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第五話 『ゴーストライダー』

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 地下遺跡から戻って、暫くしたある日の夜。
 ローリエは、『ミミズクと猫・亭』の裏手にある、訓練場所に居た。
 お店の裏手を出てすぐの木製のベンチに座って、ぼー、っとしているところだ。
 
 ちなみに、今は魔法使いモードで『骸王』の指輪もはめ直してあり、暗殺者が落とした『ストレングスアップリング+25』も装備したままだ。

 そんなローリエは。
 とても暇だった。


 そして、平日の今日。
 まだ、パーティの誰も接続していない。

 むしろ、ここ最近は、ユナとも、フェルマータとも、マナとも、まともに会話していなかった。
 なにせ、フェルマータもマナもリアルが忙しく、最近は殆どすれ違いだったからだ。
 ユナに至っては、遺跡の時以降、あれから1回もゲームに接続していない。
 
 だからローリエは今日も独りだ。
 しかし、狩に行く気も、買い物に行く気も起きない。
 独りでやるSP稼ぎは、もう3年の間にやりつくしたから。
 
 今はただ、暇を持て余してだらけていた。

 リアルでもゲームでも、特に何もする気が起きなくて。

 それなのに。
 ローリエは、スフェリカの世界に来ている。
 
 もう立派なゲーム廃人だ。 

 部活もしていないし、学校終われば定時で直帰がスタンダードだから。
 無駄に過ごせる時間はある。

 高校生なのに、こんなのでいいのだろうか。
 なんて思いつつ、ちょっと雲が多めの夜空を見上げている。




 そして、つぶやく。

「宿題もしたし、予習もしたし、ご飯も食べたし……」 

 暇だなぁ。



 なんて。
 マナから貰った日傘を杖代わりに、老人のように訓練所のベンチに座っていると。 
 

 ピロン、とSEが鳴って。
 

「みぃつけた」

「ごふぁっ!?」

 背後から小さい気配に抱きつかれた。

 その頑丈で金属製の胸板と、首に回されたガントレットが、柔肌にめり込んでガチガチと音を立てる。
 さらに、攻撃者の筋力値の高さと嬉しさのあまり力加減を間違えたことで、その威力は想像以上だった。
 
 ほぼヘッドロック状態で苦しむローリエは、振り返ることも許されずに。

「は、う、ぅぅ!? ダ、ダレ、デスカ……!?」

「フェルやめて。ロリ苦しそう」

「え? あ、ごっめーん」

 咳き込みながら。
 ローリエが振り向くと。

 見慣れた二人が立っていた。
 
「フェルマータさん……にマナさん? どうしてここに?」
 

「どうして、って。私が居たらお邪魔ってことぉ?」

「いえいえいえいえ!」
 そんなことないです。
 と、フェルマータの言葉をローリエは全力で否定する。
 邪魔だなんてマジでそんなわけないですから。

 「それにしても、繋いだらすぐそこにロリが居るとは思わなかったわ」
 
 ついさっきローリエがフレンドリストを見た時は、二人はまだログアウト状態だった。
 今しがたなったSEは、接続を知らせる音で。
 ログには、やはり、二人が接続したというメッセージが記録されている。
 ということは――。 
「え、えっと。じゃあ、つまりお二人は、いまログインしたところ、ですか?」

 拘束は緩んだけれど。
 まだ、ローリエの首に腕を引っかけたまま、フェルマータは、お疲れの様子でだらりと答える。
「ええ、そうよ。やっと解放されたわ」

「フェルも忙しそうだったわね」

「もう大変だったわ。イジワルな課題出されたり、提出するレポート大量に書かなきゃいけなかったりで。――先生も何かトラぶってたんだっけ?」

「まぁ、そんなところね。なんか、新入りが作ったプログラムのところ、バグ出まくりで大変だったのよ。納期も近かったし」
 
 へぇ。
 と言う感じで、ローリエは二人の話を聞き流す。
 ここ1か月ほどの会話を聞いている限り。
 たぶん二人は、社会人か大学生なのだ。
 
 だから、聞き流す。

 ローリエは、世知辛すぎる世間のことは考えたくない。
 このまま、誰かと触れ合う事が苦手なまま、何の仕事ができるのか。
 不安しかない。考えたくない。
 だから聞かない。
 今はまだ、社会なんて無かったことにしておこうと思うのだ。

