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本編●主人公、獲物を物色する
疑いに溢れるぼく
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「どういう……って? 何が?」
ぼくの問い掛けにリウイはキョトンとした。
ようやく膝を撫でる仕草を止めて、椅子に座るぼくの近くへとやって来る。
すぐそばに立ち、不思議そうな表情でぼくを見返すのは、何を聞かれたのかが分かっていないのかも知れない。
真剣な眼差しでぼくはもう一度、違う言葉ではっきりと尋ねる。
「だから……リウイは、ウェラン司祭と恋人だったり、セフレだったりするの?」
「ぶっ……! えぇっ? なっ……急に何言い出すんだよ、アドルっ。」
やや強めな口調で文句を言うリウイ。
せっかくの『麗しい』が目を見開いて……それでも糸のような細い瞳で、途轍もなく『麗しい』なのに変わりは無いが……不本意さを表しているんだろう。
だがぼくには。
すっかり疑いに浸かってしまったぼくには、事実を言い当てられたからこそ激しく動揺している……ようにも見えている。
「ウェラン司祭と言えば……彼は『麗しい』なタイプが凄く、好きじゃないか……。その司祭が、リウイを……こんなに奇跡な『麗しい』を目にして、何も……しないという選択肢が…」
「もうっ、何言ってんだよ。……アドル? いい加減に…」
「じゃ……っ! じゃあ、リウイは処女なのかっ?」
「……っ! バカぁっ!」
パアァンッ!
何かが破裂するような音がした。
どんな音に近いかと言えば、コンビニ前でたむろする若者が悪戯で使用する爆竹のような、そんな音だ。
その音が、リウイに頬を引っ叩かれた音だと気が付いたのは。
自分の手をぎゅっと掴んだリウイが、ぼくをキッと睨み付けた視線と目が合った時だった。
「あ……アドルのバカっ。ウェラン司祭と、そんな……変な事なんかするワケないだろっ。……俺を、何だと思ってんだよ……っ!」
リウイの荒げた声を聞きながら、じわじわと頬が熱くなっていくのを感じる。
それは羞恥心がどうのこうのという、そんな嬉し恥ずかしいものでは決して無くて。
「アドルみたいな貴族連中は、簡単にすぐ誰とでも寝る気だけど……。俺は、幾ら世話になってるからって、そんなホイホイ……。え…、エッチとかしねーからっ。」
一方リウイは、ぼくと違って恐らくは精神的な影響で顔が赤らんで来た。
つっかえそうになる言葉を吐き出して、ぼくへと向ける眼差しには少し悔しさが滲んでいるように見えた。
「ぼくだって、まだ……した事は無いよ。」
「う……、嘘だ。」
ほら……。リウイだって信じないじゃないか。
リウイの中にある、貴族の性生活に関するイメージと、ぼくが貴族だという事実とをイコールで結び付けている。
ウェラン司祭が『麗しい』タイプに目が無いというイメージと、リウイが『麗しい』の奇跡ランクだという事実を関連付けている、ぼくと同じだ。
――― もうこの辺で止めよう。この争いは不毛だ。アレックとの言い争い以上に不毛だ。
比較的冷静なボク部分が警告を出してくれている。
だが、ここで止められるようなぼくだったら、そもそもアレックともあれだけ不毛な言い争いを繰り広げたりはしていないよ。
ぼくは疑う事を止められない。
でも勘違いしないで欲しい。
ぼくは決して、怒っているわけじゃないんだ。リウイとは伴侶でも恋人でもないから、ぼくが怒る理由は無い。
寧ろそれならそれで、ぼくは地団駄を踏んで精々悔しがったり羨ましがって見せるから、そういう事だよと明らかにして欲しい。
ただ何となくだが、ぼくに対して誤魔化そうとか嘘を吐こうとしているように感じるのが、何かしら良くない方向でぼくの精神に作用しているんだと思う。
何か引っかかる部分があると、ついつい引き摺ってしまう。
あぁもう自分でも何を言っているんだか、分からなくなって来た。これは不味い。
「自分がそうだから、ぼくも嘘を吐いていると。そう思っているんじゃないか?」
「……ぐっ。」
唇を噛み締めたリウイがぎゅっと拳を握った。関節が少し白くなる。
次は引っ叩くんじゃ済まないかも。
そんな風に思いながら見ていると。
「随分と賑やかですなぁ。ただ、あまり楽しそうでないのは頂けない。」
ゆったりとした口調。
大人の余裕。
グラスを乗せたトレイを手に、ウェラン司祭が戻って来た。
恐らくぼく達二人のやり取りは聞かれていただろう。
「……お前と、話すの…楽しみにしてたのに。」
呟いたリウイ。
その声は聞こえるか聞こえないかも微妙な音量だったが、次の瞬間。
「アドルのバカあっ!!!」
凄く大きな声で。
何度目かの「馬鹿」を言い放ったリウイが部屋から飛び出して行った。
ぼくの問い掛けにリウイはキョトンとした。
ようやく膝を撫でる仕草を止めて、椅子に座るぼくの近くへとやって来る。
すぐそばに立ち、不思議そうな表情でぼくを見返すのは、何を聞かれたのかが分かっていないのかも知れない。
真剣な眼差しでぼくはもう一度、違う言葉ではっきりと尋ねる。
「だから……リウイは、ウェラン司祭と恋人だったり、セフレだったりするの?」
「ぶっ……! えぇっ? なっ……急に何言い出すんだよ、アドルっ。」
やや強めな口調で文句を言うリウイ。
せっかくの『麗しい』が目を見開いて……それでも糸のような細い瞳で、途轍もなく『麗しい』なのに変わりは無いが……不本意さを表しているんだろう。
だがぼくには。
すっかり疑いに浸かってしまったぼくには、事実を言い当てられたからこそ激しく動揺している……ようにも見えている。
「ウェラン司祭と言えば……彼は『麗しい』なタイプが凄く、好きじゃないか……。その司祭が、リウイを……こんなに奇跡な『麗しい』を目にして、何も……しないという選択肢が…」
「もうっ、何言ってんだよ。……アドル? いい加減に…」
「じゃ……っ! じゃあ、リウイは処女なのかっ?」
「……っ! バカぁっ!」
パアァンッ!
