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第二話 『初めてのパーティ』
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促されるままに、ローリエが、席に着く。
『ミミズクと猫・亭』のカフェテリア。
衝立で囲われたそのテーブルの一つを、ホムンクルス(仮)の少女、ドワーフの少女、エルフの少女が囲う。
やがて、機を見計らい。
テーブルの上に魔銀製のガントレットに包まれた両の掌を組み、その上に顎を乗せて。
どこかの司令官のように、フェルマータが話を始める。
「出会った時に言った通り、私たちには倒したいボスが居るの――。それも1体じゃなくて、合計で7体……」
7体……?
難敵で知られるボス級の魔物は、第二世界にいくつも存在しているが。
7体と訊いて、ローリエが思い浮かぶのは、各エレメントのカテゴリーを統べる大精霊くらいだ。
このゲームは、魔法の属性が沢山ある。
しかし、それは概ねカラーでカテゴライズされているのだ。
例えば――。
赤色=火と熱
水色=水と冷
黄色=金と雷
緑色=木と風
紫色=土と重
白色=光、聖、命
黒色=闇、邪、死
――という具合に。
そしてこのカラーごとに、それを代表するボスが存在する。
それが大精霊と言われるボスだ。
ちなみに、これらのボスは物理系の各武器カテゴリーにも存在している。
剣の大精霊や、弓の大精霊、と言った具合だが。
「……大精霊、って知っているかしら?」
フェルマータの言葉に、ローリエが予想した言葉が乗る。
7体ときいただけで、大精霊を予想できるのは、ベテランであることの証明だ。
あまり驚かず、どこか『あぁ、アレか』という感じの表情のローリエに。
フェルマータの口元は極微量の笑みを形作る。
「その反応は、予想通りという感じね」
嬉しそうなドワーフとは裏腹に。
ローリエは怪訝だ。
大精霊を倒したい。
それは解るが、何のために倒すのか。
何か、大それたモノを作るつもりなのだろうか。
大精霊のドロップ品を素材に、最高ランクの属性魔法を封じ込めた究極の魔法の武器とか。
フェルマータは続ける。
「ま、理由の出どころは私じゃなくて、こっちのマナがなんかずるいことを思いついたらしくて、それを試したいってことなんだけど――」
そこでバトンタッチして、マナが口を開く。
「――簡単に言えば、スキルポイントの節約。私の考えでは、うまくいけば、属性カテゴリ丸ごとSPの消費なしに全スキルを習得できる。それだけじゃなくて、エレメントレベルを上げることによる弱点値の変化も無くせると思うわ」
「えっ!?」
ローリエは驚いた。
そりゃそうだ。
属性カテゴリまるごとのSPが浮くというのは、ゲームバランスが崩壊する程の大事件になる。
例えば、ローリエは『木』『風』『土』のスキルを極めているが、そこに使われているSP量は膨大で、99000SPのうち、3割強はそこに消費されている。
3割は大したことないと感じるかもしれないが、ステータスを上げるにもSPを使用するこのゲームでは、半分程度をステータスに回すのがセオリーになっているわけで。
3割というのは、中々ウェイトが大きい。
もし、マナの話が本当で、その3割のSPを節約できるならば、単純にステータスが30%ほど上乗せできるかもしれない。それは非常に大きいことだ。
そして確かに、大精霊を相手に自称パラディンと自称魔法使いの二人で挑むのは色々と厳しいだろうという予想も立つ。
マナは続ける。
「一応、この試みは今の所私だけの実験だけれど、応用することができれば、他の皆にも恩恵があるはず。フェルや、あなたにも」
――。
ローリエは思う。
とても魅力的だけど、同時に胡乱な話だと。
それに、ちょっとあくどい気もする。
普通のプレイヤーなら、断るかもしれない。
でも、今のローリエの目的は、強くなることではない。
仲間を得ることだ。
パーティメンバーと共に、何かを成しえることだ。
だから。
「わ、解りました。強力致します。でも、『黄金雷帝ウェネリス』だけは、相手に出来ない、かも、です」
フェルマータが言う。
「ということは、つまりロリちゃんは『緑系魔法』を習得しているわけね?」
そして、ローリエは、うん、と頷いた。
ローリエの構成では、雷属性からの被害が200%になっている。
その上、『黄金雷帝ウェネリス』には木属性と風属性は全く通じない。
これは相性の問題だ。
このゲームは、高ランクの魔法を取るために『属性マスタリ』のレベルを上げると、それに応じて対応する属性からの影響力が変動する。
属性相関にキャラクターが組み込まれていくという事だ。
『木』は『土』に強く、『金』に弱い。
『風』は『重』に強く、『雷』に弱い。
つまり。
木のマスタリを上げると、金から。
風のマスタリを上げると、雷からの被害が増加するのだ。
