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私たちは私たちのやりかたで(5)
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愚か者はどっちですか。
「私たち、魂の姿が見えるタマジョだけにできること、あるでしょ。大事なのは、数字じゃないんだよっ」
ぶらりと垂れ下がったままのレイくんの手を掴んでぎゅっと握る。
伝わって、お願い。
さらに力を込めると、今まで黙っていたレイくんがかすかに声を出した。
「痛いよ……」
「え、わ、ごめんね!」
「大丈夫」
私が力を緩めると、レイくんが、そう言って静かに微笑む。無表情なんかよりとっても素敵で、思わずどきりとしてしまうくらいだ。
「笑ってたほうが、いいね」
「レイ! お前! お前というやつは! どうしてだ! 裏切り者!」
「それがお前のやってきたことの結果だろ」
怒り狂うアカツキさんを、クロノさんが涼しい顔をしておさえる。
お前とは質が違うんだよ、なんて言いながら。
「ヨミ、こいつを閻魔大王様のところに送ってやれよ」
「そんなことできるのっ?」
「できるさ。お前は、たましい案内所だろ」
クロノさんの言葉をきいて、片手を後ろに回してランドセルの鍵を開ける。
人なのに場所だなんて変だと思ったけれど、今はそれがしっくりくる。魂は色々なところにいるんだもの。私自身が、移動式の案内所。
ランドセルから伸びた光の紐が、アカツキさんの体に巻き付く。
「こんなもので! 私が捕らえられると思っているのか!」
どうしよう。アカツキさんは叫びながら、簡単に光の紐をちぎっていっちゃう。
クロノさんは慌てる様子なく、私のほうを見ていた。
もっと、もっと頑張るんだ。クロノさんは私を信じてくれている。大丈夫、できるはず。たくさん案内してきたんだもの。
ぱちん、そんな聞きなれた音がして、レイくんと繋いだままの左手にぎゅっと力がくわえられた。
「僕もいるよ」
思わずそちらを見ると、レイくんのランドセルから無数の光の紐が伸びていた。
「やめろ、やめろぉ!」
「一名様、ご案内ってな」
原型も見えないほどの光の紐にぐるぐると巻かれたアカツキさんの背を、クロノさんがポンッと押した。
「アカツキ様、さようなら」
「レイくん……」
いくらひどいことをさせられていたといっても、レイくんにとってはパートナーだったんだもんね。
しゅるしゅると紐が短くなって、私たちのランドセルが同時に閉まった。
ぱちん、と二つの鍵の音が響く。
「案内……」
「完了だね!」
レイくんと顔を見合わせていると、クロノさんが両手で私たちの頭をかき回した。
「辛かったろ、二人とも。あとは閻魔大王様が判断なさるさ」
レイくんはポカンとした様子で、自分の頭を触った。
「二人が、羨ましかったんだ」
それから、ぽつりと言葉を零す。
「僕も、アカツキ様とこんなふうにできたらよかった」
レイくんがそう言ってうつむくと、クロノさんがしゃがんでレイくんと目線を合わせた。頭の上に手を置いて、一言一言言い聞かせるみたいに、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そう思うなら、次はお前が導いてやれよ、ちゃんと」
返事を聞く前に立ち上がったクロノさんが振り返らずに歩き出す。
「帰るぞ。ヨミ、レイ」
俯いたまま必死に涙をこらえているレイくんを肘でちょんちょんと押すと、クロノさんの後を追って弾かれたように歩きだした。
「クロノさん! 富田くんたちはどうするの!」
「死んでるわけじゃねえから、じきに目を覚ますだろ」
「そのままおいてくのっ?」
「もうこの辺に魂はいないしな。大丈夫だ」
生きた人間もなかなか危ないと思うんですけど。
私が反論しようとすると、クロノさんが振り返って頭をかいた。
「これに懲りたら、心霊スポット巡りもやめるんじゃねえか」
そりゃあそうだよ。起きたら廃病院の手術台なんてトラウマものです。って、クロノさんってばまさかそれが目的なの? たしかにこのまま帰したら危なかったことも気が付かずにまた同じことをしちゃうかも。
さすがだね、そんなところまで考えが回らなかったよ。
「俺ってやっぱり天才なんじゃねえかな」
前言撤回です。クロノさんはさすがなんかじゃありません。
