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第一章 移住編

幕間2. 親の心

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 マティアスの処刑を執り行ったとの連絡が、ラングラルから来た。それを聞いた王妃つまは寝込んでしまった。

 勘当したとはいえ、我が子の死を悼まない親はいないだろう。
 どうしてこうなってしまったのか……。

 幼少時は、とても身体の弱い子だった。医師には成人するまで生きられるかどうか分からないと言われたほどだ。
 私と王妃はあの子を不憫に思い、できるだけ大切に扱った。乳母や侍女にも極力甘やかさせ、欲しがる物は何でも与えた。

 8才を過ぎる頃、マティアスは奇跡的に回復し健康になった。
 私と王妃が手放しで喜んだことは言うまでもない。
 そして立派な王族に育てるべく、侍従や教師を付けた。だがすぐに問題が起こった。
 講義や指導を嫌がって逃げようとする。厳しく叱りつけると、癇癪を起こして泣きわめいた。どうして以前ように優しくしてくれないのか、と。
 あの子は、甘やかされた幼少期を忘れられないのだ。私や王妃が懇々と言い聞かせても駄目だった。

 教師たちには匙を投げられた。
 決して頭の悪い子ではない。ただ、我慢という資質が欠落しているのだ。

 成長したあの子に、重要な執務は任せられなかった。
 内政も外交も軍事も、知識の足りないマティアスには無理だろう。婿養子に出すことも考えたが、国内の高位貴族には既に嫡男が居る。王子を伯爵以下に婿入りさせるわけにはいかない。いっそ国外へとも考えたが、あのように自堕落な者を外に出せば、我が国の恥を晒すことになると重臣たちに反対された。
 仕方なく当たり障りのない仕事を与えたが、それすらロクにこなせなかった。優秀な側近をあの子にあてがって、何とか表面上は取り繕ったが。

 他の息子たちは、さぞ甘い親だと思ったろう。現に長男のテオフィルは、あの子への嫌悪を隠しもしなかった。
 決して、マティアス以外の息子を軽んじているわけではない。私は息子たちを等しく愛している。だがどうしても出来の悪い子には、手を掛けてしまうものなのだ。

 アニエスとの婚約もそうだ。
 彼女には小精霊士スート・マスターという輝かしい未来がある。マティアスには何の実績がなくとも、「小精霊士スート・マスターの妻を支える夫」という肩書きが得られるはずだった。
 
 だが結果はどうだ。
 私のやったことは全て裏目に出た。あの子が泣きわめこうとも、甘やかすべきではなかったのだろう。今さらそれに気づいても、詮無いことだが。

 今はせめて、あの子の冥福を祈ろう。
 冥府へ旅立ったマティアスが、安らかに眠れるように。
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