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その13
しおりを挟む馬車は然程遠くへは行っておらず、直ぐに私達は追い付いた。
しかし、馬車は止まらないし、私も馬から降ろしてもらえない。
「あ、あのー。もう馬車に追い付いたので、降ろして頂けませんか?馬車も1度止めて貰えるとありがたいのですが…」
「もう少し先で休憩予定だ。そこまでは辛抱しろ」
えー。まだこの偉そうな男と一緒に馬に乗ってなきゃいけないの?
そう私が考えていると、徐にクリス様が私のうなじに鼻を付けて匂いを嗅いだ。
私は仕事の時は髪が邪魔なので、纏めている。なのではっきり言えばうなじは丸見えだ。
そこに、鼻をくっつけて匂いを嗅ぐなんて…この人変態なの?
私は片手でうなじを隠し、振り向いてクリス様を睨む。
「ちょっと!何するんですか?!」
「ん?いや、良い匂いだと思ってな。これは香水か?」
「香水なんてつけていませんよ。
馬車に乗っていると匂いが籠るので。でも殿下がつけていらっしゃるので、香りが移ったのかもしれません」
…はっきりいって、殿下がつけてる香水の匂いで充満している馬車にずっと乗ってるのだ。それは有り得る。
「あーあの馬車から漂う匂いとは、別の物だ。あの馬車の匂いは、はっきり言って不快だ」
でしょうね。私だって酔いそうになる。
殿下は香水をたくさん付ければ良いと思っている節があるから。
「次の休憩場所まであとどれぐらいです?」
「あと2時間程だ。それまでは俺と居ろ」
『居ろ』って…他に選択肢はないのだから、諦めるしかない。
仮面の為、口元しか見えないが、クリス様の口の端が上がっている。
なんでそんな楽しそうなのか…。
「クリス様…笑ってらっしゃいますか?」
「うん?笑っていたか?そのつもりはなかったが、機嫌が良いのは間違いない」
…ミシェル殿下はてっきり歓迎されていないと思っていたけど、もしかして、違ったのかしら?
少しでもこの国で過ごしやすくなるなら、それはそれで安心なのだが。
「シビル、お前は何故ベルガに来た?」
…仕事ですけど?それ以外に何が?
私が答えを考えていると、
「お前達人間は、俺達獣人を嫌ってる者も多いのだろ?」
「…そう言う方々がいらっしゃる事は否定できません。
それは、逆も同じだと…聞いております。でも、私は別に嫌っておりません」
「ほう。確かに、俺達獣人も人間を嫌っている者は多いな。でも、お前は違うのだな?」
「はい。私は別に、『人間』だとか、『獣人』だとか、分けて考えた事がありませんでしたので。
そこは同じ『人』であると考えていました。
もちろん、国が違うのですから、風習などそれぞれ違う文化を持っておりますので、その違いはきちんと認めた上で、ですが」
「なるほど」
「それに、今回はベルガ王国の兵士の方々に助けて頂いたお陰で、たくさんの命が守られたと、感謝しております。
私の兄もその内の1人です」
「お前の兄が?」
「はい。騎士をしており、戦の最前線に送られたばかりでした。その時、ベルガ王国から援軍が来られたと」
「そうか。あの戦にお前の兄がな」
「はい。なので、殊更に感謝しております」
「…俺はお前が言う、『人間嫌いの獣人』の1人だ。だが、今回はお前達を歓迎しよう」
…この人1人に歓迎されてもなぁ…それに、はっきり人間嫌いって言われて、仲良く出来る気がしない。
この偉そうな感じも鼻につくし。
でも、ミシェル殿下は本当にこの国でやっていけるのだろうか…不安しかない。
その後も、クリス様はやたらと私の事を訊いてきた。
家族構成とか、何が好きかとか…これって面接かしら?
私は戸惑いながらも、1つ1つ質問に答えていく。
「…あ~えっと…ゴホン。あのあれだ、その…こんやく…」
とクリス様が質問をしようとした時、
「団長!この先で休憩です!」
と前をいく護衛の方が大きな声で、こちらに報告した。
「わかった!そのまま予定通りに」
とクリス様が答えると、私に、
「さて、そろそろ休憩場所だ。王女殿下もさぞかしお前を心配しているだろう」
と言われた。
私は心の中で、(心配ではなく、めちゃくちゃお怒りだと思いますけどね)と答えたが、口に出すのは止めておいた。
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