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第7章 カトレアの花

船上の人

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 ガクガクと震える内股を労るように撫でられて、ラドラムは更にキツくプラチナを抱き締める。
 胸板同士が合わさると、ラドラムの鼓動が酷く早鐘を打っているのが分かった。

「ラドラム……気持ちよかったですか?」

 正体不明の涙を流し続けるラドラムの頬を、舐めながら訊く。人工味覚は、塩辛さを伝えてきた。これが、涙の味。
 プラチナは、顎の先から眼球までを辿り、よろこびの味がする涙の粒を舐め取った。

「んっ、やめ、ろ」

 閉ざされた長い金色の睫毛の上から眼球を舐めると、焦ったような言葉が上がる。

「何故ですか? ラドラムの眼球は美しい。塩辛い味も心地良いのに」

「馬鹿。また、したくなっちまうだろ……」

「お望みでしたら、何度でも」

 疲労を知らないプラチナは、素手の指先で柔々とラドラムの勃ち上がっている胸の尖りを弄る。

「ばっ、やめろって!」

「したいのでは、ないのですか?」

「……」

 目元を桜色に染めて、背に回していた腕をプラチナの項に回すと、ラドラムは初めて自分からキスをした。
 幾分か慣れた様子で、薄く瞳を開けたまま、触れさせて睦み合う。七~八回繰り返して、濡れて光る唇を離すと、ラドラムはもごもごと説明した。

「人間は、セックスすると疲れんだよ。これ以上ヤったら、上手く歩けなくなっちまう。それに、あんまり待たせたら、外の連中が様子を見に来るかもしれないだろ」

「そうですか。気持ちよくなかった訳では、ないのですね」

「馬鹿……」

 くそ真面目なプラチナの言葉に、ラドラムは耳の先まで赤くなった。

「そういう事は、訊くな」

「でもラドラム、私は貴方を心地良くしたい。独り善がりのセックスは、嫌われると聞きます」

「何処でそんな事訊いてくるんだよ、ムッツリスケベ……」

「アーダムの秘書を誘惑した酒場で、交わされていた会話です」
 
 また返るくそ真面目な返答に、ラドラムが呆れたように笑った。

「人間は、気持ちよくなきゃイかねぇんだよ。それで分かれ」

 プラチナも初めて、ホッとしたように頬を緩ませ微笑みを見せた。

「良かったです。気持ちよかったのですね。愛しています、ラドラム」

「ん……」

 また口付けが降ってくる。情熱的に求められてラドラムもプラチナの黒髪に指を通し、互いの髪を乱し合いながら束の間、唇を食み合った。

    *    *    *

「じゃあな。ワン、ツー、スリー、フォー。上手くやれよ」

「ああ」

「さよならだ」

 ラドラムと同じ姿かたちをした男が四人、コールドスリープカプセルに入っていた。声をかけると、口々に同じ声音で返事を返す。
 湿っぽいのが性に合わないのはオリジナルと同じようで、みな笑顔を見せていた。

 やがて蓋がしまり、急速冷凍が始まると、瞳を閉じて眠りにつく。唇には、微かに笑みが残った。

「サンキュ、プロト。これで気がかりはなくなった」

「簡単な事だ。借りが少しでも返せて嬉しい」

「シーア、またいつか来る。あんたがどれくらい別嬪になるのか、見てみたいからな」

「まあ、ラドラムったら、口がお上手」

 頬を染めるシーアと、その肩を抱くプロトに別れを告げて、五人は船上の人となったのだった。
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