だから風を極限まで上げているローリエに、金と雷属性の魔物の相手は出来ない。
マナが問う。
「所持エレメントのマスタリレベルは?」
「も……」
あ……。
『木』レベル10です。そう言いかけたが、ローリエはちょっと言い淀んだ。
なぜなら、攻略サイト等の情報を参考にすると、木属性魔法は人気が無いらしい。
このゲームは、派手でカッコよく、美しく強い、そんなアニメや漫画で見るような、映える構成がとても人気だ。
特に、一人しかキャラクターを作れない都合上、不人気なモノはとことん不人気が極まっている。
武器なら、斧系、棍棒、戦槌、細剣などは不人気だった。逆に圧倒的に人気なのは、刀剣類だ。
魔法なら、木、土、重、金は、あまり人気が無く、特に木、土、金はほぼ居ないと言っても良い。
魔法はやはり派手で解りやすい強さのモノ――火や熱、雷、風などが人気で、特に治癒に特化したヒーラー御用達の命属性魔法は、トップの人気だという。
そりゃ、剣と魔法の織り成す非現実を求めてVRMMOをやるのだから。
あえて地味で、見た目の良くないモノを使う気にはならないだろう。
サブキャラでも作れるなら、試しにネタキャラでも作ろうと思うのかもしれないけれど。
さらに、絶対数が少ないという事は情報量も少なく。
不人気スキル群は攻略サイトでも情報不足なようだった。
ローリエは、
属性スキルが『木』『風』『土』『重』
幾つか取得している武器スキルも、『細剣』を取っていたり。
不人気スキルばかりの構成になっている。
これは、なるべく街に寄り付かずにソロプレイする中で出来上がった、ぼっちプレイ特化構成なのだが――。
正直に答えたところで、
『うわー、不人気ばっかりの構成なんですね、ウケルー。そんなだからだれにも相手にされないんですよ。ああ、でも、引きこもりエルフにはお似合いかもしれませんねえ、ぷぷぷ』
などと、嘲笑でもされようものなら、メンタルが粒子崩壊してしまう。
「――か、風マスタリのレベルが10です」
なので、ローリエはちょっとだけ、逆方向にサバを読んだ。
「ということは、ロリちゃんは、風の魔法使い?」
「ああ、はい。そう、です」
「それじゃ雷属性は天敵ですね、ウェネリスは最後に回して、風が弱点になる『紫土重王サートゥルニー』から挑戦して行きましょ」
「は、はいっ!」
「それにしても、やっぱり、魔法使いだったのね。どうりで武器が見えないと思ったわ」
「そうです、ね。ははは……」
ローリエは、本当は魔法使いとは呼べない構成だけど、『違います』って言えない根性なしは、唯々諾々と、イエスマンをするのだった。
『ミミズクと猫・亭』のカフェテリア。
衝立で囲われたそのテーブルの一つを、ホムンクルス(仮)の少女、ドワーフの少女、エルフの少女が囲う。
やがて、機を見計らい。
テーブルの上に魔銀製のガントレットに包まれた両の掌を組み、その上に顎を乗せて。
どこかの司令官のように、フェルマータが話を始める。
「出会った時に言った通り、私たちには倒したいボスが居るの――。それも1体じゃなくて、合計で7体……」
7体……?
難敵で知られるボス級の魔物は、第二世界にいくつも存在しているが。
7体と訊いて、ローリエが思い浮かぶのは、各エレメントのカテゴリーを統べる大精霊くらいだ。
このゲームは、魔法の属性が沢山ある。
しかし、それは概ねカラーでカテゴライズされているのだ。
例えば――。
赤色=火と熱
水色=水と冷
黄色=金と雷
緑色=木と風
紫色=土と重
白色=光、聖、命
黒色=闇、邪、死
――という具合に。
そしてこのカラーごとに、それを代表するボスが存在する。
それが大精霊と言われるボスだ。
ちなみに、これらのボスは物理系の各武器カテゴリーにも存在している。
剣の大精霊や、弓の大精霊、と言った具合だが。
「……大精霊、って知っているかしら?」
フェルマータの言葉に、ローリエが予想した言葉が乗る。
7体ときいただけで、大精霊を予想できるのは、ベテランであることの証明だ。
あまり驚かず、どこか『あぁ、アレか』という感じの表情のローリエに。
フェルマータの口元は極微量の笑みを形作る。
「その反応は、予想通りという感じね」
嬉しそうなドワーフとは裏腹に。
ローリエは怪訝だ。
大精霊を倒したい。
それは解るが、何のために倒すのか。
何か、大それたモノを作るつもりなのだろうか。
大精霊のドロップ品を素材に、最高ランクの属性魔法を封じ込めた究極の魔法の武器とか。
フェルマータは続ける。
「ま、理由の出どころは私じゃなくて、こっちのマナがなんかずるいことを思いついたらしくて、それを試したいってことなんだけど――」
そこでバトンタッチして、マナが口を開く。
「――簡単に言えば、スキルポイントの節約。私の考えでは、うまくいけば、属性カテゴリ丸ごとSPの消費なしに全スキルを習得できる。それだけじゃなくて、エレメントレベルを上げることによる弱点値の変化も無くせると思うわ」
「えっ!?」
ローリエは驚いた。