何かが破裂するような音がした。
どんな音に近いかと言えば、コンビニ前でたむろする若者が悪戯で使用する爆竹のような、そんな音だ。
その音が、リウイに頬を引っ叩かれた音だと気が付いたのは。
自分の手をぎゅっと掴んだリウイが、ぼくをキッと睨み付けた視線と目が合った時だった。
「あ……アドルのバカっ。ウェラン司祭と、そんな……変な事なんかするワケないだろっ。……俺を、何だと思ってんだよ……っ!」
リウイの荒げた声を聞きながら、じわじわと頬が熱くなっていくのを感じる。
それは羞恥心がどうのこうのという、そんな嬉し恥ずかしいものでは決して無くて。
「アドルみたいな貴族連中は、簡単にすぐ誰とでも寝る気だけど……。俺は、幾ら世話になってるからって、そんなホイホイ……。え…、エッチとかしねーからっ。」
一方リウイは、ぼくと違って恐らくは精神的な影響で顔が赤らんで来た。
つっかえそうになる言葉を吐き出して、ぼくへと向ける眼差しには少し悔しさが滲んでいるように見えた。
「ぼくだって、まだ……した事は無いよ。」
「う……、嘘だ。」
ほら……。リウイだって信じないじゃないか。
リウイの中にある、貴族の性生活に関するイメージと、ぼくが貴族だという事実とをイコールで結び付けている。
ウェラン司祭が『麗しい』タイプに目が無いというイメージと、リウイが『麗しい』の奇跡ランクだという事実を関連付けている、ぼくと同じだ。
――― もうこの辺で止めよう。この争いは不毛だ。アレックとの言い争い以上に不毛だ。
比較的冷静なボク部分が警告を出してくれている。
だが、ここで止められるようなぼくだったら、そもそもアレックともあれだけ不毛な言い争いを繰り広げたりはしていないよ。
ぼくは疑う事を止められない。
でも勘違いしないで欲しい。
ぼくは決して、怒っているわけじゃないんだ。リウイとは伴侶でも恋人でもないから、ぼくが怒る理由は無い。
寧ろそれならそれで、ぼくは地団駄を踏んで精々悔しがったり羨ましがって見せるから、そういう事だよと明らかにして欲しい。
ただ何となくだが、ぼくに対して誤魔化そうとか嘘を吐こうとしているように感じるのが、何かしら良くない方向でぼくの精神に作用しているんだと思う。
何か引っかかる部分があると、ついつい引き摺ってしまう。
あぁもう自分でも何を言っているんだか、分からなくなって来た。これは不味い。
「自分がそうだから、ぼくも嘘を吐いていると。そう思っているんじゃないか?」
「……ぐっ。」
唇を噛み締めたリウイがぎゅっと拳を握った。関節が少し白くなる。
次は引っ叩くんじゃ済まないかも。
そんな風に思いながら見ていると。
「随分と賑やかですなぁ。ただ、あまり楽しそうでないのは頂けない。」
ゆったりとした口調。
大人の余裕。
グラスを乗せたトレイを手に、ウェラン司祭が戻って来た。
恐らくぼく達二人のやり取りは聞かれていただろう。
「……お前と、話すの…楽しみにしてたのに。」
呟いたリウイ。
その声は聞こえるか聞こえないかも微妙な音量だったが、次の瞬間。
「アドルのバカあっ!!!」
凄く大きな声で。
何度目かの「馬鹿」を言い放ったリウイが部屋から飛び出して行った。
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