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合宿編:休息
【419話】夜の空
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太陽が地平線に沈み、ゆっくりと空が暗くなる。夜の雲はきれいだ。ゆったりと風に流され、月の前を遠慮がちに通り過ぎていく。
「あれ。そんなとこにいたの?」
「モニカ。どうしたのこんなところで」
「それはこっちのセリフよ」
森の奥には海を見渡せる開けた場所がある。モニカがそこへ行ったときには、すでにアーサーが一人で寝転んでいた。モニカはアーサーの隣に腰かけ、伸びをしながら背中を倒す。海からは波の音。森からは虫の鳴き声が聞こえてきた。
「それで?どうしてこんなところにいるの?」
「なんとなく。静かなところでぼーっとしたいなあって思って。てきとうに歩いてたんだけど、ここが気に入って長居してたんだー。海風がきもちいいし、虫の鳴き声がここちいい。モニカはどうしてここに来たの?」
「同じような理由ね。わたしは魔法の特訓でよくここを使うから前からお気に入りだったの」
「そうだったんだね。ここいいねえ。おちつく」
「うん。すきー」
アーサーとモニカは自然の音に耳をすませて穏やかな時間を過ごした。おしゃべりのモニカも静かに空を見上げている。アーサーもつられて空を見た。いつもより夜空がきれいな気がした。
「「月がきれいだねえ」」
二人が同時におなじことを呟いた。アーサーとモニカは目を合わせてクスクス笑う。
「同じタイミングで同じこと言っちゃったね」
「えへへ。ちょっと恥ずかしいね」
「そう?僕はちょっとうれしいよ」
「やっぱりわたしたち双子なんだねえ」
「ねー」
「これからもずっと一緒にいてね、アーサー」
「うん。ずっと一緒だよ」
魂を分けた半身の存在を確かめるかのように、双子は互いの手をそっと握る。
「ねえ見てアーサー。月の模様、なにかに見えない?」
「見える!」
「なにに見えるー?」
「バナナ!」
「それは今アーサーがバナナ食べたいからじゃないの?!」
「じゃあモニカには何に見えるの?」
「アーサー!」
「ええ…?」
「アーサーが弓を引いてるところにそっくりなの!」
「そ、そうかなあ…」
「うん!ねえ、藍もそう思うよね?」
《いや、さすがに苦しいぞモニカ…》
「じゃあ藍にはなにに見えるの?」
《ハンマーで鉱石を採取しているリスに見えなくもないな》
「ええ…?」
「藍って変わってるわね!」
《なんでもアーサーに見える主にだけは言われたくない》
「アサギリには何に見える?」
《ああ?桜の花びら模様だろ普通に考えて!!》
「ああー…」
「ウスユキのことほんとに好きよねアサギリって…」
《はぁ?!そ、そんなんじゃねえやい!!ほら見てみろって!!あれは桜の…》
「はいはい」
《見えるぞアサギリ。サクラの花びらだな。見える見える》
《藍てめぇっ!俺のことガキ扱いしやがって!!》
「あはは!」
ひとしきり笑ったあと、また二人(と2本)は静かに月を眺めた。雲で隠れ、ゆっくりと顔を出す。変わり映えするのは雲の形だけなのに、いくら見ていても飽きないのが不思議だ。
「…みんな同じ月を眺めてるのかなあ」
アーサーはぼそりと呟いた。この空に浮かぶ不思議な美しい球体を、遠く離れている大切な人も見上げているのだろうか。月に祈ることをやめたウィルクも、今夜の月を見ているだろうか。異国にいるキヨハルやウスユキも、同じ月を見上げているのだろうか。クロネやヴァジーはいま、月の絵を描いているのだろうか…。彼の独り言を聞いていたモニカはこくりと頷いた。
「きっとみんな見てるわ」
《いや、ジッピンはいま朝だから…》
《アサギリ、余計なことを言うでない。今でなくとも、同じ月を見ていることには変わりない》
「みんな、今日の月を見てきれいだなって思ってるといいなあ」
アーサーが空に向かって手を伸ばす。モニカも真似して手を伸ばした。月を掴もうとしてみたり、指でつついてみたりする。
「きれいだなあ」
◇◇◇
「今夜は月がきれいだね」
広い窓にもたれてヴィクスはひとりでに呟いた。耳にはタンザナイトのピアスを、小指には黄緑色の宝石が埋め込まれた指輪を付けている。彼は祈るように指輪の宝石を指で撫でてから小指を唇に当てた。
