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その12
しおりを挟むその騎士は私の前に立つと、
「…お前が王女に着いてくる侍女か?」
と私に訪ねてきた。私は、
「はい。私はミシェル殿下付きの侍女、シビルで御座います。ベルガ王国、王城までの道中よろしくお願いいたします」
と礼をした。
「そうか…俺の事はクリスと呼べ。この護衛団を指揮するものだ。まず、この馬車全てが輿入れの道具か?」
「いえ、この内の1台は、他の侍女が乗っておりましたので、道具や衣類の乗った馬車は10台になります」
「ふん。流石は王女と言いたい所だが…こんなに必要なのか?」
「もちろん、ベルガ王国への手土産も御座います故。
では、御者に次の目的地を知らせて来ても?」
「いや、それは、こちらが行う」
「では、私は殿下の元へ…」
「いや、お前にはまだ訊きたい事がある。少し此方へ来てもらおう」
と私はそのクリスと言う騎士に連れて行かれそうになる。
「ちょ、ちょっとお待ち下さい。私は殿下の側を、長々と離れるわけには参りません」
「すぐに済む。此方へ」
何故か有無を言わさぬ圧をかけられる。
私は馬車の隊列の真ん中にある、殿下の乗った馬車に目をやる。
「では、少しお時間を下さい。殿下へ許可を頂いて来ます」
私がそう言うと、
「仕方ない、俺も着いて行こう」
と言われた。
逃げたりしないんだけど…やっぱり歓迎されていないからかしら?
信用がないのかもしれない…。
私は仕方なく、クリス様と共に、殿下の馬車に向かう。
扉をノックし、殿下へ声を掛けた。
「殿下。すみません。少しの間、こちらを離れます。すぐに戻りますので」
「ちょっと、早く戻りなさいよ!私1人にするなんて、それでも私の侍女なの?クビにするわよ!」
…クビにしたら、侍女が誰も居なくなりますよ?
なんて正論を言った所で、通じる相手ではない。
「殿下、大変申し訳ありません。護衛の方はきっちりとこの馬車に付いて下さっておりますので。ご安心下さい。
では、少しお待ち下さいませ」
と私は殿下に告げると、クリス様の方に振り返って、頷いた。
クリス様は私を連れて脇道へ行くと、何故か殿下の乗った馬車を自分の姿で隠してしまう。それでは、殿下の乗った馬車の様子がわからない、私が抗議しようと口を開くと、
「ところで、お前の名前はシビル…だけか?身のこなしは平民のように見えないし、きっと王女付きの侍女なら、貴族の娘なんだろう?」
…何で今、そんな事を訊くのだろうか?
もしかして、ベルガ王国の王城で働くには、平民はダメとか?
ベルガ王国は実力主義で、国王の息子や娘と言えど、実力がなければ王位を継げないと聞いた事があるのだが…やはり、王子に嫁ぐ者の侍女として、怪しい者は王城に入れられないとか?
「私の名前はシビル・モンターレ。一応伯爵家の娘です。
王女殿下の侍女としては、身分は高くありませんが、もしかして、ベルガ王国では問題になりますでしょうか?」
そう私が訊くと、
「…いや、そういうわけではない。では、俺はお前の事をシビルと呼ぼう」
…きっと、このクリス様の方が身分が高いんでしょうけど…いきなり呼び捨てってちょっとどうよ?偉そうじゃない?
「どうぞ、お好きに」
私は少しムッとしながらも答えた、
「で、お前の歳は?」
…なんで、わざわざ、こんな脇道まで連れて来て年齢を訊かれなきゃいけないわけ?
「…この質問の意味はなんでしょう?」
「いいから、答えろ」
…本当に、威圧感が半端ないんですけど?!
「20歳になります」
「………意外に若いな」
…ちょっとどういう意味?確かに私は表情筋が死んでるせいか、老けて見られる事が多いけど…ここまであからさまに驚かれないわよ?!こいつマジで失礼だな!
「もう、殿下の元へ戻ってもよろしいでしょうか?そろそろ出発…」
そう言う私は、このクリス様の背の向こうに砂埃が立ち上がっているのを認めた。
「ちょ…ちょっと、何で出発してるんです!?私、まだ乗ってないんですけど?」
私が、慌てて馬車を追いかけようとすると、その腕をクリス様が掴んだ。
「走ってる馬車に近付くのは危ないぞ?」
それぐらい、私だってわかってる。
しかし、私はこのまま置いていかれるわけにはいかないのだ。
「でも、殿下がお1人で…困ります!
もしかして…殿下を何処か違う場所へ拐うつもりですか?貴方達、本当に、ベルガ王国の騎士団?まさか!山賊とか…!」
私は最悪の想像をして青ざめる。
「ま、待て。落ち着け!」
「落ち着いていられるわけないでしょ!離して!」
私はなんとか頑張って掴まれた腕を振りほどこうとするも、相手は獣人、全く歯が立たない。
「落ち着け!俺たちはちゃんとした、王家に支える王立騎士団の者だ。
何かの手違いで、お前を乗せ忘れたようだが、今から馬で追いかけるから、心配するな!」
「馬?」
「ああ、俺と一緒に…」
「じゃあ、馬を貸して!乗って行きます!」
「お前馬に乗れるのか?」
「乗れます!田舎の貴族を舐めないで!」
「馬鹿にしたわけじゃない。伯爵令嬢なのに珍しいと思っただけだ。
だが、生憎余ってる馬はない。俺と一緒に乗れ」
今は、選んでる場合じゃない。
「では、お願いします」
その言葉を聞いたクリス様は、ご自分の馬に跨がると、私に手を伸ばした。
私がその手をつかむと、まるで重さを感じないように、ひらりと私を馬の背に乗せた。
初対面なのに、こんな密着するのはどうかと思うが、四の五の言っていられない。
私達を乗せた真っ黒な馬は、馬車の隊列を追いかけた。
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