王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ

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あの日の記憶

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 アネットが、自身の唐突な婚姻について耳にしたのは、婚儀のつい3日前のことだった。

 天から降り立った竜が人の身を得て治世を始め数百年、その伝承にもとづき授けられた権威のもと王国は栄え、民衆からの支持を集めていたが、数年前に大きな危機が訪れた。
 関係の緊迫していた隣国から攻め込まれ、領土を一部奪われたのだ。しかも、国土のほとんどが凍土で覆われた王国の中でも南部、畜産や農作物の多くをまかなっていた地域のため、王国にとって痛手以外の何者でもない。そこで、国を救ったのが王国の騎士、他でもないアロイスというわけだ。

 アロイスは異国の血を引く身で、褐色の肌に赤い髪、そして鳶色の瞳を持っていた。血統にこだわる王国民にとっては受け入れがたいものだったらしい、いわゆる被差別人種として侮蔑の目を向けられることが多かったようだ。孤児だった彼は傭兵として戦地に向かっていたが、その視野の広さと、状況の機微を察し臨機応変に対応する能力、その判断の迅速さと、みるみるその手腕を発揮していった。そして数年もしないうちに軍将へと上り詰め、異国にルーツを持つものとしては前例のないほどの功績を挙げている。

 そして、先の南部領土奪還戦である。そこでも緻密で計画的、それでいて大胆な采配を振るい、奇跡のような功績を残して凱旋することができたのである。

 そう、そして本題はここからだ。彼の功績が、なぜ王女アネットとの結婚の話に飛び火したのかは。
 アロイスは国土を奪還したことで、大きな国家の危機を救ったことから国王より大勲章を授けられたのだった。国王の面前で跪いたアロイスの赤毛が、ステンドグラスから降り注ぐ陽に反射して、鮮やかな真紅に燃えていたのを覚えている。そして父である国王直々に、軍服で襟の詰まった首元に重たそうな勲章が掛けられたのを、アネットも覚えているのだ。

 大勲章を授かった人間というのは、この歴史上そうそういるものではない。彼で八人目だと聞いた。そして、勲章を授かった人物は、国王に一つだけ願い事を聞き入れてもらえる、と言われている。
 これに制約はなく、国を寄越して国王にしろなどという、国家の安寧を揺るがすような願いでない限り、全ては聞き入れられてきた。馬鹿でかい宮殿を建てて一生遊んで暮らすでも、国中から美女を集めてハーレムを作るでも、なんでも許されるのである。
 そこで、驚く事にアロイスは、王国の二番目の王女であるアネットとの婚姻を申し込んできたというのだ。

 まず、この時点で彼女の頭は疑問符でいっぱいだった。
 アネットとアロイスは、この時点でほぼ面識がなかった。かつて一度、彼女が母の実家である領地に里帰りした時、護衛として彼についてもらったくらいしか接点はない。
 そして、なぜ王位継承権第一位である姉ではなく、次女である自分なのかということだ。王族と婚姻関係を結ぶメリットとして一番に思い至ったのは、権力の中枢に自分も入りこめるチャンスがある、ということである。いや、待てよ。そこで思い至る。さすがの父上も国の第一後継者の配偶者に、異国民出身の男を認めはしないだろう。国民感情を刺激することは目に見えているからリスキーだし、他国の王族と縁戚関係を築きたいという下心も考えればその選択はしない。

 もしかして、アロイスは、異国民の名誉回復を望んでいるのだろうか。王族と関係をもっただけでも、差別への抑止力となると思ったのかもしれない。
 それに利用されるかと考えると、アネットは少しだけ胸がちくりとしたような、嫌な気にさせられたのだった。



 結婚話はとんとん拍子に進んだ。父は反対するだろうか、と思ったが、現在アロイス以上の強さと統率力をもつ男がいないのだろう、今や彼自身の存在が他国への牽制であり、軍事力そのものなのである。そんな彼を手放したいわけもなく、中央に置いておきたい手前、むしろ娘を差し出すことで機嫌を取ろうとしている風にも見えた。

 婚儀は三日後と言われ、突然の命に戸惑ったり怒りをあらわにしたりする侍女をなだめながら、アネットは淡々と支度を済ませていった。

 彼女は、豊かな金髪に翡翠の瞳、透き通るような白い肌と、人形めいた美貌を持ち合わせており、細身のデザインの、純白のウェディングドレスがよく似合った。
 なぜこんなに美しい王女さまが、どこの馬の骨とも分からぬ野蛮な異民族と……おいたわしや。
 そう言ってさめざめと泣く乳母をなだめつつ、式がはじまり、初めて夫となる男と、アロイスと相対し、アネットは無意識に背筋がぐっと伸びる思いだった。

 自分よりも頭二つぶんは大きい、がっしりとした体躯。引き締まった身体をタキシードに包んでおり、いつも優美な貴族の立ち振る舞いを見慣れていたからか、立ち姿だけでも随分違和感を感じる。姿勢が妙に良く、歩き方は直線的で、視線や重心の掛け方からして、軍人としての身のこなしが染み付いているようだった。
 そして、眼光がこれはまた鋭い。射抜かれるだけで怖くて身体がすくんでしまいそうだ。威圧感に倒れてしまいそうなのに、男は何が気になるのか、アネットをそれはそれはじっと見ていた。惚けているそれではなく、どちらかというと、標本を観察している感じの。どことなく居心地の悪さを感じつつ、式は滞りなく進んでいく。

「汝は、いついかなる時も、共に支え合い、妻を愛し守ることを誓いますか」
「誓います」

 地響きでも起きそうな、腹の底から出したのではというくらいにドスのきいた低い声だった。怖い。アネットは気丈に背筋を伸ばしていたが、今にも失神しそうなくらいの緊張から、爪が食い込むくらいに手のひらを握りしめていた。



