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「休暇を取っておいてよかった。でも、本当はレイーアが意識が戻った後に、もっとかわいがる予定だったんだけど……」
「休暇?」
首を傾げるレイーアに、マットが頷く。
「そうだよ。昨日、僕がレイーアを抱くと決めた時に、女官長と騎士団長には既に二人の休暇は申請しているから」
レイーアがぽかん、と口を開く。
「決めた時?」
レイーアには、マットの言っていることが、全く理解できなかった。
マットがニッコリと笑う。
「そう。あんなにふにゃふにゃしているレイーアを見たら、もう抱くしかないと思ったんだ」
「……意味が分からないんだけど?」
レイーアは瞬きを繰り返す。
「そうか。レイーアには言ったことがなかったね。レイーア、愛しているよ」
甘い視線が、レイーアに注がれる。
「いや、意味が分からないんだけど」
少なくとも、今の今まで、レイーアはマットに好かれているという自覚はなかった。
数回話したことはあったが、マットは普通に爽やかなだけで、レイーアの存在に対して何かを思っているような気はしなかった。
そして、もう一つ疑問がレイーアに沸いた。
「……には、って私以外に誰に言うの?」
もっともな疑問だった。
「マディーには言ったことは何度もあるけどね」
マディー。それは、レイーアの弟の名前だった。
「知り合いなの? どうして?」
マットが肩をすくめる。
「同じ年だから、学院で仲良くしてたんだよ。そこで、マディーからレイーアの愛らしい話をずっと聞いていたんだ。そして、王城で働くようになって、実際のレイーアを見たら……好きになるしかないだろう?」
だろう? と言われても、レイーアは頷ける気がしなかった。
「えーっと、よくわからないわ」
「わからなくても、わかってもらうように頑張るから。……本当は今日一日を掛けてわかってもらう気でいたんだけど、今日はレイーアの疑問を解決するのが先だからね」
マットにウインクをされても、レイーアの疑問は湧き出て来るばかりだ。
「いや、あの、私の同意はどこにもないんだけど?」
間違いなく、レイーアは同意した記憶はない。
「いやだな、昨日レイーアは、僕の言葉に同意したんだよ? そうでなければ、僕だってレイーアを抱いたりしない」
「えーっと、それは酔っぱらっている時のことで、無効では?」
レイーアの必死の言葉に、マットが笑う。
「知っている、レイーア。お酒は、ヒトの理性を緩ませて、本性を現すんだ。その本性で、レイーアは僕の提案に頷いたんだよ。だから、心の奥底では、僕に惹かれていたんだ」
そうなのか、とレイーアはちょっとだけ思う。4才も年下だから恋愛対象外だと思っていたが、本音ではマットを好きだったのかもしれない、とレイーアは思い出す。
だが、ハッと我に返る。
「でも、それと結婚は別物よ。惹かれているから結婚するとは決められないわ!」
レイーアの言葉に、マットが悲しそうに眉を下げる。レイーアは悪いことをした気持ちになる。だが、まだ淡い恋心を自覚しただけで、結婚することになるのは、話が飛び過ぎている。
「レイーア。僕が言ったことを覚えていないのかな?」
マットが悲しげな表情のまま、レイーアを見る。
「えーっと?」
レイーアが首を傾げる。
「我がクーン男爵家では、初めて契った相手と結婚することと、家訓で決まっているんだよ。だから、もう結婚は決まっている話だ」
レイーアは確かにその話を聞いたのを思い出した。
「いや、でも……」
でも、抵抗したい何かがレイーアにはあった。腑に落ちなかった。
「レイーア。僕がこの家訓を破ったら、どうなるのか言ってなかったね?」
マットがぎゅっとレイーアの体を抱きしめた。
「男爵家からの追放だよ。そうなったら、僕は騎士を辞めなくてはいけないんだ」
王城で働くためには、後ろ盾がいる。それは貴族であることが王城で働く条件だからだ。稀に庶民で、貴族から特別に目を掛けられて後ろ盾を貰う人間もいるが、それは本当に稀だ。
だから、もし男爵家から追放されたとしたら、確かにマットは騎士を辞めなくてはならないだろう。
「それは……」
レイーアが絶句した。
「だからレイーア。僕に、初恋の相手との結婚と、仕事を続けさせる権利をくれないかな?」
泣きそうなマットに、レイーアは頷くしかなかった。
流石にマットの人生をふいにさせることなど、レイーアには出来なかった。それほどレイーアは冷徹なわけではないし、マットに淡い恋心を持っているだろうことは間違いないからだ。
ぱぁ、とマットの顔が満面の笑みになる。
「じゃあ、この後、クーン男爵家に行って、その足でガリヴァ男爵家にも行こう。結婚誓約書は、両親にサインをお貰えばいいから」
マットの提案に、レイーアは曖昧に頷いた。あまりの展開の速さに、頭が付いて行かない。
「あ、新居は、城下町にもう用意してあるからね。レイーアも気に入ってくれると思うんだ。きちんとマディーの意見は貰っているから、安心して」
