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第捌話-帰国

帰国-5

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 習子が目を覚ますと朝になっており、見知らぬ天井がそこにあった。
「あ、知らない天井だ」
 そう呟く習子の目の前に勇仁の顔が姿を現す。
「おはよう」
「おはようございます・・・・・・」
 何故、勇仁がここに居るのか理解できず混乱する習子を他所に勇仁は話し始める。
「おじさんが何でここに居るのか。それからまず話し始めなきゃあな」
「はぁ」
「これに身に憶えないかな?」
 勇仁はサイレンサーが付いた銃が入ったポリ袋を見せる。
「い、いや見憶えないですね」
「白を切るのは結構だけど、習子ちゃんが来ていた制服から硝煙反応が出たし、これも習子ちゃんのこのバッグから見つけたんぜ」勇仁は横に置いてあったバッグを手に取り習子に見せる。
「やっぱり、悪いことは出来ないんですね」
「出来ないねぇ~」
「私が、賀美 金衛門を殺しました。
「そうか。残念だよ、君みたいな可愛い娘がこんな事するのは・・・・・・」
 勇仁が残念がると、習子はふふっと笑い始める。
「私、私。殺ったんですね。賀美を・・・・・・・」
 習子の目から涙がこぼれ落ちる。
「習子ちゃん・・・・・・・」
 泣き続ける習子を置いて病室を出る勇仁。
「お爺様、どうでした?」
 病室前で待っていた燐が成果を聞く。
「彼女は自分の犯行を認めたよ」
「そうですか」
「腹減ったし、なんか食いに行かね?」
 長四郎は二人にそう進言すると勇仁が「良いねぇ~」と言い長四郎と燐に付いて来るように合図をして一人歩きだす。
 そして、長四郎と燐は勇仁の行きつけだという横浜にあるハウスボートの喫茶店へと連れてかれる。
 店はどこか大人な雰囲気で、燐は少し緊張していた。
「モーニングセット三つ」
 マスターにそう注文し、カウンター席の隅の方に三人は並んで座る。
 長四郎は早速、事件の話を切り出す。
「勇仁、あの習子って女の人はヒットマンだと思うか? 俺はそう思わないんだけど」
「俺も長さんと同意見だな」
「ヒットマンって何?」勇仁に聞かれないように小声で長四郎に質問する。
「殺し屋」素っ気なく答える長四郎に「し、知ってたから!」と燐は答えた。
「はい、モーニングセット」
 白髭が似合うマスターが三人分のモーニングセットを出してくれる。
 トレイには、ホットドッグ、ゆで卵付きのサラダと牛乳が載っていた。
 勇仁は迷いなくケチャップとマスタードをかけ、長四郎も同様にかけて二人は食べ始める。
「お爺様はいつ、彼女が犯人だと見抜いたんですか?」燐は唐突に質問する。
「しょれは、かにょにぉきゃらしょうにぇんのにおいがしちゃから(訳:それは、彼女から硝煙の臭いがしたから)」
 口に含んだホットドッグをモグモグさせながら勇仁は答える。
「お爺様、汚いです」
 燐は勇仁を注意すると、ホットドッグを口に入れる。
「成程ね。という事は、最初に彼女と接触した時にそれに気づいた?」長四郎は勇仁にそう尋ねると「そぉ。よく分かっているじゃん」と返答する。
「つまりはプロじゃないって事か・・・・・・・」
 長四郎はそう言って、コップに入った牛乳を一気に流し込む。
「どういう意味?」燐は真意が読めず、長四郎に説明を求める。
「プロだったら、硝煙の臭いを残さないし。事件を起こしたら即退去する」
「そうか」
「そうかってねぇ~ラモちゃん、もう少し考えなさいよ」
「そうそう、長さんの言う通り」
「ごめんなさい。お爺様」
「で、これからどうする? 長さん」
「そうだなぁ~」
 長四郎は暫く考え込む。
「お爺様は彼女の動機って何だと思います?」
「復讐殺人じゃないか?」
「復讐殺人・・・・・・・」燐は下を向く。
「だとしたら、協力者を探すか」長四郎はそう呟いた。
「協力者!?」燐は素っ頓狂な声を出して驚く。
「何を驚く事があるのよ。一人で出来る犯行じゃないと思うけどな」
「流石、名探偵!」指をパチンと鳴らし、長四郎の推理に感心する勇仁。
「おだててもダメだぜ。勇仁」
「その協力者に心当たりはあるの?」燐の問いに長四郎は「無い!!」即答する。
「ダメじゃん」
「それをこれから調べるんだよ。その前に帰ってひと眠り」
 勇仁は燐にそう言って椅子から立ち上がり、マスターに三人分の料金を払って店を出る。
「あ、待って!!」燐はホットドッグの最後の一口を頬張り勇仁と長四郎の後を追う。
 それから数時間後、ひと眠りを終えた長四郎と勇仁は警視庁で落ち合うこととなった。
「おはよう、長さん」
「おはようごぜぇやす」
 二人は警視庁の玄関ロビーで挨拶を交わし、長四郎の案内で命捜班の部屋へと移動した。
 部屋に入るとしかめっ面をした一川警部と絢巡査長が、事件の詳細が書かれたホワイトボードを見ていた。
「どうかしました?」長四郎はしかめっ面の一川警部に話しかける。
「あ、長さん」
「俺も居るんだけど」
 一川警部に自分の顔を見せその場に居る事をアピールする勇仁。
「小上さんもいらっしゃったとですか?」
「いらっしゃったとです」勇仁はそう答えて、ホワイトボードを見始める。
「で、状況は?」
「実は捜査が打ち切りになりそうなんです」絢巡査長は悔しそうに下唇を噛む。
「なんで?」
「大方、上の奴らは事件を大事にしたくないんだろうな」
「なんでそんな事分かんのよ」
 勇仁は「長年の勘」とだけ答える。
「いいねぇ、長年の勘」長四郎はうんうんと頷く。
「それでね。あたしらも表立って動けんからどうしたもんか。考えとったと」
「じゃあ、俺たちが表立って動けばいいんじゃない?」
「えっ。でも、久々の日本なんですよね。ラモちゃんと一緒に過ごさないんですか?」
 絢巡査長の問いに「燐が普段、どんなことしているのか。お爺様として知っておきたいからね」勇仁は嬉しそうに答えた。
「それに優秀な相棒もいるし」
 勇仁は長四郎を見ると「俺が?」といった顔をして困惑する。
「あれ、ラモちゃんはどうしたんですか?」
『あ、忘れてた』
 絢巡査長にそう言われ、二人は声を合わせて互いの顔を見るのだった。
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