そんな私たちを見て、レイくんが小さく笑った。
「私たち、魂の姿が見えるタマジョだけにできること、あるでしょ。大事なのは、数字じゃないんだよっ」
ぶらりと垂れ下がったままのレイくんの手を掴んでぎゅっと握る。
伝わって、お願い。
さらに力を込めると、今まで黙っていたレイくんがかすかに声を出した。
「痛いよ……」
「え、わ、ごめんね!」
「大丈夫」
私が力を緩めると、レイくんが、そう言って静かに微笑む。無表情なんかよりとっても素敵で、思わずどきりとしてしまうくらいだ。
「笑ってたほうが、いいね」
「レイ! お前! お前というやつは! どうしてだ! 裏切り者!」
「それがお前のやってきたことの結果だろ」
怒り狂うアカツキさんを、クロノさんが涼しい顔をしておさえる。
お前とは質が違うんだよ、なんて言いながら。
「ヨミ、こいつを閻魔大王様のところに送ってやれよ」
「そんなことできるのっ?」
「できるさ。お前は、たましい案内所だろ」
クロノさんの言葉をきいて、片手を後ろに回してランドセルの鍵を開ける。
人なのに場所だなんて変だと思ったけれど、今はそれがしっくりくる。魂は色々なところにいるんだもの。私自身が、移動式の案内所。
ランドセルから伸びた光の紐が、アカツキさんの体に巻き付く。
「こんなもので! 私が捕らえられると思っているのか!」
どうしよう。アカツキさんは叫びながら、簡単に光の紐をちぎっていっちゃう。
クロノさんは慌てる様子なく、私のほうを見ていた。
もっと、もっと頑張るんだ。クロノさんは私を信じてくれている。大丈夫、できるはず。たくさん案内してきたんだもの。
ぱちん、そんな聞きなれた音がして、レイくんと繋いだままの左手にぎゅっと力がくわえられた。
「僕もいるよ」
思わずそちらを見ると、レイくんのランドセルから無数の光の紐が伸びていた。
「やめろ、やめろぉ!」
「一名様、ご案内ってな」
原型も見えないほどの光の紐にぐるぐると巻かれたアカツキさんの背を、クロノさんがポンッと押した。
「アカツキ様、さようなら」
「レイくん……」
いくらひどいことをさせられていたといっても、レイくんにとってはパートナーだったんだもんね。
しゅるしゅると紐が短くなって、私たちのランドセルが同時に閉まった。
ぱちん、と二つの鍵の音が響く。
「案内……」
「完了だね!」
レイくんと顔を見合わせていると、クロノさんが両手で私たちの頭をかき回した。
「辛かったろ、二人とも。あとは閻魔大王様が判断なさるさ」
レイくんはポカンとした様子で、自分の頭を触った。
「二人が、羨ましかったんだ」
それから、ぽつりと言葉を零す。
「僕も、アカツキ様とこんなふうにできたらよかった」
レイくんがそう言ってうつむくと、クロノさんがしゃがんでレイくんと目線を合わせた。頭の上に手を置いて、一言一言言い聞かせるみたいに、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そう思うなら、次はお前が導いてやれよ、ちゃんと」
返事を聞く前に立ち上がったクロノさんが振り返らずに歩き出す。
「帰るぞ。ヨミ、レイ」
俯いたまま必死に涙をこらえているレイくんを肘でちょんちょんと押すと、クロノさんの後を追って弾かれたように歩きだした。
「クロノさん! 富田くんたちはどうするの!」
「死んでるわけじゃねえから、じきに目を覚ますだろ」
「そのままおいてくのっ?」
「もうこの辺に魂はいないしな。大丈夫だ」
生きた人間もなかなか危ないと思うんですけど。
私が反論しようとすると、クロノさんが振り返って頭をかいた。
「これに懲りたら、心霊スポット巡りもやめるんじゃねえか」
そりゃあそうだよ。起きたら廃病院の手術台なんてトラウマものです。って、クロノさんってばまさかそれが目的なの? たしかにこのまま帰したら危なかったことも気が付かずにまた同じことをしちゃうかも。
さすがだね、そんなところまで考えが回らなかったよ。
「俺ってやっぱり天才なんじゃねえかな」
前言撤回です。クロノさんはさすがなんかじゃありません。
そんな私たちを見て、レイくんが小さく笑った。
応援ありがとうございます!
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