レイーアは何だか腑に落ちない気持ちで、頷いた。
「休暇?」
首を傾げるレイーアに、マットが頷く。
「そうだよ。昨日、僕がレイーアを抱くと決めた時に、女官長と騎士団長には既に二人の休暇は申請しているから」
レイーアがぽかん、と口を開く。
「決めた時?」
レイーアには、マットの言っていることが、全く理解できなかった。
マットがニッコリと笑う。
「そう。あんなにふにゃふにゃしているレイーアを見たら、もう抱くしかないと思ったんだ」
「……意味が分からないんだけど?」
レイーアは瞬きを繰り返す。
「そうか。レイーアには言ったことがなかったね。レイーア、愛しているよ」
甘い視線が、レイーアに注がれる。
「いや、意味が分からないんだけど」
少なくとも、今の今まで、レイーアはマットに好かれているという自覚はなかった。
数回話したことはあったが、マットは普通に爽やかなだけで、レイーアの存在に対して何かを思っているような気はしなかった。
そして、もう一つ疑問がレイーアに沸いた。
「……には、って私以外に誰に言うの?」
もっともな疑問だった。
「マディーには言ったことは何度もあるけどね」
マディー。それは、レイーアの弟の名前だった。
「知り合いなの? どうして?」
マットが肩をすくめる。
「同じ年だから、学院で仲良くしてたんだよ。そこで、マディーからレイーアの愛らしい話をずっと聞いていたんだ。そして、王城で働くようになって、実際のレイーアを見たら……好きになるしかないだろう?」
だろう? と言われても、レイーアは頷ける気がしなかった。
「えーっと、よくわからないわ」
「わからなくても、わかってもらうように頑張るから。……本当は今日一日を掛けてわかってもらう気でいたんだけど、今日はレイーアの疑問を解決するのが先だからね」
マットにウインクをされても、レイーアの疑問は湧き出て来るばかりだ。
「いや、あの、私の同意はどこにもないんだけど?」
間違いなく、レイーアは同意した記憶はない。
「いやだな、昨日レイーアは、僕の言葉に同意したんだよ? そうでなければ、僕だってレイーアを抱いたりしない」
「えーっと、それは酔っぱらっている時のことで、無効では?」
レイーアの必死の言葉に、マットが笑う。
「知っている、レイーア。お酒は、ヒトの理性を緩ませて、本性を現すんだ。その本性で、レイーアは僕の提案に頷いたんだよ。だから、心の奥底では、僕に惹かれていたんだ」
そうなのか、とレイーアはちょっとだけ思う。4才も年下だから恋愛対象外だと思っていたが、本音ではマットを好きだったのかもしれない、とレイーアは思い出す。
だが、ハッと我に返る。
「でも、それと結婚は別物よ。惹かれているから結婚するとは決められないわ!」
レイーアの言葉に、マットが悲しそうに眉を下げる。レイーアは悪いことをした気持ちになる。だが、まだ淡い恋心を自覚しただけで、結婚することになるのは、話が飛び過ぎている。
「レイーア。僕が言ったことを覚えていないのかな?」
マットが悲しげな表情のまま、レイーアを見る。
「えーっと?」
レイーアが首を傾げる。
「我がクーン男爵家では、初めて契った相手と結婚することと、家訓で決まっているんだよ。だから、もう結婚は決まっている話だ」
レイーアは確かにその話を聞いたのを思い出した。
「いや、でも……」
でも、抵抗したい何かがレイーアにはあった。腑に落ちなかった。
「レイーア。僕がこの家訓を破ったら、どうなるのか言ってなかったね?」
マットがぎゅっとレイーアの体を抱きしめた。
「男爵家からの追放だよ。そうなったら、僕は騎士を辞めなくてはいけないんだ」
王城で働くためには、後ろ盾がいる。それは貴族であることが王城で働く条件だからだ。稀に庶民で、貴族から特別に目を掛けられて後ろ盾を貰う人間もいるが、それは本当に稀だ。
だから、もし男爵家から追放されたとしたら、確かにマットは騎士を辞めなくてはならないだろう。
「それは……」
レイーアが絶句した。
「だからレイーア。僕に、初恋の相手との結婚と、仕事を続けさせる権利をくれないかな?」
泣きそうなマットに、レイーアは頷くしかなかった。
流石にマットの人生をふいにさせることなど、レイーアには出来なかった。それほどレイーアは冷徹なわけではないし、マットに淡い恋心を持っているだろうことは間違いないからだ。
ぱぁ、とマットの顔が満面の笑みになる。
「じゃあ、この後、クーン男爵家に行って、その足でガリヴァ男爵家にも行こう。結婚誓約書は、両親にサインをお貰えばいいから」
マットの提案に、レイーアは曖昧に頷いた。あまりの展開の速さに、頭が付いて行かない。
「あ、新居は、城下町にもう用意してあるからね。レイーアも気に入ってくれると思うんだ。きちんとマディーの意見は貰っているから、安心して」
レイーアは何だか腑に落ちない気持ちで、頷いた。
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