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第二章 試験編
92. 探り合い
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「ロザリー様の詩はいつお聞きしてもすばらしいわ!そう思いませんこと?シャンタル様」
「あらサビーナ様。シャンタル様は詩を好まれないようですわよ」
「まあ、そうでしたわ。このような高尚な催しには、あまり顔を出されませんでしたものね」
「いや、そんなことはありませんが……」
今日は王妃様のサロンへお邪魔している。
詩を朗読して感想を述べ合う会……とは名ばかりで、噂話という交流を深めるのが真の目的らしいけど。
今まで社交は出来る限り避けていたが、王弟へ嫁ぐと決めた以上、そうもいかない。
そのため、まずは小規模なサロンからと王妃様が呼んでくださったのだが……。
退屈過ぎる。
ご婦人たちのほとんどは詩などそっちのけで、どこそこの家の事業が上手くいってないとか、誰それの夫が浮気しているらしいと噂話に花を割かせている。
正直に言って、全く、これっぽっちも興味が無い。
しかも先ほど二人のように、さりげなく嫌みを挟んでくる奴もいる。
普段ならば売られた喧嘩は買う私だが、王妃様の顔を潰すわけにもいかない。ひたすらニコニコとして時折相づちを打つ。顔が攣ってきそうだ。
帰りたい……。
アルカイックスマイルを浮かべながら、頭の中で精霊術の構築式をこねくり回しているところに「シャンタル様」と声を掛けてくるご夫人がいた。
「これはブルレック侯爵夫人」
「今日の青いドレス、よくお似合いですわね」
「侯爵夫人も、そのドレスの落ち着いたデザインがよく似合っておられますね」
もちろん、社交辞令である。
互いのドレスを褒め合うのはちょっとお話ししましょう、という合図らしい。これも王妃様に教わった。
「アニエス様はいつお戻りになるのかしら?」
「出立してから一ヶ月ほど経ちますから、戻りは今月の終わり頃になるかと思います」
「そうですの。お弟子様が小精霊士となれば、シャンタル様もさぞや誇らしいでしょうね」
「ははは、それはまあ」
「ところで」
夫人が扇で隠した顔をぐいっと近づけてきた。
「アニエス様のご実家は、ハラデュールでしたわよね?」
「はい。しかし両親は既に亡くなっておりますので、私が親のようなもので」
「王子妃になられるのですから、やはり両親は揃っていたほうが良いと思いますのよ。いえ、もちろん大精霊士たるシャンタル様がいらっしゃるのですから十分ですけれど。後ろ盾は多い方がよろしいでしょう?」
「はあ……」
何が言いたいかよく分からず、生返事をする。
「あらあらブルレック侯爵夫人。シャンタル様が困っておられますわよ」
会話に入り込んできたのは、シャレット侯爵夫人だった。
二人はにこやかに挨拶をしているが、互いに牽制するような目つきで火花を散らしている。間にいる私にまで火の粉が飛んできそう。
「うちのディアーヌは、アニエス様と姉妹のように仲が良いんですのよ。後ろ盾というならば、我が家をお選びになるべきではなくて?本当の姉妹になれば、アニエス様もきっとお喜びになりますわ」
……そういうことか。
貴族社会の常識に疎い私でも、さすがに察した。
常に覇権を争っているこの二大侯爵家は、競って娘をフェリクス殿下の妃にと目論んでいた。それを諦めた代わりに、今度はアニエスを養女にしようとしているのだ。
「まあ、何のお話をしているのかしら?」
「あら王妃様」
「いえね、シャンタル様にうちの娘の授業態度についてお聞きしていたのですよ」
王妃様の出現に、二人の夫人はほほほと笑って話題を変えた。
た、助かった……。
「あらサビーナ様。シャンタル様は詩を好まれないようですわよ」
「まあ、そうでしたわ。このような高尚な催しには、あまり顔を出されませんでしたものね」
「いや、そんなことはありませんが……」
今日は王妃様のサロンへお邪魔している。
詩を朗読して感想を述べ合う会……とは名ばかりで、噂話という交流を深めるのが真の目的らしいけど。
今まで社交は出来る限り避けていたが、王弟へ嫁ぐと決めた以上、そうもいかない。
そのため、まずは小規模なサロンからと王妃様が呼んでくださったのだが……。
退屈過ぎる。
ご婦人たちのほとんどは詩などそっちのけで、どこそこの家の事業が上手くいってないとか、誰それの夫が浮気しているらしいと噂話に花を割かせている。
正直に言って、全く、これっぽっちも興味が無い。
しかも先ほど二人のように、さりげなく嫌みを挟んでくる奴もいる。
普段ならば売られた喧嘩は買う私だが、王妃様の顔を潰すわけにもいかない。ひたすらニコニコとして時折相づちを打つ。顔が攣ってきそうだ。
帰りたい……。
アルカイックスマイルを浮かべながら、頭の中で精霊術の構築式をこねくり回しているところに「シャンタル様」と声を掛けてくるご夫人がいた。
「これはブルレック侯爵夫人」
「今日の青いドレス、よくお似合いですわね」
「侯爵夫人も、そのドレスの落ち着いたデザインがよく似合っておられますね」
もちろん、社交辞令である。
互いのドレスを褒め合うのはちょっとお話ししましょう、という合図らしい。これも王妃様に教わった。
「アニエス様はいつお戻りになるのかしら?」
「出立してから一ヶ月ほど経ちますから、戻りは今月の終わり頃になるかと思います」
「そうですの。お弟子様が小精霊士となれば、シャンタル様もさぞや誇らしいでしょうね」
「ははは、それはまあ」
「ところで」
夫人が扇で隠した顔をぐいっと近づけてきた。
「アニエス様のご実家は、ハラデュールでしたわよね?」
「はい。しかし両親は既に亡くなっておりますので、私が親のようなもので」
「王子妃になられるのですから、やはり両親は揃っていたほうが良いと思いますのよ。いえ、もちろん大精霊士たるシャンタル様がいらっしゃるのですから十分ですけれど。後ろ盾は多い方がよろしいでしょう?」
「はあ……」
何が言いたいかよく分からず、生返事をする。
「あらあらブルレック侯爵夫人。シャンタル様が困っておられますわよ」
会話に入り込んできたのは、シャレット侯爵夫人だった。
二人はにこやかに挨拶をしているが、互いに牽制するような目つきで火花を散らしている。間にいる私にまで火の粉が飛んできそう。
「うちのディアーヌは、アニエス様と姉妹のように仲が良いんですのよ。後ろ盾というならば、我が家をお選びになるべきではなくて?本当の姉妹になれば、アニエス様もきっとお喜びになりますわ」
……そういうことか。
貴族社会の常識に疎い私でも、さすがに察した。
常に覇権を争っているこの二大侯爵家は、競って娘をフェリクス殿下の妃にと目論んでいた。それを諦めた代わりに、今度はアニエスを養女にしようとしているのだ。
「まあ、何のお話をしているのかしら?」
「あら王妃様」
「いえね、シャンタル様にうちの娘の授業態度についてお聞きしていたのですよ」
王妃様の出現に、二人の夫人はほほほと笑って話題を変えた。
た、助かった……。
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