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8.
しおりを挟む――その頃、勇者ダミアンパーティでは……
「――Aランククエストなんて、俺たちには楽勝なんだよな」
ダミアンはそう息巻く。
クエスト紹介所で、いきなりSランク認定を取り消され、ダミアンの怒りは頂点に達していた。
だが、いかんせん紹介所あってのギルドだ。逆らうことはできない。
とにかく、クエストを軽々こなして、Sランクにふさわしいと証明するしか道はなかった。
「全く、あの紹介所のクソ女。私たちが、Bランク程度の実力なんて。本当によく言えましたね」
盗賊のオリビアも悪態づく。
「全くだぜ」
「そうよそうよ」
槍使いのゴイル、魔法使いのデイジーも勢いよく欲頷いた。
「ちゃっちゃとこんな任務片付けましょ」
「ああ、そうだな」
今回のクエストは、Aランクダンジョン奥部に眠る<宝>を取ってくると言うものだった。
そのダンジョンは、少し前に別のクエストで攻略したことがある場所だったので、ハッキリ言って楽勝である。
「よし、早速いこう」
四人は勢いよくダンジョンに足を踏み入れる。
†
低階層はスムーズに進んでいく一行。
だが、中階層に差し掛かったところで、槍使いの巨男ゴイルが、皆にその違和感を告げる。
「なんかさ、気のせいだとは思うんだけど、体が重くね?」
それは、ゴイルの中ではかなり大きな違和感だった。
別に体調が悪いとかそう言うわけではないのだが、何だか体の動きにキレがないような気がしたのだ。
そしてそれを感じているのは、ゴイルだけではなかった。
「実は、私もなんだよね。魔法が発動するまでの時間がいつもよりかかってる」
魔法使いのデイジーもそう打ち明けた。
「何、二人もなの?」
オリビアも同意する。
「――実はボクもだ」
リーダーのダミアンも全く同じだった。
「何か、ダンジョンに妨害されてるのか?」
「でも、前回来た時はそんなこと全くなかったじゃん」
「確かに、そうだよな。他にもこのダンジョンを攻略してるパーティはいるけど、そんな話聞いたことない」
「じゃぁ、何が原因だ?」
「さぁな」
一行の中で懐疑心が募る。
そして、ゴイルがポツリという。
「もしかしたらだけどさ……あいつを追い出したことは関係ねぇよな?」
すると、すぐさまダミアンが否定する。
「あるわけねぇだろ? あのカス派遣冒険者一人で何が変わるってんだよ」
「……だよなぁ! あるわけねぇよな!」
「そうよ。あるわけないわ」
「悪い悪い、その通りだわ」
「Bランクの実力しかないって言われて、頭にきてるから本調子じゃないのかもな。さっさとボクたちの力を証明しよう」
ダミアンはそう言って再び歩き出す。
「ああ、そうだな」
周りも頷いて、ダミアンについていく。
だが――
中層まで来たところで、一行は比較的強力なモンスターに出くわす。
「ミノタウルスだ!」
Cランクダンジョンならボスクラスのモンスターだ。
しかしAランクダンジョンでは中層でもゴロゴロ出没する。
と言っても、勇者であるダミアン率いるパーティにとって、大した敵ではない……と思っていた。
「ハァァァッ!!」
ダミアンは跳躍して、頭上から剣を振り下ろす。
一撃で終わらせる!
――はずだったが。
だが、剣はミノタウルスの盾に受け止められる。
「なにッ!?」
一行は驚く。
ダミアンはミノタウルスを一撃で仕留めるだけの力があるはずだった。
実際、前に来た時はミノタウルスなど軽々屠って見せたのだから。
なのに、まさか攻撃を防がれるとは。
「くそ、コイツ、強い!!」
ダミアンが言うと、周りも慌てて援護を始める。
「“ファイヤーランス・レイン”!!」
デイジーの上級魔法が炸裂する。
前に来た時は、この魔法で三体のミノタウルスを一気に屠(ほふ)った。
しかし、炎の槍はようやくミノタウルスの盾を貫くのが精一杯だった。
「おいおい、手加減してるのか?」
ゴイルがパーティメンバーに尋ねる。別に煽っているのではなく、本当にそう思ったのだ。
自分たちはSランクの実力がある。それが、こんなCランクボス程度に手こずるはずがない。
ゴイルは盾を失ったミノタウルス相手に突撃を敢行する。
槍はもろにミノタウルスの巨体に突き刺さる。
だが、それでもミノタウルスは倒れなかった。
オリビアが鑑定スキルで確認すると、ミノタウルスのHPは5分の1も減っていなかった。
「クソ!」
さらにダミアンが渾身の一撃を食らわせる。
これは確実にミノタウルスのHPを減らす。
だがここでミノタウルスが反撃に出る。
ダミアンをその腕で掴んで地面に叩きつけたのだ。
「うぐッ!!」
「ダミアン!」
そうやって<勇者>ダミアンが、地面にひれ伏している姿をパーティメンバーは久しぶりに見た。
これはやばいと周りも焦りだす。
「クソ!」
そこから四人はなりふり構わず戦う。
そして十分ほどの格闘を経て、ミノタウルスはようやく倒れた。
気がつくと、皆HPもMPも大きく減っていた。
「……おいおい、マジでみんな調子悪すぎねぇか」
ゴイルが言うと、周りも流石に認めざるを得なかった。
「確かに……。まさかこの程度の相手に手こずるなんて思わなかったわ」
だが、ダミアンは否定する。
「……たまたまだろう。もしかしたらダンジョンのモンスターが強くなったのかもしれない。とにかく先に進もう」
――内心の焦りを隠して、ダミアンは歩き始めた。
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