せっかくＢＬゲームに転生したのにモブだったけど前向きに生きる！

第三章 ～改めてゲームを見守ろうとしてから自分の名前を思い出すまで～

ルサーと帰り道

そっと様子を窺ったルサーが溜息を吐いた。

「……ったく。どっかでメシ食ってくか。」
「オレ、ちゃんと晩御飯、作ってるぞ。温め直せばすぐ食べれるように、して来た。」
「そ……そう、か。」

ルサーがバツの悪そうな顔で肩を竦めた。
身体の横で所在無さげに垂れてたルサーの手を取る。

「帰ったらすぐ晩御飯だぞ、ルサー。……ウチに、帰ろ？」
「……あぁ。そうだな。」






緩やかな坂道を下りるオレは、ルサーの手をまだ握ったままだ。
歩いてる途中、ルサーは離したそうにしてたけど、オレは気付かないフリをした。

手を離したらそのまま、ルサーがどっか行っちゃいそうな気がして。

「………。」
「………。」

何か話したいけど面白い話題も無くって、オレはただルサーの横顔を見てる。



不意に、ルサーが足を止めた。
オレも一緒に止まる。


「ビルメリオ……だったか？　お前が、探してた相手……。」
「え、あ、うん？」

話し出したのはルサーなのに、なんだか話しながら言葉を探してるみたいだ。
ルサーは唇を噛んで下を向く。


「ルサー。良く分かんないけど、何か伝えたいなら言ってくれ。」

ルサーがなんで今、ビリーの話を始める気なのかは分かんない。
家に着くまでの雑談にしては、この話題ってあんまり広がらないだろ。

オレはルサーに分かるように、繋いでる手をぎゅって強く握った。




ルサーが言うには。

どうやらルサーはこの一週間くらい、ビリーの情報を集めてくれてたらしい。
他の町にいる知り合いに、ビルメリオって名の若い兵士を知らないかって、連絡を取ってくれて。

オレは聞いてて、内心ビックリしてた。

だってビリーの話なんて、オレが居候させて貰う前に一度聞いただけだから。
ビルメリオって名前の新米兵士がいないか、って。
もしビリーと会えたら、オレの名前とか色々すぐに分かるって思ったからだ。
だから他の町にいるだろうビリーを探すツモリは、オレには無かった。

なのにルサーは、ビリーを探してくれてたんだ……オレの為に。
なんか悪いことしちゃった気分だ。

しかも、王都にいるルサーの知り合いが、心当たりがあるって話だ。

王都にいるなんて凄いぞ、羨ましいなぁ～。って思ったら。

こっから山の方に行った場所に、砦があるんだけどさ。
ビリーは王都じゃなく、そこに派遣される部隊に所属してた。

それで……。


ちょっと前に、兵士を辞めた……らしい。理由は不明。




だけど、兵士が辞職するような理由なんか……普通に考えたら限られてる。


この世界には妊娠って現象が無い。
赤ん坊は全部、神様の落し物だ。……それが、この世界での『生まれる』だ。

ハーレムの妻には、神様が赤ん坊を落とす為の目印が現れるらしい。
だからハーレムって仕組みは、とても重要で、保護されてる。

ハーレム以外にも、神様は色んな場所に赤ん坊を落とす。
村や町に限らなくて、街道や川っぺり、森の中も。

そんなとこで生まれた赤ん坊を探して保護するのが、兵士の重要な役割なんだ。
町には、専門の探索部隊、ってのもあったりする。
モンスターのいる山や森で、小さな赤ん坊を探す過酷な任務だ。


砦への派遣部隊に所属してたビリーは、酷いケガでもしたのか。それとも……。






「兵士を辞めたからって不幸だとは限らねぇぞ……？」

突然なビリー情報にビックリしたオレに、ルサーが続ける。

「……それが例え、辞める経緯に辛い事があったとしても、だ。」

さっきと逆に、ルサーから手をぎゅってしてくれた。
よっぽどオレの顔が情けない表情になってたんだろな。



「兵士以外で最近、この町や近くでそれっぽい人物の情報が無いか。調べてたらな……。」

手を繋いだまま、ルサーは来た道を振り返った。
一緒にオレも振り返ったら、賑やかな灯りが、凄く遠いのに鮮やかに目に入って来る。


「もしかしたら、の段階だが……。お前の目で、確認してみればいい。」
「それって……ルサー。」


あの賑やかな灯りのお店近くに、ビリーっぽい人がいる。ってことか？