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第5話

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という事はこの結婚は、バルト公爵にとっても不本意であるという訳だ。

この家でも、あちらの家でも邪魔者扱いかぁ…やっぱり逃げ出せば良かったかな?なんて思っても、もう遅い。
私の結婚は既に明日へ迫っていた。

だからといって、私の生活には変わりはない。使用人として朝起きて、使用人として夜眠る。
こんな私が明日には公爵夫人など…何かの冗談じゃないのかと思う。

荷物を纏めると言っても、殆んど何も持っていない。
メイドと同じお仕着せと、寝巻き。下着が数枚。それと母の形見のブローチだけだ。荷物を纏めるのに数分しか、かからなかった。
さすがに、メイドのお仕着せで嫁ぐ訳にもいかないだろうが…父が用意してくれているとも考え難い。
どうしたら良いだろうか…そう考えていると、執事がやって来て、

「これは…亡くなった家内のワンピースです。若いお嬢様に着て頂くには、なんせ型も古いし、地味なのですが…」
とベージュのワンピースを私に渡してくれた。

確かに17歳の私には少し地味だが、品は良い物だった。私は、

「ありがとう。公爵様の所へ行くのに、どうしたら良いか悩んでいたの。
でも…良いの?こんなに綺麗にしてあるんですもの…大切な物ではなかったの?」
と訊ねずにはいられなかった。

すると、老執事は、

「いやいや。私が持っているよりも、お嬢様に着て頂いた方が家内も喜びます。
お嬢様には、本当に…辛い思いばかり…」
と泣き出してしまった。

「貴方のせいじゃないわ。悪いのはお父様よ。それに、貴方から貰う甘味がいつも私を励ましてくれていたもの。
今までありがとう。体に気をつけて…元気でね」
と彼との別れを静かに済ませた。
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