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終章 ゼンマイ

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一瞬の静寂を挟み、一人が動き始める。それにつられるようにもう一人が動き始める。
オーデンとフェニスだ。そんな二人を見つめるソシアスは、剣を握ったまま微動だにしない。

フェニスがそのまま走り抜けるのに対し、オーデンは膝を畳んで停止。その後空中に飛び上がって、槍の刃先をソシアスに向けて腕に力を込める。

空を穿つ槍グングニル――――――。

腰を捻った強力で超速の槍が投擲される。

ソシアス目の前まできたフェニスが火を纏い拳を後ろに引く。が、攻撃を仕掛ける前に顔面を打ち抜かれてしまう。彼の鼻とソシアスの拳頭に少量の血が付着した。

直後、迫りくる槍。

ソシアスは体を横移動させてからその槍を掴む。
元の進行方向になんとか動こうとしているが、彼の圧倒的な腕力のおかげでその勢いは次第に衰えていく。数秒とも立たないうちに静止した槍は、ソシアスの手で遥か遠くの彼方へと投げ飛ばされてしまった。

オーデンは驚きも回収のため引っ張ろうとするが、その力よりも彼の投擲力が上回ってしまい、とてもじゃないが手元に戻すことは敵わなくなった。

武器を封じられた――――。やや大きめな焦燥に駆られたオーデンが見る景色が、いつの間にか変わっていた。まるで誰かに殴り飛ばされたかのような――、そしてその推測は当たっていた。丁度オーデンの頭上で止まったソシアスが放った鉄槌によって、オーデンは地面と激突してしまったのだ。

「がはっ――――」

痛みに苦しむオーデン。暗雲立ち込める空餓死会の大部分を占め、その一部にはソシアスがいた。


♢♢♢♢


「イザナキ!」

先程の映像を見てすぐに転移してきたクロノス。彼の声に余裕はない、一方イザナキは胡坐をかきながら、白いスクリーンをぼんやりと眺めていた。

「わかってるよ」

いつもの彼とは似ても似つかない声色。こちらを見向きもしていない。
僅かな怒りが込められていると言うことを察することができた。

「もういい。僕は救援を要請してくる。ヅチァラに」

「ま……待てイザナキ!」

腕を肩に乗せ制止する。が、その後の言葉が出てこない。
喉に突っかかって、口を開いても発音されない。

イザナキは肩に置かれた腕を振り払う。

「無理だとわかってても、やるんだよ」

イザナキはクロノスの制止を振り払い、転移する。
残されたクロノスは、伸ばした手をゆっくりと振り下ろして呟いた。

「……悪かった」

一番言いたかった言葉は、彼がいなくなった後に口から出た。もう引き返すことのできない地点まで来たことを、クロノスは後悔した。


♢♢♢♢


ソシアスは剣を引き抜いて発進する。
真下にいるオーデンは平衡感覚の薄い体を立ち上がらせ、防衛を試行する。
備えろ――――。

動いた時にはもう、彼の剣が彼の体を斬りつけていた。
血飛沫を上げる胴。オーデンは立ち上がったそばから、前から崩れ落ちるようにして倒れ、地面に突っ伏す。

「おま――――」

オーデンを通過してその僅か後ろで一時停止したソシアスに、フェニスは激高する。
だがそんな言葉を吐く間もなく、ソシアスが動く。斬撃に何とか反応することができたフェニスだったが、カウンターとして放った拳は見事宙を突いた。その後、拳の真横に顔があるソシアスの斬り上げによってフェニスが片腕が彼の元を飛び立つ。

顔をしかめる。とてつもない痛みが切り口から伝わってきた。
残る左腕で、フェニスは再度カウンターを仕掛ける。

「学習」

吹っ飛んだソシアスは着地してそう呟くと、フェニス目掛けて再び発進。

――やらせるか。

傷口の再生を始めていたオーデンは斬撃魔法を飛ばして妨害を試みた。彼の掌から発射された刃状のエネルギー群がきひきびと宙を泳ぐ。
が、ソシアスは見向きもせずに片手で弾き飛ばしてそれを消滅させる。その後加速して片腕を失ったフェニスに追い打ちを掛けに行く。

天を仰ぐ。雪山のふもとということで青空ではない。薄暗い雲が立ち込めている。

その中に、光の槍を握っているオーデンの姿があった。

「やらせない……!」

語尾を言い終わるのとほぼ同時。オーデンは腰を限界まで捻り力を絞り出して、真下へと投射した。
……が、またもや消滅。ソシアスに命中した瞬間、なかったことにされたように消えた。

――――絶対強者ワン。その能力により、彼にはあらゆる魔法、能力、すなわち異能が彼を対象外にする。どんな高威力の技を放ったとしても、透けるように丶丶丶丶丶丶無効化されてしまう。
つまり、彼には物理攻撃しか通用しない。


オーデンは残りの力を使い果たしてしまい、地に向かって移動を始める。
そんな彼を見るソシアスは左腕を地面スレスレまで移動させる。上から落ちてくるオーデンにアッパーカットを御見舞させる魂胆だろう。

薄れゆく意識の中で――オーデンは自らの死を悟った。自分の攻撃が致命傷になっていなかったことも悟った。
死ねば退屈を潰す必要はなくなるんじゃないか――――。馬鹿げた話だとは思ったが、それもありかもしれないと思った。
だからかもしれない。彼の体に入る力が薄まっていったのは。

意識が鮮明になり、ぼやけが解消された視界でオーデンは見た。

「待たせたなぁぁぁぁ‼」

――この声の大きさ。巨大な肉体。ヅチァラ様だ。

呆れとともに、強い安心感が胸の内に芽生える。同時に自分の体に力が入った。
殴り飛ばされたソシアスは、体の前で構えた腕を歪ませて、片膝をついていた。

「学習しろ」
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