 せっかく、ゲームの中に逃げているのだから。
 
 ところで、とマナ。

「ロリ、ユナとはどう?」

「ああ、そうね。遺跡どう? この前行ってたんでしょ?」
 
 そしてマナは、フェルマータのその一言に。
 くすくすと、元々のジト目をさらにジト目にして。
 意地悪く微笑む。

「フェル、二人の事すごい心配してたわ。LINKで、大丈夫かな? 大丈夫かな? って何度も送ってくるのだもの」

「だって心配でしょ! ユナちゃんは初心者だし、ロリちゃんはパーティ不慣れな感じだし」

「うっ」
 ローリエは、心が痛んだ。
 不甲斐ないばかりに心配をかけさせてしまった。
 申し訳ない。
 しかも、雑魚モンスターに殺されかけたし。
 
 ほんとうに、何をやっているのだろうか。
 そんなちょっとの自己嫌悪を感じていると。


 マナはきょろきょろして。

「ところで、ロリ、ひとり? ユナは?」

「ユナさんは、遺跡以来、繋いでないみたいです」

「そう?」

「ユナちゃん、いつも忙しそうだもんね」

 

 
 なんて話をしていると。
 ユナがログインしたというメッセージが流れてきた。

 噂をすれば影とやら。


 ローリエが、『風の囁きウィスパー』で連絡係をして。
 
 3人の居場所や、最適な移動ルートを享受する形で。
 30分ほどして、訓練所にユナが姿を見せる。

「先輩。フェルさん達も、お久しぶりです!」

 
 そうしてさんにんでひとしきり挨拶を終えて。
 雑談などをしていると。

 ユナが唐突に質問する。

「あの、ところで、手に入れた卵なんですけど……ローリエ先輩の卵にもカウントダウンて表示されていますか?」

 その言葉に。
 ローリエは。

「カウントダウン? なんのことですか?」と、不思議がり。

 フェルマータとマナは。

「卵!?」
 と驚く。

「はい、小さいのと大きいのがありますよね? 大きい方なんですけど」

 それについてローリエは何のことかわからない。
 フェルマータは、まさか、超レアのヤツのこと、まさかねと信じられず。
 マナは、冷静に問う。

「もしかして、カトブレパスの卵のこと?」

「はい、そうです」

「私の卵は、小さいのしかないですよ? 枠が虹色の卵ですよね?」

「……私、もう一つ拾いましたよ?」

「もう一つ?」

 

「え? 何? 本当にカトブレパスの卵なの? ユナちゃん、本当に?」

 ユナの言葉から、卵を手に入れたのが本当だと理解して。
 フェルマータもマナも、凄いと驚き、喜んだ。

「あそこは、当たりのダンジョン引くだけでかなりの運が必要な筈よ。良く行けたわね」

 そこで。
 ローリエは、その時のいきさつを軽く話し出す。

「一緒に遺跡で狩りしてるときにこの前のPKに襲われまして。そいつが使った魔法で、遺跡の階層が崩落たんです。それでそのままはぐれてしまって。そのIDで見つけたんですよ」

「崩落?」

「ロリ、それ詳しく」

 というわけで、ローリエはその後のことを二人に手短に説明する。

 かくかくしかじか。
 まるまるうまうま。

 フェルマータは再び驚き。
「えー!? またあのPKに襲われたの!?」

 マナは微笑んだ。
「遺跡を破壊するとIDに繋がるのは知っているけど、崩落するかどうかも確率は低かったはず。二人とも凄い運がいいわね」

 しかし、今はその苦労話はあとにして。
 それよりもだ。

「カウントダウンって?」

「え、っと、出してみますね」

 ユナが、問題のアイテムを、インベントリから取り出し、訓練所の地面に置き直す。
 すると。

 
「うわ……」

「大きいわね」

 フェルマータとマナの反応はこんな感じで。

「これ……あそこにあった石碑じゃないですか?」

 そう。
 それは、円形に囲うように並んでいたカトブレパスの卵の。
 ど真ん中に、ででん、と置かれていたでっかい石碑だった。

「あれ? これ石碑なんですか?」

 ユナは、石碑を引っこ抜いてきたのだろうか。
 でも、カウントダウンとは。

「残り時間はいくつなんです?」

「あと約1時間です」

「ば、爆弾とかじゃないでしょうね?」

「石碑なんでしょ? それは無いんじゃない?」

 そして相談の結果。
 1時間待ってみよう、ということになった。
 何が起こるのか、誰もまだ分からないまま。







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