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第一章 移住編
32. 暗雲 ◇
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俺は王宮で開かれた舞踏会に参加していた。
あれからずっと屋敷に引きこもっていたが、たまには気晴らしに踊るのもいいだろう。
そう思って参加したのだが。
「久しぶりだな、バルバラ。そっちはコリンヌだったか」
「あらマティアス殿……いえ公爵閣下、お久しぶりでございます」
「どうだ、俺と一曲踊らないか」
「申し訳ありません、婚約者と来ておりますので」
どの令嬢も似たような感じで、そっけなく断られてしまった。
参加している貴族たちは俺を遠巻きにして、話しかけて来ようともしない。
俺は一人、ぽつねんと立ち尽くしていた。
会場にいるのも嫌になり、庭園へ抜け出す。
ひと息ついている俺の耳に、女たちのかしましい声が遠くから聞こえてきた。
舞踏会に参加していた令嬢たちの一団だ。連れ添ってお花摘みか?
「私、先ほどマティアス閣下にダンスへ誘われましたの」
「私もよ!」
「まあ、あなたも?」
俺に聞かれているとも知らず、大きな声で喋っている。慎みのない女どもだ。
「王子であった頃ならともかく、今は公爵とはいえ領地もお持ちでは無いのでしょう?しかも一代限り」
「ということは、子供が出来たとしても平民になりますわよね」
「そんな方とダンスなんて、ねえ」
「「お断りよね~!!」
俺は愕然とした。
あの女ども、以前は俺に媚びへつらっていた癖に……!
「ふん!あんな醜女ども、こっちだってお断りだ」
俺は見つからないよう、その場を後にした。
酒でも飲まないとやってられない。
だけど屋敷には戻りたくない。
用意された屋敷は、粗末なものだった。今まで暮らしていた王宮とは比べものにならない。使用人も最低限の人数だ。
見ているだけで惨めになる。
何となく、その辺の酒場に入った。
夜も遅いのに繁盛している店だったので、ここなら寂しくないかと思ったのだ。
だが、すぐに後悔した。
酔っぱらった平民どもが騒いでいて煩い。出されたのも安酒だ。
おまけに、化粧臭い酒場女が触ってきた。気持ち悪い。
これを飲んだら出よう。
そう思っていたところに「マティアス様ではないですか?」と声を掛けられた。
誰だ?見覚えがないが……。
「商人のマルセル・ドラノエと申します。一度ご挨拶を差し上げただけですので、覚えておいでではないかもしれませんが」
何だ、商人か。
俺のもとには多くの商人が出入りしていたから、いちいち覚えていない。
ほとんどは女たちにねだられて、ドレスやら宝石を買うために呼び出したんだ。
今思えば、無駄な出費をしたものだ。
「こんな安酒場に公爵閣下がいらっしゃるとは」
「お前だって、ここで飲んでるじゃないか」
「はは、これはしたり。家で飲んでいると家内が煩いもので。こっそりと飲みに来てるのですよ」
他の平民どもよりはマシだろう。俺はひととき、マルセルと飲んだ。
気付くと、延々と愚痴をこぼしていた。
この男、妙に話しやすいな。聞き上手なようだ。
「そうですか。ご苦労なさっているのですね」
「それもこれも、あの女どものせいだ。全く、俺のそばにはロクな女がいない。特にあのシャンタルだ」
「とんでもない悪女ですな。どうやってラングラルの王族に取り入ったんだか」
「おお、気が合うな!」
なかなか見所のある男じゃないか。
「実は、私も以前シャンタルには酷い目に遭わされたことがありまして」
「ほう。何があったんだ?」
「まあ、ちょっとしたトラブルです。解決を依頼したのですが、ろくに対処もせず金だけ持って行かれました」
「何!?そんなことをしていたのか、あの女。クソッ。その話を父上にしていれば……」
だが、ラングラルにいる以上、奴に手を出すことは出来ない。アニエスも、シャンタルの側でのうのうと暮らしているのだろう。
俺がこんな目に遭っているというのに。
そんなことが許されていいのか。
「要は、ラングラルから追い出せばいいのですよ。かの国の保護がなければ、シャンタルは路頭に迷うでしょう」
「そんなことが出来るのか?」
「やり方次第ですな」
「教えてくれ、それを!」
見ていろ、精霊士ども。今度こそ目に物見せてやる。
あれからずっと屋敷に引きこもっていたが、たまには気晴らしに踊るのもいいだろう。
そう思って参加したのだが。
「久しぶりだな、バルバラ。そっちはコリンヌだったか」
「あらマティアス殿……いえ公爵閣下、お久しぶりでございます」
「どうだ、俺と一曲踊らないか」
「申し訳ありません、婚約者と来ておりますので」
どの令嬢も似たような感じで、そっけなく断られてしまった。
参加している貴族たちは俺を遠巻きにして、話しかけて来ようともしない。
俺は一人、ぽつねんと立ち尽くしていた。
会場にいるのも嫌になり、庭園へ抜け出す。
ひと息ついている俺の耳に、女たちのかしましい声が遠くから聞こえてきた。
舞踏会に参加していた令嬢たちの一団だ。連れ添ってお花摘みか?
