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第一章 移住編
43. フェリクスの事情
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私はクレッタ鉱山の件を陛下へ報告するため、王宮に赴いた。
といっても、報告の相手はアルフレッド王太子殿下だ。諸事の窓口は陛下の側近か王太子殿下が行っているため、今では陛下と直にお会いすることはほとんどない。
「鉱脈の開発が問題なく進みそうなのは良かった。流行病の件は気になるね。あの辺りはベルジェ伯爵の領地だから、調査するよう伯爵へ伝えておくよ」
「ありがとうございます、王太子殿下」
報告が終わって帰ろうとした時。
ノックの音もそこそこに、ブリジット殿下が飛び込んできた。
「シャンタル様がいらしてるんですって?」
「こらブリジット。行儀が悪いぞ」
「ごめんなさい、アルフレッドお兄さま」
息が荒いところを見ると、走って来たのだろう。
後ろから追いかけてきた侍女が「お仕事の邪魔をしては駄目です、ブリジット殿下」と慌てている。
「アニエスは一緒じゃないの?最近、ちっとも顔を見せないのだもの」
ぷぅっと膨らませた顔が愛らしい。
学園に通い出してからは毎日授業があるし、結構な量の宿題も出るので、アニエスもあれで忙しいのだ。
「学園は今日、お休みでしょ。てっきりシャンタル様と一緒に来ていると思ったのに」
「今日はシャレット侯爵のお嬢さんに招かれて、遊びに行ってます。ブリジット殿下が寂しがっていたと伝えておきますよ」
「ディアーヌのところに……?それ、大丈夫なの?」
殿下が微妙な顔をしている。
大丈夫とは?
「ディアーヌとは普段から仲良くしてもらってますよ」
「そうなの?まあディアーヌは年上好みだから……」
何やらぶつぶつと呟いている彼女を、侍女が執務室から連れ出した。
「ディアーヌは、フェリクスお兄さまの婚約者候補だったのよ。いえ、今もかしらね」
場所をブリジット殿下の部屋へ移して、お茶を頂きながら噂話に花を咲かせる。
ラングラルにはシャレット家とブルレック家の二つの侯爵家があり、常に権勢争いをしている状態だ。
ブルレック侯爵家にもディアーヌと歳の近い令嬢がおり、両家ともに第二王子妃の座を狙っていた。幼い頃は二人ともよく王宮へ遊びに来ており、フェリクス殿下とは幼なじみのような関係だったらしい。
年頃になったフェリクス殿下の婚約者候補として、当然二人の名が上がった。だがどちらか一人に決めようとすると、必ずもう一方の家から横槍が入る。そんなことの繰り返しだったらしい。
どちらかの令嬢に瑕疵となる点があれば判断材料になっただろうが、二人とも容姿や能力、気品、性格すべて申し分のない娘だった。
困り果てた国王夫妻は、フェリクス殿下に選ばせることにした。
「それで、フェリクスお兄さまが何て言ったと思う?」
フェリクス殿下は「二人とも幼なじみとして大切に思っているが、女性として見ることはできない。それに、今は勉学に忙しいのでそのような事に構う暇はない」と答えたそうだ。
何とも彼らしい台詞だ。
王子なのにあの歳まで婚約者がいないのを不思議に思ってはいたが、そういう事情があったのかと納得した。
「ディアーヌ自身はお兄さまより叔父上の方に懐いていたくらいだから、アニエスの事は気にしてないのかもしれないけれど。侯爵夫人はまだ諦めていないと思うわ」
といっても、報告の相手はアルフレッド王太子殿下だ。諸事の窓口は陛下の側近か王太子殿下が行っているため、今では陛下と直にお会いすることはほとんどない。
「鉱脈の開発が問題なく進みそうなのは良かった。流行病の件は気になるね。あの辺りはベルジェ伯爵の領地だから、調査するよう伯爵へ伝えておくよ」
「ありがとうございます、王太子殿下」
報告が終わって帰ろうとした時。
ノックの音もそこそこに、ブリジット殿下が飛び込んできた。
「シャンタル様がいらしてるんですって?」
「こらブリジット。行儀が悪いぞ」
「ごめんなさい、アルフレッドお兄さま」
息が荒いところを見ると、走って来たのだろう。
後ろから追いかけてきた侍女が「お仕事の邪魔をしては駄目です、ブリジット殿下」と慌てている。
「アニエスは一緒じゃないの?最近、ちっとも顔を見せないのだもの」
ぷぅっと膨らませた顔が愛らしい。
学園に通い出してからは毎日授業があるし、結構な量の宿題も出るので、アニエスもあれで忙しいのだ。
「学園は今日、お休みでしょ。てっきりシャンタル様と一緒に来ていると思ったのに」
「今日はシャレット侯爵のお嬢さんに招かれて、遊びに行ってます。ブリジット殿下が寂しがっていたと伝えておきますよ」
「ディアーヌのところに……?それ、大丈夫なの?」
殿下が微妙な顔をしている。
大丈夫とは?
「ディアーヌとは普段から仲良くしてもらってますよ」
「そうなの?まあディアーヌは年上好みだから……」
何やらぶつぶつと呟いている彼女を、侍女が執務室から連れ出した。
「ディアーヌは、フェリクスお兄さまの婚約者候補だったのよ。いえ、今もかしらね」
場所をブリジット殿下の部屋へ移して、お茶を頂きながら噂話に花を咲かせる。
ラングラルにはシャレット家とブルレック家の二つの侯爵家があり、常に権勢争いをしている状態だ。
ブルレック侯爵家にもディアーヌと歳の近い令嬢がおり、両家ともに第二王子妃の座を狙っていた。幼い頃は二人ともよく王宮へ遊びに来ており、フェリクス殿下とは幼なじみのような関係だったらしい。
年頃になったフェリクス殿下の婚約者候補として、当然二人の名が上がった。だがどちらか一人に決めようとすると、必ずもう一方の家から横槍が入る。そんなことの繰り返しだったらしい。
どちらかの令嬢に瑕疵となる点があれば判断材料になっただろうが、二人とも容姿や能力、気品、性格すべて申し分のない娘だった。
困り果てた国王夫妻は、フェリクス殿下に選ばせることにした。
「それで、フェリクスお兄さまが何て言ったと思う?」
フェリクス殿下は「二人とも幼なじみとして大切に思っているが、女性として見ることはできない。それに、今は勉学に忙しいのでそのような事に構う暇はない」と答えたそうだ。
何とも彼らしい台詞だ。
王子なのにあの歳まで婚約者がいないのを不思議に思ってはいたが、そういう事情があったのかと納得した。
「ディアーヌ自身はお兄さまより叔父上の方に懐いていたくらいだから、アニエスの事は気にしてないのかもしれないけれど。侯爵夫人はまだ諦めていないと思うわ」
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