そりゃそうだ。
属性カテゴリまるごとのSPが浮くというのは、ゲームバランスが崩壊する程の大事件になる。
例えば、ローリエは『木』『風』『土』のスキルを極めているが、そこに使われているSP量は膨大で、99000SPのうち、3割強はそこに消費されている。
3割は大したことないと感じるかもしれないが、ステータスを上げるにもSPを使用するこのゲームでは、半分程度をステータスに回すのがセオリーになっているわけで。
3割というのは、中々ウェイトが大きい。
もし、マナの話が本当で、その3割のSPを節約できるならば、単純にステータスが30%ほど上乗せできるかもしれない。それは非常に大きいことだ。
そして確かに、大精霊を相手に自称パラディンと自称魔法使いの二人で挑むのは色々と厳しいだろうという予想も立つ。
マナは続ける。
「一応、この試みは今の所私だけの実験だけれど、応用することができれば、他の皆にも恩恵があるはず。フェルや、あなたにも」
――。
ローリエは思う。
とても魅力的だけど、同時に胡乱な話だと。
それに、ちょっとあくどい気もする。
普通のプレイヤーなら、断るかもしれない。
でも、今のローリエの目的は、強くなることではない。
仲間を得ることだ。
パーティメンバーと共に、何かを成しえることだ。
だから。
「わ、解りました。強力致します。でも、『黄金雷帝ウェネリス』だけは、相手に出来ない、かも、です」
フェルマータが言う。
「ということは、つまりロリちゃんは『緑系魔法』を習得しているわけね?」
そして、ローリエは、うん、と頷いた。
ローリエの構成では、雷属性からの被害が200%になっている。
その上、『黄金雷帝ウェネリス』には木属性と風属性は全く通じない。
これは相性の問題だ。
このゲームは、高ランクの魔法を取るために『属性マスタリ』のレベルを上げると、それに応じて対応する属性からの影響力が変動する。
属性相関にキャラクターが組み込まれていくという事だ。
『木』は『土』に強く、『金』に弱い。
『風』は『重』に強く、『雷』に弱い。
つまり。
木のマスタリを上げると、金から。
風のマスタリを上げると、雷からの被害が増加するのだ。
だから風を極限まで上げているローリエに、金と雷属性の魔物の相手は出来ない。
マナが問う。
「所持エレメントのマスタリレベルは?」
「も……」
あ……。
『木』レベル10です。そう言いかけたが、ローリエはちょっと言い淀んだ。
なぜなら、攻略サイト等の情報を参考にすると、木属性魔法は人気が無いらしい。
このゲームは、派手でカッコよく、美しく強い、そんなアニメや漫画で見るような、映える構成がとても人気だ。
特に、一人しかキャラクターを作れない都合上、不人気なモノはとことん不人気が極まっている。
武器なら、斧系、棍棒、戦槌、細剣などは不人気だった。逆に圧倒的に人気なのは、刀剣類だ。
魔法なら、木、土、重、金は、あまり人気が無く、特に木、土、金はほぼ居ないと言っても良い。
魔法はやはり派手で解りやすい強さのモノ――火や熱、雷、風などが人気で、特に治癒に特化したヒーラー御用達の命属性魔法は、トップの人気だという。
そりゃ、剣と魔法の織り成す非現実を求めてVRMMOをやるのだから。
あえて地味で、見た目の良くないモノを使う気にはならないだろう。
サブキャラでも作れるなら、試しにネタキャラでも作ろうと思うのかもしれないけれど。
さらに、絶対数が少ないという事は情報量も少なく。
不人気スキル群は攻略サイトでも情報不足なようだった。
ローリエは、
属性スキルが『木』『風』『土』『重』
幾つか取得している武器スキルも、『細剣』を取っていたり。
不人気スキルばかりの構成になっている。
これは、なるべく街に寄り付かずにソロプレイする中で出来上がった、ぼっちプレイ特化構成なのだが――。
正直に答えたところで、
『うわー、不人気ばっかりの構成なんですね、ウケルー。そんなだからだれにも相手にされないんですよ。ああ、でも、引きこもりエルフにはお似合いかもしれませんねえ、ぷぷぷ』
などと、嘲笑でもされようものなら、メンタルが粒子崩壊してしまう。
「――か、風マスタリのレベルが10です」
なので、ローリエはちょっとだけ、逆方向にサバを読んだ。
「ということは、ロリちゃんは、風の魔法使い?」
「ああ、はい。そう、です」
「それじゃ雷属性は天敵ですね、ウェネリスは最後に回して、風が弱点になる『紫土重王サートゥルニー』から挑戦して行きましょ」
「は、はいっ!」
「それにしても、やっぱり、魔法使いだったのね。どうりで武器が見えないと思ったわ」
「そうです、ね。ははは……」
ローリエは、本当は魔法使いとは呼べない構成だけど、『違います』って言えない根性なしは、唯々諾々と、イエスマンをするのだった。
応援ありがとうございます!
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