「私、先ほどマティアス閣下にダンスへ誘われましたの」
「私もよ!」
「まあ、あなたも?」
俺に聞かれているとも知らず、大きな声で喋っている。慎みのない女どもだ。
「王子であった頃ならともかく、今は公爵とはいえ領地もお持ちでは無いのでしょう?しかも一代限り」
「ということは、子供が出来たとしても平民になりますわよね」
「そんな方とダンスなんて、ねえ」
「「お断りよね~!!」
俺は愕然とした。
あの女ども、以前は俺に媚びへつらっていた癖に……!
「ふん!あんな醜女ども、こっちだってお断りだ」
俺は見つからないよう、その場を後にした。
酒でも飲まないとやってられない。
だけど屋敷には戻りたくない。
用意された屋敷は、粗末なものだった。今まで暮らしていた王宮とは比べものにならない。使用人も最低限の人数だ。
見ているだけで惨めになる。
何となく、その辺の酒場に入った。
夜も遅いのに繁盛している店だったので、ここなら寂しくないかと思ったのだ。
だが、すぐに後悔した。
酔っぱらった平民どもが騒いでいて煩い。出されたのも安酒だ。
おまけに、化粧臭い酒場女が触ってきた。気持ち悪い。
これを飲んだら出よう。
そう思っていたところに「マティアス様ではないですか?」と声を掛けられた。
誰だ?見覚えがないが……。
「商人のマルセル・ドラノエと申します。一度ご挨拶を差し上げただけですので、覚えておいでではないかもしれませんが」
何だ、商人か。
俺のもとには多くの商人が出入りしていたから、いちいち覚えていない。
ほとんどは女たちにねだられて、ドレスやら宝石を買うために呼び出したんだ。
今思えば、無駄な出費をしたものだ。
「こんな安酒場に公爵閣下がいらっしゃるとは」
「お前だって、ここで飲んでるじゃないか」
「はは、これはしたり。家で飲んでいると家内が煩いもので。こっそりと飲みに来てるのですよ」
他の平民どもよりはマシだろう。俺はひととき、マルセルと飲んだ。
気付くと、延々と愚痴をこぼしていた。
この男、妙に話しやすいな。聞き上手なようだ。
「そうですか。ご苦労なさっているのですね」
「それもこれも、あの女どものせいだ。全く、俺のそばにはロクな女がいない。特にあのシャンタルだ」
「とんでもない悪女ですな。どうやってラングラルの王族に取り入ったんだか」
「おお、気が合うな!」
なかなか見所のある男じゃないか。
「実は、私も以前シャンタルには酷い目に遭わされたことがありまして」
「ほう。何があったんだ?」
「まあ、ちょっとしたトラブルです。解決を依頼したのですが、ろくに対処もせず金だけ持って行かれました」
「何!?そんなことをしていたのか、あの女。クソッ。その話を父上にしていれば……」
だが、ラングラルにいる以上、奴に手を出すことは出来ない。アニエスも、シャンタルの側でのうのうと暮らしているのだろう。
俺がこんな目に遭っているというのに。
そんなことが許されていいのか。
「要は、ラングラルから追い出せばいいのですよ。かの国の保護がなければ、シャンタルは路頭に迷うでしょう」
「そんなことが出来るのか?」
「やり方次第ですな」
「教えてくれ、それを!」
見ていろ、精霊士ども。今度こそ目に物見せてやる。
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