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第拾捌話-美味

美味-1

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 その日、羅猛 燐らもう りんは普段は着ないドレスを来て都内にある一流ホテルのパーティー会場へと来ていた。
 海外に居る両親から代わりにパーティーへと出席するように言われた燐。しかし、燐は乗り気ではなかったのだが、パーティーの内容を聞き心変わりをし、ドレスを着て参加する事に決めた。
 今回のパーティーは上下新聞社主催の世界魚料理パーティーというもので、世界各国の魚料理を紹介、立食するといったパーティーであった。
 だが、燐はここへ来たことを後悔した。その理由は、至ってシンプルな答えであった。
 場違いな格好で着てしまったからだ。来席者皆、その業界人といった感じで、誰一人としてパーティー用の服装をしておらず、燐を除くほぼ全員がスーツ姿で出席していた。
「最悪。来るんじゃなかった」
 燐がパーティー会場へ入ってすぐに出た言葉はそれであった。
 だが、テーブルに並べられた魚料理達は美味しそうであったので、燐のモヤモヤとした感情はすぐに払拭された。
 皿を手に取るとすぐに、並べられた料理をどんどんと自分の皿に移しては食べていく。
「美味っ!!」
 取る料理、取る料理ごとに燐は同じ感想を述べ、胃袋に食べ物を入れていく。
 場違いな格好で来たこともすっかり忘れかけてた頃、「やっぱり、外国人には魚を生で食べる美味しさなど分らんのだ」という話し声が聞こえてきた。
 声がした方を見ると、70歳ぐらいの男性が取り巻きの中年男性達にドヤ顔で自分の見識を披露していた。
 取り囲む中年男性の1人が「流石は、谷原たにはら先生。仰ることが違う」と発言すると「その通り」「ああ、そうだ」と賛同する中年男性達。
 燐は少し不快感を示すが、目の前の食べ物に集中しているとまた。
「ふっ、思い上がりも甚だしいな。外国人が生食の魚を食べないだって? そんな浅はかな考えで食べ物が語れたもんだな」と言う声がした。
 そう発言したのは30代ぐらいのカジュアルスーツを着た男性であった。
「何ぃ~では、貴様に問うが貴様は外国人が好き好んで生魚を食うとでも思っているのか!」
「思っているさ」
「では、それを証明して見せろっ!!」
「望むところさ!!!」
 燐はその言い合いを聞き見ながら、某料理が漫画みたいな展開だなと思う。
 互いを睨み合う男2人の間を「失礼しまぁ~す」と言って通り抜けた燐は2人が言い合いしている日本食コーナーの刺身を皿に載せ食べ始める。
「ま、先生。これでも食べて怒りをお納めください」
 取り巻きの1人がタイのムニエルが載った皿を渡す。
「うむ。では、頂こう」
 そうして谷原はムニエルを口に入れたのだが、すぐに吐き出した。
「貴様、この料理に何を入れた!!」
 皿を渡してきた男性を問い詰めると「いいえ、何も」男性はおどおどしながら否定する。
 その時、ガッシャーンっという音が会場に響き渡る共に「きゃあー」という女性の悲鳴が上がった。
 音がした方に出席者の視線が集まる。
 そこには、床に倒れた女性がビクン、ビクンと身体を震わせもがき苦しんでいた。
「誰か! 救急車を!!」
 近くにいた男性が周囲の人間にそう告げるのだった。
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