされても彼女の苦い顔は晴れない。むしろ苦みが増してきたとさえいえる。
「……ごめんなさい。学院にもそんな名前の子はいなかったと思います。私が知らないだけかもしれませんけど……」
「そう、ですか……」
「記憶があやふやだからなのかもしれません。思い出したら言いますね」
「……ありがとうございます」
彼は背を猫のように丸くし、床にある凸凹な岩を視界に映す。
(覚えてない……でも、名前は同じ。単なる偶然ってことは絶対にない)
「その人は何か言ってましたか」
彼は真実により近づくため、続けて質問を送った。
「風の音でよく聞き取れない部分もありましたが……確か『罰だからね』
と言っていました」
「罰……」
「物騒ですよね。私、人を殺めたり物を取ったりした覚えはないんですけど……」
(……罰。それが本当だとしたら、何が目的なんだ? 今いる彼女が同一人物なら、何故生かした?)
彼はふと、自分の掌に目線を映してみる。
(……いつもより大きい)
違和感を感じ始めた。
そう……いつもより一回り二回り大きいのだ、手が、指が。
気になって腕や脚、腹筋なども見てみたが、結果は同じだった。
(これが……タイムの言う罰《・》、なのか?)
「あの、どうかしました?」
咄嗟に顔を持ち上げると、不審そうな顔で言った。
彼女は地に着きそうなほど髪が長く、前髪なんかは眼にぎりぎりかからないぐらいの長さがある。眼は琥珀色で、服はところどころ雑に破かれたような跡がある。
「いや、何でもないですよ。気にしないでください」
「……そう、ですか」
「クロノアさんは何か知りませんか? 私たちがなんでここ居るのか、とか」
彼女は続けてそういった。ひどく困惑したように視線を落としてながら。
不安の色が易々と見える。
「……俺も知りません」
クロノアは迷ったが、真実は告げなかった。
言えばどうなってしまうのかわからないのと、目の前にいる彼女が本当にそうなのか、完全な確信が得られなかったからである。
「じゃあ……同じですね、私たち」
彼女は微笑して言うが、気のせいとは形容し難いほど足が震えていた。
外はいくらか吹雪の勢いが弱まり、気温も以前よりかは上がっている。
クロノアは通常時と遜色ないほどの落ち着きを取り戻し、思い返しはするものの取り乱すようなことはしなくなった。未だ引きづっていることに変わりはないが、彼女の言葉が彼のネガティブな側面を押さえてくれたため、ひとまずは大丈夫だ。
そんな中、先に声を掛けたのは彼女の方だった。
「楽になりましたか?」
「うん、おかげさまで。ありがとう、本当に」
彼女の優しい声色に、クロノアは目を向けて素直な謝辞を述べる。
(……やっぱ、誰かに似てるんだよな)
「そんなに見られると……ちょっと恥ずかしいです」
「あ、ごめん」
赤面して視線を逸らす彼女から、前方で盛る焚火へ咄嗟に目線を変える。
「あの……」
遠慮気味に口を開く彼女は、両手の指先をくっつけ、その中の人差し指を交差し、回転させている。いわゆる指遊びをしていることから、あまり落ち着かない様子だ。
「私……なんでここにいるのでしょうか。私、たしかクラスと魔法学院にいたはずなんですけど、気が付いたら特徴的な目をした大人の人の前にいて……」
「……ファフアル、さん?」
ふと判明した事実。
大人で特徴的な目をしている、と言ったらタイムしかいない。そしてあの場にいた人物は、彼が守り抜こうとした人物、ただ一人。
「あ……はい。それ、私です。どこかでお会いしましたっけ?
お名前とか、聞いてもいいですか?」
彼女は肯定した。その名が、自身が所有するものであると。
「クロノア・ディアムルスです。本当に……覚えていないんですか?」
本名を知らされても彼女の苦い顔は晴れない。むしろ苦みが増してきたとさえいえる。
「……ごめんなさい。学院にもそんな名前の子はいなかったと思います。私が知らないだけかもしれませんけど……」
「そう、ですか……」
「記憶があやふやだからなのかもしれません。思い出したら言いますね」
「……ありがとうございます」
彼は背を猫のように丸くし、床にある凸凹な岩を視界に映す。
(覚えてない……でも、名前は同じ。単なる偶然ってことは絶対にない)
「その人は何か言ってましたか」
彼は真実により近づくため、続けて質問を送った。
「風の音でよく聞き取れない部分もありましたが……確か『罰だからね』
と言っていました」
「罰……」
「物騒ですよね。私、人を殺めたり物を取ったりした覚えはないんですけど……」
(……罰。それが本当だとしたら、何が目的なんだ? 今いる彼女が同一人物なら、何故生かした?)
彼はふと、自分の掌に目線を映してみる。
(……いつもより大きい)
違和感を感じ始めた。
そう……いつもより一回り二回り大きいのだ、手が、指が。
気になって腕や脚、腹筋なども見てみたが、結果は同じだった。
(これが……タイムの言う罰《・》、なのか?)
「あの、どうかしました?」
咄嗟に顔を持ち上げると、不審そうな顔で言った。
彼女は地に着きそうなほど髪が長く、前髪なんかは眼にぎりぎりかからないぐらいの長さがある。眼は琥珀色で、服はところどころ雑に破かれたような跡がある。
「いや、何でもないですよ。気にしないでください」
「……そう、ですか」
「クロノアさんは何か知りませんか? 私たちがなんでここ居るのか、とか」
彼女は続けてそういった。ひどく困惑したように視線を落としてながら。
不安の色が易々と見える。
「……俺も知りません」
クロノアは迷ったが、真実は告げなかった。
言えばどうなってしまうのかわからないのと、目の前にいる彼女が本当にそうなのか、完全な確信が得られなかったからである。
「じゃあ……同じですね、私たち」
彼女は微笑して言うが、気のせいとは形容し難いほど足が震えていた。
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