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第4章

万能薬完成

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 グォォォォォンッ!!

 耳を劈く咆哮。
 赤い鱗に覆われた体に金色の瞳。間違いない。サーニャさんのお父さんの火龍だ。

「さてと。ハク、私にどれだけ時間稼ぎができる?」

『龍化していない今の状態ですと、十分に稼げます』

 龍化したら?

『そもそも一方的になります。時間稼ぎどころか倒す可能性のほうが高いです』

 わ、わぁお……龍化しないでおこ。

 グワァァァァァ!!

 金色の瞳…いや、金色の瞳が私を捉える。まぁ、目障りでしかないものね。目の前をちょろちょろされるなんて。

「おっと」

 いきなり噛み付いてきたので、高度を下げてかわす。それでも風圧で体勢が崩れた。むぅ。この状態だともろにくらうな。

「こっちだよー」

 わざと目の前をちょろちょろとする。するとそれに怒ったのか、前足で掴みかかってきた。それを両手で受け止める。

 グワァァ!?

 驚きの声をあげる。まぁ、まさか避けずに掴んでくるとは思わなかったんだろうね。

「そぉーいっ!」

 思いっきり振りかぶり、地面へと投げつける。さすがにちょっと重かった。
 サーニャさんのお父さんは、最初こそ驚いて体勢が崩れたけれど、地面に衝突する前に体勢を立て直した。翼の使い方が上手いのかな……。

 グルル……

 下から喉を鳴らしながら睨みつけてくる。だが、警戒しているのか、さっきのようにすぐに襲ってくる様子はない。ふーん。そういう本能は残るのね。

 グルッ!?グ、ワァァァ!!

 突然頭を抑えて苦しみ出す。おそらく、強制的な命令。

 状態:傀儡

 これが今のサーニャさんのお父さんの状態だ。サーニャさんが言うには、傀儡薬とよばれる禁忌の薬を使われたらしい。その結果、サーニャさんのお父さんは操られてしまった。それを救うために、サーニャさんは旅を続けていたのだ。

「当然だよね。実の父親を心配するなんて」

 ただ、サーニャさんのお父さんを救うには問題が1つあった。それは……解毒薬が作れないということ。
 正確には作ることはできる。けれど、作るためにはサーニャさんのお父さんに使われた傀儡薬が必要になる。
 なぜなら、傀儡薬には様々な種類が存在し、そそれぞれに合った解毒薬しか効かない。だから使われた傀儡薬が分からなければ、解毒薬を作れないのだ。なら、どうするのか?

 ───竜霊草を使えばいい。

 名前:竜霊草
 魔素が濃い場所に生える希少な薬草。これを用いて作られるポーションは高い効果を発揮する。また、の材料の1つでもある。

 万能薬。その名の通り、ありとあらゆる病気、状態異常を治癒することができる。まぁ分かりやすく言うなら……エリクサー、かな。

 そしてその万能薬を用いれば、傀儡薬を解毒することも可能、という訳。

『完成予定まで、あと13分です』

 13分か……ちょっと難しいかもしれない。なぜなら、さっきまで私のほうに注目して攻撃してきていたのに、今や眼中にない。真っ直ぐに向かっていく。

「ほい」

 尻尾を掴んでもなにも反応しない……ん?これってこのまま持ってたらいいんじゃない?だって、私が後ろに少し進もうとするだけで力が釣り合ってしまうみたいで、その場にとどまるから。
 ……操っているやつは、この光景を見ていないのだろうか?

 グルッ?グワァァ!!

「おっと」

 さすがに気付かれたか。まぁいい。注意がこっちに向けばそれで。

 グォォォォォンッ!!

 あーー……それはちょっとまずいかな。

「はいお口チャック」

 下顎と上顎を押さえつける。するとじたばたともがきだす。それも当然。だってブレス吐こうとしてるのに、口押さえつけられているんだから。
 案の定行き場を失ったブレスは、口内でボフンッ!っと暴発する。
 ………音が可愛い思ったのは内緒。

『……やられた方は激痛ですけどね』

 口内って1番無防備だからねぇー。痛いと思うよ。
 鼻からプスプスと煙を出して、そのままサーニャさんのお父さんは落下を始めてしまう。

「あっ、ちょ!」

 胴体の下へと入り込み、地面に勢い良く衝突しないように持ち上げる。うぅ……さすがに重い。完全に持ち上げることはできないや。けれど、勢いを殺すことはできた。そのままゆっくりと地面へと下ろす。

「……死んでないよね?」

 思わず心配になる。一応呼吸はあるから大丈夫……なはず。

『大丈夫ですよ。ブレスの暴発の衝撃が脳にも届いただけですから』

 えっと……それはそれでどうなの?

『軽い脳震盪です。大丈夫ですよ』

 ほっ……それなら良かった。
 ………そして今更なんだけど、サーニャさんとの連絡手段ないよね。

『完成予定まで、あと5分です』

 うーん……行くか。サーニャさんのお父さんは魔法で地面に固定して……よしっと。


 そしてサクッとフォルタスまで戻り、宿へと向かう。

 宿の部屋へと入ると、サーニャさんが真剣な顔で調合をしていた。

「ふぅ…マリーナ様の鱗。慎重に使わないと…」

 そう。私がサーニャさんにあの時渡したのは、私の鱗。万能薬の正しい材料……ではないけどね。ただ、私の力は"生"。つまり生きることに関することに高い効果を発揮する。だから、あらゆるポーション類に使うことができる、万能な材料だったりするのよね。それは万能薬も然り。だから渡した。

『普通に万能薬の材料を探したほうがコスパいいですけどね』

 まぁ、そんな簡単に手に入るものでは無いからね。それはそうだ。

「……できた」

 サーニャさんが綺麗な青い液体が入った瓶をかがげる。

 名前:万能薬・神
 どんな病にも効く万能な薬。神龍の鱗が使われているため、一般的な万能薬よりも遥かに高い効果を発揮し、死後30分以内なら蘇生すらも可能な薬。

 ………なんかやばいのできちゃった。

「お疲れ様です」

「うわっ!?マ、マリーナ様!?いいいつからそこに」

「……結構前?」

「……言ってくださいよ。驚いたじゃないですか」

「すいません。それより、出来たんですか?」

「はい。出来ました。出来ましたけど……これ神話クラスの薬ですよね…?」

 どうなの?

『蘇生が可能な薬は、神話クラスのものになります』

 ま、まじかぁ……ま、まぁ、すぐに使うからいいよね。

「お父さんは、どうしたんですか…?」

「あぁ、森に固定してきました」

「も、森に、こ、固定…」

 サーニャさんが信じられないと言いたげな顔をする。

「まぁ行ってみたら分かりますよ、ほら」

「あっ!ちょっと!?」

 サーニャさんの手を引き、私はサーニャさんのお父さんを固定しておいた森へと転移した。


 ……………だけど、ちょっと面倒なことになったかもしれない。











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