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第109話

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「何しに来た!父親のこんな姿を見て、笑いに来たのか!」

牢の中の父は随分と酷い有り様だった。

目は落ち窪み、髪はボサボサ。無精髭は伸び放題。

痩せたな…。それが久しぶりに見た父の印象だった。

髪の毛にも白髪が目立つ。強制労働が彼にとって逃げ出す程辛いことだったのだろうと容易に想像ができた。

そんな父の言葉に、旦那様が殺気立った。
私は横に座る旦那様に顔を向け、少し顔を横に振る。
これぐらいの罵声など朝飯前だ。

「そんなつもりはありません。多分、貴方に会うのはこれが最後になるでしょう。なのでこれだけは言っておきたくて」
と私は父親の方に顔を向けた。

「…何だ」
と低く唸るように返事をした父に私は、

「私、貴方に御礼を言いたくて。
私をバルト公爵の元へ嫁がせて下さってありがとうございました。
私、貴方を恨んだ事もありましたが、この結婚については本当に感謝しているんです」
と笑顔で御礼を言った。

きっと彼にとっては嫌味に聞こえる事だろう。
でも、私は心から感謝しているのだ。
あの時…私があのまま18歳になって、あの家を出て、平民として暮らし始めていたら、決して旦那様と出会う事はなかっただろう。

平民としてそれなりに幸せに暮らしていたかもしれない。
でも、今、私の周りに居て、私と共に笑い、私の為に泣いてくれる皆にも出会う事は出来なかったのだ。


「ふん!お前には嫌われ者がお似合いだと思ったんだ。お前も嫌われ者だからな。
嫌われ者同士仲良くやれば良いと思ったし、お前がそこの男に捨てられるならそれはそれで面白いと思ったんだよ!」
と吐き捨てるように言う父の顔はとても醜く歪んでいた。


すると、旦那様がいきなり立ち上がり、

「アメリア行こう。こんな奴と話をしていても時間の無駄だ」
と私に言った。

そして、旦那様は父に向かって、

「お前、金さえ返せば許してやろうと思っていたが、余程辛い労働をしたいようだな。
死んだ方がマシだと思えるような場所を用意してやるから、有り難く思え」
と言うと、私に手を差し出した。

私は自分の手をその手に重ねると椅子から立ち上がった。

その私の姿を見た父が、

「お前…妊娠してるのか?」
と私に言うと、

「ははは!良い気味だ!お前は悪魔の子を生むんだ!」
と掠れた声で笑い叫んだ。

私の手を掴んだ旦那様の手に力が入る。

私はもう一方の手でその手を柔らかく包み込むと旦那様に微笑んだ。

そして私は父の方へ顔を向け、

「悪魔と言うのは誰の事でしょう?まさか…私の主人の事ですか?
そんな事を言っているのは…もう貴方だけだと気付いた方がよろしいですよ?」
と微笑んだ。
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