お前が才能ナシ……って、言える訳ねぇだろうが! 

佐座 浪

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第一章 試しの一年

第三話 視線

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 一人、また一人とクジを引いていく。だが、誰がどこに座ろうと正直どうでもいい。問題は響の席がどこになるか、それだけだ。

「……どうぞ」
「九郷さんは……三十五番ね。次、源田さん」
「えっと……これ!」
「はいはい、三十四番ね。次——」

 縦六列、横六列の、前から順に数字が割り振られていて、三十四番はそのまま縦六列目の前から四番目。

 真後ろの三十五番は既に埋まっているから、俺は二十七、二十八、二十九、三十三のどれかを引ければ良い。出来たら隣の二十八が良い。

 日頃の行いはさておき、運勢には自信がある。何しろ十クラスある中で、見事響と同じクラスになった俺だ。こんなクジの当たりくらい、一発でぶち抜いて——

「——白川君? 白川君、次だよ?」
「あ……ああ。ごめん。今行くよ」

 しまった。つい考え過ぎた。ともかく、この紙一枚で、しばらくの間の俺の命運が大きく別れる。

 故に、勝たねばならぬ。絶対に勝たねばならぬ。

「はい、どうぞ。白川君」
「頼むぞ……これ!」

 引いた。見た。結果はいかに——

「二十九だね。次——」

 ——勝った。俺は辛くも、この戦に勝ったのだ。隣でなかったのは残念だが、これなら勝ちと言っていい。

「全員、クジは引き終わりましたね? 特に連絡事項もありませんので、これでホームルームを終わります。号令は結構ですから、一時限目までに新しい席に移動しましょう。その際は荷物を忘れずに。黒板をしっかり確認して、席のお間違えがないよう。それではまた」

 こうして俺は、響のすぐ側の席を手に入れた。席が近ければ、単純に話す機会が増える。俺も色々と動きやすい。良い事だらけの筈だ。なのだが——

 ——左から、視線を感じる。そんな気がする。一時限目から、四時限目の今に至るまで、ずっとだ。

 当然、目が合った事は無い。何度横目で見ても、九郷さんは机に伏せっている。

 たとえ気のせいだとしても、人からの視線を感じれば、気を取られてしまう。これでは上手く思考に耽れない。どうしたものか。

「——これが、たすきがけだ。便利だろう? ところで白川。今、ぼーっとしてたな? よし、練習問題、前に出て解いてみろ」
「……はい」

 チョークを差し出し、意地悪そうに笑う、数学担当、野球部顧問の柳生やぎゅう

 競馬が趣味らしいが、才能の方はあまり。身代を潰さない事を祈るばかりだ。

「出来ました」
「おっ、正解。なんだ、ちゃんと聞いてるじゃないか。戻ってよし!」

 これでも一応、予習は済ませている。因数分解くらいなら、なんとでもなる。

「……聞いてなかった癖に」
「はは」

 響と言葉を交わし、机に戻る。その時にチラリと、九郷さんの机にも目をやってみた。

 開かれた教科書と、ノート。そして、突っ伏したままの彼女。特に、変化は無い。やはり、気のせいだったのか。

 いや、ちょっと待て。何故ノートに板書が、しかも今やったばかりの所が? ひょっとして、狸寝入り——

『正解』

「……!」

 一瞬だけ顔を上げて、声を出さず、口だけを動かした九郷さん。そういう事なら、感じた視線も気のせいではない可能性が——

「よし、ピッタリ。ほい、授業終わり! おっと、学食に行く諸君は急いだ方がいいぞ。月曜限定、極厚カツサンドが売り切れるからな!」

 その先を考える前に、授業が終わった。

「なぁ、優人! カツサンド買いに行こうぜ!」
「あー……悪い。俺これあるし、人多いから残る」
「おっけ——って、やべぇ! 出遅れた! 売り切れちまう!」
「うるさい! もっと静かに出て行け!」
「すみません源田さんー! おい優人! 俺が帰って来るまで待っといてくれよな!」
「はいはい」

 響の怒声を背に、バタバタと喧しく音を立てて、支倉が教室を駆け出る。

「まったく……はぁ。叫んだら、喉乾いちゃった」
「……何飲んでるんだ?」

「《喉のオトモ》…… ま、ハチミツレモン。結構美味しい……あれ、無くなった。えぇ……しょうがない! 飲み物買ってくるけど、優人はなんか飲む?」
「ん……じゃあ、カフェオレ。とびっきり甘いやつで頼む」
「りょーかい。陽彩は……寝てるからいっか。んじゃ、行ってきます! あ! 支倉君が帰ってきても、先に食べちゃ駄目だからね!?」
「分かってる。行ってらー……」

 さて、一人。どうしたものか。本人に問い正すのが一番手っ取り早いだろうが、俺の気のせいだった、なんて事になればただ恥ずかしいだけだ。気が引ける。

「別に、何も無いけど」
「うおっ!?」

 九郷さんはいつの間にか、俺の真後ろに立っていた。正直、心臓が飛び出るかと思った。

「響といつも一緒に居るから、どんな人間か気になっただけ」

 短く言い残して、彼女は優雅に教室を歩き去る。噂によると、昼食は静かな屋上で食べるのだとか。
 
 しかし、随分と響の事を気にしてるんだな。仲も良さそうだったし。

 あいつは情に脆く、人に影響されやすい。ひょっとしたら、彼女に手を引かれて、何か始めてくれるかもしれない。

 そんな淡い期待を抱きつつ、俺は二人の帰りを待つ事にしたのだった。

「カツサンド売り切れてたんだが!」
「ドンマイ」
「ごめん優人、カフェオレ無かった!」
「マジかよ……」
「ぷぷ……ドンマイ」

 口を抑えて笑う支倉。こいつ絶妙に腹立つな。
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