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第拾玖話-有名

有名-4

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 スタジオハウスで撮影を終えた美雪が次に向かったのは、お台場にある某TV局であった。今度の仕事は、夜7時から放送される2時間番組の番宣で夕方のニュース番組に出演だった。
 だが、夕方の番組まではまだ時間があるのでその間に雑誌のインタビューや別番組の打ち合わせなどが入れられていた。
 勿論、長四郎と燐もそれに参加していたのだが、ここで問題が発生したのだ。燐が来るスタッフ皆に疑いの目を向けがんを飛ばしまくり、美雪の仕事に支障が出始めたので長四郎と燐は追い出されてしまった。
「あーあ、追い出されちゃったよ」
 渡り廊下を歩きながら長四郎は燐に苦言を呈す。
「あんたのやる気がないから、私が頑張ってあげたんじゃない」
「頑張って・・・・・・あんな、鬼の形相で相手を睨んでりゃあ、誰でも追い出すよ」
「違うね。私がミユキンより美しく可愛かったから、追い出されたのよ」
「何とでも言ってくれ」
 長四郎は参ったといった顔で、自販機コーナーへと入る。
「何、飲もうかなぁ~」長四郎が自販機の前で、どの商品を買おうか迷っていると燐がスマホ決済で飲み物を買い長四郎に渡す。
「ありがとう」
 長四郎は受け取り商品を確認すると、手の中に握られていたのはコンポタージュスープ缶であった。
「熱っ!!!」缶を思わず投げ捨ててしまう長四郎。
「ざまぁないね」
 燐は少し嬉しそうにしながら、冷めた缶コーヒーを渡した。
「こっちは私が飲むから安心しな」コンポタージュスープ缶を拾い上げた燐は、プルタブを開けて飲み始めた。
「ホント、嫌な女だな」長四郎もまたプルタブを開け、缶コーヒーを飲む。
「ねぇ、今回のストーカーってさ。ファンじゃない?」
「ファン? 何で、そう思うわけ?」
「今のところの感触だと、スタッフの中にはいないと思うんだよね。私的に」
「未だ見ぬスタッフを前にしても・・・・・・か。凄い自信だな」
「当然」
 燐が髪を振り乱しながら答えると、すぐ横の廊下から「どうなってんのよ!!!」と若い女性の怒声が聞こえてきた。
「すいません。すいません。善処しますから」
 若い女性にペコペコと頭を下げる男性が自販機コーナーを通り過ぎていった。
「あのお姉ちゃん、どこかで見たな」
「イチゴンだ」
「イチゴン? カネゴンの親戚か?」長四郎が聞き返すと「知らないの? ミユキンに次いで勢いのあるタレントだよ」そうイチゴンこと夢川 苺ゆめかわ いちごについてレクチャーする燐。
「あんた、知っているテレビタレント偏ってるんじゃない?」
「それはそうでしょ。好みのお姉さんはしっかりと把握するタイプなんだから」
「聞いた私がバカだった・・・・・・」燐は手で顔を覆い後悔する。
「少し気になるな」
 長四郎は缶コーヒー片手に苺の後を追い始めた。燐もそれに続く。
「急にどうしたの?」
「うん? 二、三聞きたい事があるからな」
「ふーん」
 そうして、長四郎と燐は苺の楽屋の前へと移動した。
「ねぇ」燐が横に立つ長四郎を突っつき「何?」と反応する長四郎。
「これ、これ」
 燐が指す先には澤村美雪の楽屋があった。
「ラッキーだったな。これで隣の部屋の会話が聞こえるな」
 長四郎はワイレスイヤホンを左耳につけると同時に、苺の楽屋のドアをノックした。
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