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その44

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それからと言うもの、私はとにかくクリス様を避けた。

これ以上仕事の邪魔をされるわけにはいかない。



フェルト女史の授業は、主にこの国の歴史やこの国での淑女マナーだ。

今の所、殿下は一応嫌がらず勉強をしているが、飲み込みはイマイチだ。

これは、フェルト女史の根気が試されているのかもしれない。我慢強い事を祈りたい。



その内、アーベル殿下からミシェル殿下がお茶の誘いを受けた。

ミシェル殿下は嬉しそうな顔をしながらも、

「嫌よ。断ってちょうだい」
なんて、強がりを言う。

はっきり言って、向こうも嫌だろうけど、最低限の婚約者としての務めを果たそうとしてくれているだけだ。
ミシェル殿下が断れば、これ幸いとアーベル殿下があっさり了承する未来しか見えない。

「殿下。これも婚約者の務めです。お互い歩み寄りませんと、よい伴侶になれませんよ?」

…殿下はお試し期間なんですよ?とは言えないが、せめてこれくらいのアドバイスはさせて欲しい。
そんな私に殿下は、

「婚約破棄された、あんたに言われたくないわよ。持参金が用意出来なかったのが原因じゃなくて、あんたの仮面を被ったようなその顔が原因なんじゃない?地味だし。
男だって、あんたなんかと結婚するぐらいなら、他の可愛げのある女の方が良いに決まってるじゃない」

…殿下の言葉が心に刺さる。
あながち間違いではないのだろうな…とは自分でも思うのだ。
金を積まれたって嫌だ!とまでは思われないだろうが、同じお金がないなら、容姿が良い方が明らかに好ましいだろう。
幼い頃からの顔馴染みで、親愛の情ぐらいはあった筈だが、元婚約者からは「好きだ」なんて言葉を貰った事はない。


私は殿下の珍しく真っ当な意見に、ちょっぴり傷つきながら、お茶会の会場である中庭に殿下に付き添い歩いていく。


中庭には、お菓子が用意されており、既にアーベル殿下がお座りになっていた。

ミシェル殿下は、何も言わず席に腰かける。
その様子をアーベル殿下はチラリと見るも、何の言葉も掛けなかった。

私は思わず、
「お待たせして申し訳ありません」
と言ってしまった。
本当ならミシェル殿下が言うべき言葉。

その言葉を受けて、アーベル殿下は、
「……言うべき言葉も言えんのか」
と呟いた。
私は冷や汗をかく。どうすれば良かったんだろう。

ミシェル殿下は何を言われたのかも気付いていないようだが、アーベル殿下はそのままメイドにお茶の用意を合図した。

アーベル殿下は呆れる様な視線をミシェル殿下に向けるが、本人は全く気にしていない。

そのまま沈黙が続く。
2人とも一言も発しない。
何?この地獄の様な時間。

アーベル殿下の側近も、何とも言えない顔をしていた。

せめて、ミシェル殿下がお茶の味の感想なり、お菓子の感想なりを言ってくれないかと、祈る様に見つめるも、ミシェル殿下は何も言わず、お茶を飲み、菓子を食べていた。
…私の胃がキリキリ痛むのは、何故だろう。

沈黙に耐えられなくなったのは、アーベル殿下の方だ。


「旨いか?」
…凄い少ない言葉数だが、沈黙よりはマシだ。
これでミシェル殿下がきちんと答えてくれれば、会話の糸口になるかもしれない。

「…まぁまぁね」
…終わった。何故そんな答え?

せめて『美味しい』と答えろよ!
私は心の中でミシェル殿下に悪態をつく。心の中ぐらいは自由で居たい。

アーベル殿下はその答えに少し顔をしかめるも、その後、ミシェル殿下に声をかける事はなかった。

そしてこのお通夜みたいなお茶会は、僅か30分程で終了した。
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