 そして、もっともこの日恐れていた瞬間、初夜が訪れてしまったのである。
 一応一連の流れや手ほどきは侍女から教えを受けたものの、ほぼ初対面の人間とそう言った行為に及べる気がさっぱりしなかった。
 それに、相手があの男である。まったく気遣いもなく事に及ばれてしまったら、どうしよう。痛みをただ耐え忍ぶだけの夜になってしまうのだろうか。
 ベッドのかたわらに座り、かたかたと震えながら、自分を抱きしめるように柔らかなネグリジェを掴む。下着は何もつけてはおらず、薄く手触りの良いそれだけが身体を包んでいて、これではうっすら色づいた胸の果実も、控えめに茂った下の金色も透けて見えてしまっている。

 ドアを遠慮がちに開く音がし、男が入ってくるのを罪人のような面持ちで見ていた。
 アロイスは、バスローブを一枚だけ羽織っている。柔らかい素材なので、身体のラインが惜しげもなく晒され、肉体美をこれでもかというほど見せつけられる。ふと見やれば、彼の胸には大きな傷痕があった。小さなものからよく目立つ、おそらく大怪我だったものだろう痕まで。

「……怖いですか」
「え?」
「お見苦しいでしょう、傷跡だらけでして」
「……い、いえ。あなた様が、我らのために戦ったその、勲章のようなもの、ですので……。」

 やや声が裏返ったかもしれないが、そう言い切ると、彼はアネットの方を一瞥した。だが、彼女の姿を見た途端ギョッとした顔をすると、顔を逸らし、目を合わせなくなってしまった。その耳は真っ赤に染まっている。
 どうしてそんな反応をされたのか分からないまま、まさかアネットは失言をしてしまったのかと、震える声で言葉を重ねた。

「あぁ、わたくし、騎士さまのお気に障ることを……ごめんなさい、貴方が痛い思いをなさったでしょう酷い傷痕のことを、勲章などと。どうかお許しください」

 アネットは色白の頬をさらに紙のように白くして、たまらず彼へと駆け寄り、胸の傷跡へ触れた。瞬間アロイスはハッとして、後ろに飛び退くと距離を取る。
 アネットは余計に混乱してしまった。突然男の身に触れては、驚かれるに決まっている。だがもう、こうなったらどうしていいか分からない。じいっとうつむいてアロイスの言葉を待っていると、彼は歯切れ悪く言った。

「あ……こちらこそ、申し訳ございません、王女のお手を払うなど、万死に当たる行為、この御無礼をお許しください。何度叩いても殴っていただいても構いません、アネットさまのお気の済むように……」
「えぇ!?そ、そんなことしませんわ!こちらこそ、突然近寄って殿方に触れるなど……驚かれても仕方がありませんわね。お許しください」

 神妙な顔で言うと、彼は何を思ったか、やや先ほどより硬さのない、緊張のほぐれた顔で笑った。その笑顔に、少しどきりとする。彼は無表情だと誰も寄せ付けないくらいに威圧感があるが、笑うとやや幼くなり、凛々しい好青年という風情になる。

「アネットさまはお優しいのですね。やはりあの頃とお変わりない」
「あの頃?……あの時、母の実家まで護衛をお願いした時かしら?」

 その言葉に、アロイスは心底驚いたようだった。意志の硬い鳶色の瞳が珍しく揺れていた。

「覚えて、おいででしたか……」
「えぇ。集められた人たち、第二王女の護衛なんて、ってやる気がないのは分かっていたから。けど、アロイスさまは違いましたわ。いつでも周囲を警戒なさっていて、緊張感をもったまま普段からお仕事なさっているのが伝わってきて。貴方なら命を預けられると思ったのよ。」

 アネットの母は身分が低かったことから、彼女には後ろ盾がなく、それが彼女の宮廷内での立場にも影響してしまった。やる気のない護衛の中で、彼だけはまともに働いてくれそうなのを肌で感じ、アロイス以外を帰らせたのを覚えている。我ながら大胆なことをしたものだ。

 アロイスはしばらく狼狽したように視線をさまよわせ、おそるおそるアネットを見た。そして、たまらなくなったかのように、アネットを正面から抱き寄せたのだった。清潔な石鹸と、彼自身から立ち上る体臭めいた雄の匂いに、アネットはくらくらした。

「そのように思っていただけていたとは……こんなに嬉しいことはありません。今日は間違いなく、俺の人生で一番幸福な日だ」
「きゃっ、アロイスさま!?」

 抱き上げられると、薔薇の花びらが敷かれたキングサイズのベッドにそっと壊れ物でも扱うかのように横たえられ、優しく髪をなでられる。

「どうしても貴女が欲しかった。出自や見た目なんかじゃなく、自分の目で見たものを真実と信じるその気高い心……。まさか、本当にこんな、貴女さまの高潔なお身体に触れられる日がくるなんて」

 金色の髪を撫でつけながら、耳元にそっと囁きが落とされる。

「こんな機会がなければ、無礼ながら、一晩だけでもご慈悲を、と貴女さまに跪き、すがっていたでしょう。まぁ、不敬罪で首を刎ねられていたでしょうが。」
「ひゃっ」

 薄く柔らかな布地を押し上げていた果実を、アロイスの指がつまみあげ、指の腹でこすこすと小刻みに擦った。

「このような扇情的な服を纏って……これは可愛がって差し上げねば」
「ひゃぁあん、やぁんっ!」

 スプリングの軋む音と共に、男が乗り上げてアネットの頭上に大きな影が覆い被さった。

「もう、俺の全てはあなたのものだ。だから今からこの身体すべてを使って、貴女に奉仕します。」

 そこから、彼の奉仕という名の快楽責めが始まったのだった。
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