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14.オルフェ、三度目

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暇で暇で仕方なかった一日も終わり、夕食も入浴も済ませて、オルフェはベッドの上で固まっていた。
やる気満々みたいで嫌なのだが、かといってどうすればいいか分からない。

そもそも、アレスは他の女性を気に入って、今日はオルフェとセックスしないと言うかもしれない。
アレスは、オルフェ抜きで他の花嫁候補たちと遊んで、昼食も夕食も誰かと一緒に食べたのだ。誰か他の女性とセックスすると言うかもしれない。
だからと言って、オルフェからどこかに行くつもりもない。また、「逃げるのか」と怒られるのも嫌だし。

「訳分かんねぇな、もう」
アレスのような暴力男は嫌いだが、セックスはしたい。しかし他の女性に惹かれているかもしれないアレスに媚を売ることは絶対にしたくない。もはや自分がどうしたいのか分からず、とりあえず広いベッドの上で固まるしかなかった。

しばらくそうしていると、ノックもなくドアが開いた。アレスの寝室へと続く大きなドア。
非常にイライラした顔で、そこからアレスが現れる。

なんで怒ってるんだよ!俺、何もしてないぜ!
オルフェはそう思うが、口には出さない。何を言ってもアレスを怒らせるだけだと分かっていたし、何度も喧嘩をするのは得策でないと思ったからだ。まぁ、オルフェも短気なので、この状況が続けば結局喧嘩になるだろうが。

アレスが手を伸ばし、オルフェの肩に触れる。かと思ったら、ものすごい力で引っ張られた。
「え、何?」
「来い」
意味が分からずついて行くと、オルフェの座っていたベッドよりさらに大きいアレスのベッドの上に連れていかれた。

するとすぐに、キスが始まる。
アレスの表情は依然として厳しいままだが、キスだけは優しい。

意味が分からない。本当に、せめて怒っている理由くらい教えてほしいのだが。
しかし前回と違って、キスの合間に体を撫でる手つきは非常に優しい。ゆっくりと服を脱がされていき、負けじとオルフェもアレスの服を脱がす。
現れたアレスの胸にオルフェがそっとキスをすると、同じようにアレスがオルフェの胸を舐め始める。
くすぐったい、と体をよじると、そのまましゃぶられた。
そんなところで感じるはずもないと思っていたが、媚薬もないのに体が熱くなる。

あ、そういえば。媚薬。
「まって。まって、ね」
「今更待てか?今朝はあんなに誘ってきたくせに」
「違うって、あの、薬」
「薬?」
「うん。媚薬、飲まないとさ。お互いにしんどいだろ?」

オルフェの言葉に、また怒ったようにアレスが眉をしかめる。
しかし、アレスはそのまま何も返事をせずに、小さな瓶を取り出した。ポンっと軽い音がして、瓶の蓋が開く。中からとろりとした液体をアレスは自分の掌の上に出した。
それを飲まされるのかと思いきや、アレスは直接オルフェの後ろに塗り込む。一瞬ヒヤリとしたものの、すぐに体温で温かくなる。それをアレスは、ゆっくりと中に塗り込み始めた。

異物感と、その後の快感を期待して体が粟立つ。
「い、やっ」
とっさにアレスにしがみつく。しかしアレスは手を止めることなく、指を中に入れてくる。ぐちゃぐちゃといやらしい音がして、体が熱くなった。

「やっ、なに、これ」
体内で動く指は、オルフェの体を気遣うかのように非常に優しい。しかし、目の前にいる男は厳しい表情のまま、オルフェの中をかき混ぜている。
訳が分からず、恐怖に体が震え始める。目の前の男は、何をしようとしているのだ。オルフェは混乱のまま、アレスから視線をそらした。
理由を聞きたい。けれどどうせ、聞いたところでこの男は何も答えてくれない。

嫌だ。
そう思ってしまうと、体から熱が冷めていく。
オルフェの萎えた性器に気づいたのか、アレスが中を掻きまわす手を止めた。
「良くないか?」
聞かれて、驚いた。
まさか自分の快感だけでなく、オルフェのことも考えているなんて。

どう答えていいか分からずにオルフェが固まっていると、中から指が抜かれた。
アレスは何か聞きたいのか、しかしどう聞けばいいか分からないのか、口を開いたり閉じたりしている。同じく何を話せばいいのかオルフェも分からず、そっとアレスから距離を取った。
するとすぐに、アレスが怒ったように顔をしかめる。アレスの大きな手が伸びるが、しかし、すぐにそれは降ろされた。

殴られなかった。
それに、オルフェは驚く。
たかが一日だというのに、アレスが変わった。

まさか、今日一緒に過ごした女性の中に気に入る相手でもいて、急に優しくなったとでもいうのか。
そうだ。もともと隣国の神様は、恋をしたり、愛を知ることがアレスには必要だと言っていたのだ。その通り、恋をしたから、愛を知ったからアレスは変わり始めているのかもしれない。
セックスとは愛する者同士がすると、ディアンが言っていた。ならばこの行為は、これ以上続けてはいけないのかもしれない。

「お前はどうしたい。話せ」
アレスが口を開き、言った。
その言葉に驚くが、どう言っていいのか分からなくなってしまう。
オルフェが黙っていると、そっと抱きしめられた。



なんだ、これは。
誰だ、この男は。なんか変だぞ!
「お前が静かだと、調子が狂う」
「いや、あのさ。珍しくあんたが話してるから、ちょっと戸惑ってただけ」
「私とするのは、嫌か?」
「嫌じゃないよ」
「お前はそう思っていても、体は恐怖しているのかもしれない。昨夜は……痛かっただろう?」
優しく髪を撫でられて、そのままアレスの胸に顔を寄せる。
落ち着く。

「大丈夫。ただ、えーと……」
俺とヤッてもいいの?なんてオルフェは聞くことができずに、再び固まる。なんて返そうか考えて、ゆっくり口を開いた。
「ほら、薬。ないの?ないなら今日はやめておいた方がいいかもって」
はぁ、と大きなため息が上から聞こえて、オルフェはアレスの顔を覗き込んだ。

「アレは、人間の体にはあまりよくない」
「そうなの?」
「だから、きちんとほぐす」
そのための潤滑油だったのか!ベッドの上に投げられた瓶を見て、ようやく納得できた。

「ねぇ、男とヤルって面倒でしょ」
「うるさい」
「でも、俺なら好き勝手できるし、セックスも気持ちいいし、ちょうどいい?」
挑発するように言うと、案の定また「うるさい」と怒られた。

「いいよ。やろう。でもちゃんと気持ちよくしてよな?」
「その減らず口は、相変わらずだな」
そう言いながら、キスを再開させた。
今夜は、少しの痛みくらいなら我慢してやろう。オルフェはそう思いながら、目を閉じた。
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