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第捌話-帰国

帰国-14

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 その夜、いつもの料亭で蒼間は叔父の蒼間刑事部長の到着を待っていた。
 大金が入った風呂敷包みを携えて。
「おじさん、遅いな~」
 スマホの時計を見ると集合時間の20時から一時間経過しようとしていた。
 遅れる際は、何か一報をくれるはずなのに変だとは思いつつ、以前から邪魔者であった男が社会的に抹殺されたのをこの目で確認した事に浮足立っていた。
 にしても、自分の犯行を素直に認めた良器には驚いたが、そんな事より自分の会社が業界シェアトップに立てる事が嬉しくそんな事はすぐに頭の中から消えた。
 少し身体を上下させソワソワしながら待っていると、仲居がやって来て「お待ちのお客様がご到着されました」そう言って後客を通す。
「待ってましたよ、おじさん!!」
 蒼間刑事部長である人間を見るとそこに立っていたのは、福部 習子であった。
「な、なんでお前がここに!!」驚きのあまり尻餅をつく蒼間に習子は服をめくり、ズボンと腹の間に挟んでいた銃を取り出して蒼間に向ける。
「何の真似だよ!! 敵討ちに協力してやったろ!!!」
「そうね。でも、貴方も仇の一人よ」
「じょ、冗談だろ?」
「冗談でこんな事は出来ないわよ」
「た、頼む。助けてくれ」目に涙を浮かべて懇願するが習子は聞く耳持たずと言った感じで銃口を蒼間に向けたままだった。
「貴方分かる? 試し撃ちするのと本当に人を撃ち殺した時の違い」
 習子の問いに蒼間は首を横に振るだけであった。
「それはね、殺した相手が亡霊として付きまとうの。それがにくい相手であればあるほど。
貴方はどうかしら?」
 習子はそう言いながら撃鉄を起こす。
「俺は化けて出ないから。こ、殺さないでくれ!!」
 土下座して懇願する蒼間の後頭部を掴み、顔を上げさせ習子は眉間に銃を突きつける。
「ひっ、ひい!!!」
 蒼間は涙をボロボロ流しながら、悲鳴をあげる。
「泣いてんじゃねぇ!!!」習子は蒼間を怒鳴りつける。
「しゅっしゅいましぇん!!」
「死ね」習子は蒼間の謝罪を聞き入れず、引き金を弾いた。
 カチッ
 部屋に乾いた音が響く。
「へ?」恐る恐る目を開けるとそこには習子ではなく長四郎の顔がそこにあった。
「た、探偵!!」
 安堵から長四郎に思いっきり抱きつくが「気持ち悪い」の一言と共に引き離される。
「さ、どうだった? いい年こいて殺される側の気分を味わった気分は」
「お前が仕組んだのか!!」
 今度は抱きつくのではなく掴みかかろうとする蒼間だったが華麗にかわされてずっこける。
「いい加減にあきらめろって」
 その声に顔を上げると勇仁が目の前に立っていた。
 そこで蒼間は自分の置かれている状況に気づいた。
「まさか、昼間の逮捕劇は茶番だったのか!!」
「今頃、気づいたんだ」
 蒼間刑事部長が座るはずだった席に燐が座っていた。
「じゃあ、あいつは捕まってないって事か」
「ご名答。彼の演技力には脱帽したよ」勇仁は感心し、うんうんと頷く。
「おじさんはどうした? あの人の権力さえあればどんな罪だって」
「おい聞いたか? 三十代になっても権力がぁ~って権力にすがりつく馬鹿が居たんだな? しかも、他人頼りの」
 長四郎達は、蒼間を嘲笑する。
「残念やけど、あんたの頼みの綱のおじさんは監察室で今頃、たっぷりと絞られとうと思うよ」
 今度は一川警部が姿を現す。
「そんな噓だろ」蒼間の表情は絶望という言葉が似合う表情を浮かべていた。
「さ、詳しい話は警視庁で聞きますから」
 絢巡査長は蒼間の手に手錠をかける。
「なぁ、聞かせてくれ。いつから俺の事を疑っていたんだ?」
 部屋を後にする前、今にも消えそうな声で蒼間は質問した。
「あんたが俺と勇仁に声を掛けた時。バカ丸出しだったよな? 勇仁」
「ああ、ちょーバカ丸出しだった」
 勇仁にもそう言われ「そうか」と切なそうに一川警部達に連行された。
 勿論の事だが、この場に駆り出された習子も一緒に。
 それから三日後、警視庁の取調室でとある人物達の面会が行なわれようとしていた。
「ここです」
 絢巡査長が取調室のドアを開けると習子は椅子から立ち上がり、深々と頭を下げる。
 ドアの向こうに立つ良器も同様に頭を下げる。
「さ、どうぞ」絢巡査長にそう促され、良器は部屋に入る。
「何かありましたら、言ってください」絢巡査長はそう二人に告げドアを閉める。
「頭をあげてください」
「そんな訳にはいきません」
「じゃなきゃ、話が出来ない」
「分かりました」頭を上げて良器を見る習子。
「この度は、僕のせいでご迷惑をおかけしてすいませんでした」
 まさか、良器の方から謝罪されるとは思わず、習子は固まってしまう。
「私の方こそ本当に申し訳ございませんでしたっ!!!」
 謝って許されるとは思っていないが、習子の口からは謝罪の言葉しか出なかった。
「あ、立ち話はなんなんで座りましょうか」
 良器は自分達が立ったまま会話をしていることに気づき、習子に着席を促す。
「はい。失礼します」
 二人は向かい合わせに座って話始める。
「貴方のしたことは、許されざることではありません」
「はい、分かっています」そう返事し、項垂れる習子。
「しかし、その原因は私自身にあることは否めません。だから、私と一緒に償いませんか?」
「へ?」思わぬ提案に素っ頓狂な声を出してしまう。
「この事件の元凶は私や逮捕された蒼間にありますから。あの時、自分が蒼間を力ずくで止めておけば習子さんのお姉さんが死ぬことはなかったんですから」
「もしかして、貴方が月命日に献花してくれているのって・・・・・・・」
「僕です。今まで黙ってすいませんでした」
「いえ、そんな。もし良かったらなんですけど、私は罪を償いに行きますので、どうか姉の墓の手入れをお願いできますか?」
「僕で良ければ全力でやらせて頂きます」
「そう言って頂けると助かります」
「いえ」
 そこから暫くの沈黙の後、習子が口を開いた。
「あの差し支えなければ、事件当夜の事を話して頂けますでしょうか?」
「はい、分かりました」
 良器の口から14年前の事件について語られるのだった。
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