「アウスお兄さま。モリアお姉さま。あなたたちも今、この美しい月を見上げていますか?」
「あれ。そんなとこにいたの?」
「モニカ。どうしたのこんなところで」
「それはこっちのセリフよ」
森の奥には海を見渡せる開けた場所がある。モニカがそこへ行ったときには、すでにアーサーが一人で寝転んでいた。モニカはアーサーの隣に腰かけ、伸びをしながら背中を倒す。海からは波の音。森からは虫の鳴き声が聞こえてきた。
「それで?どうしてこんなところにいるの?」
「なんとなく。静かなところでぼーっとしたいなあって思って。てきとうに歩いてたんだけど、ここが気に入って長居してたんだー。海風がきもちいいし、虫の鳴き声がここちいい。モニカはどうしてここに来たの?」
「同じような理由ね。わたしは魔法の特訓でよくここを使うから前からお気に入りだったの」
「そうだったんだね。ここいいねえ。おちつく」
「うん。すきー」
アーサーとモニカは自然の音に耳をすませて穏やかな時間を過ごした。おしゃべりのモニカも静かに空を見上げている。アーサーもつられて空を見た。いつもより夜空がきれいな気がした。
「「月がきれいだねえ」」
二人が同時におなじことを呟いた。アーサーとモニカは目を合わせてクスクス笑う。
「同じタイミングで同じこと言っちゃったね」
「えへへ。ちょっと恥ずかしいね」
「そう?僕はちょっとうれしいよ」
「やっぱりわたしたち双子なんだねえ」
「ねー」
「これからもずっと一緒にいてね、アーサー」
「うん。ずっと一緒だよ」
魂を分けた半身の存在を確かめるかのように、双子は互いの手をそっと握る。
「ねえ見てアーサー。月の模様、なにかに見えない?」
「見える!」
「なにに見えるー?」
「バナナ!」
「それは今アーサーがバナナ食べたいからじゃないの?!」
「じゃあモニカには何に見えるの?」
「アーサー!」
「ええ…?」
「アーサーが弓を引いてるところにそっくりなの!」
「そ、そうかなあ…」
「うん!ねえ、藍もそう思うよね?」
《いや、さすがに苦しいぞモニカ…》
「じゃあ藍にはなにに見えるの?」
《ハンマーで鉱石を採取しているリスに見えなくもないな》
「ええ…?」
「藍って変わってるわね!」
《なんでもアーサーに見える主にだけは言われたくない》
「アサギリには何に見える?」
《ああ?桜の花びら模様だろ普通に考えて!!》
「ああー…」
「ウスユキのことほんとに好きよねアサギリって…」
《はぁ?!そ、そんなんじゃねえやい!!ほら見てみろって!!あれは桜の…》
「はいはい」
《見えるぞアサギリ。サクラの花びらだな。見える見える》
《藍てめぇっ!俺のことガキ扱いしやがって!!》
「あはは!」
ひとしきり笑ったあと、また二人(と2本)は静かに月を眺めた。雲で隠れ、ゆっくりと顔を出す。変わり映えするのは雲の形だけなのに、いくら見ていても飽きないのが不思議だ。
「…みんな同じ月を眺めてるのかなあ」
アーサーはぼそりと呟いた。この空に浮かぶ不思議な美しい球体を、遠く離れている大切な人も見上げているのだろうか。月に祈ることをやめたウィルクも、今夜の月を見ているだろうか。異国にいるキヨハルやウスユキも、同じ月を見上げているのだろうか。クロネやヴァジーはいま、月の絵を描いているのだろうか…。彼の独り言を聞いていたモニカはこくりと頷いた。
「きっとみんな見てるわ」
《いや、ジッピンはいま朝だから…》
《アサギリ、余計なことを言うでない。今でなくとも、同じ月を見ていることには変わりない》
「みんな、今日の月を見てきれいだなって思ってるといいなあ」
アーサーが空に向かって手を伸ばす。モニカも真似して手を伸ばした。月を掴もうとしてみたり、指でつついてみたりする。
「きれいだなあ」
◇◇◇
「今夜は月がきれいだね」
広い窓にもたれてヴィクスはひとりでに呟いた。耳にはタンザナイトのピアスを、小指には黄緑色の宝石が埋め込まれた指輪を付けている。彼は祈るように指輪の宝石を指で撫でてから小指を唇に当てた。
「アウスお兄さま。モリアお姉さま。あなたたちも今、この美しい月を見上げていますか?」
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