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その127
しおりを挟む婚約式は、王族だけで教会の司祭立ち会いの元で行われる。
ギャラリーが少ないので、なんとか震えずに署名する事が出来た。
問題はこの後の…夜会だ。
私はデイジーに言われていた事もあり、急いで控え室に戻る。
「シビル様~。お早いお帰りで~。これなら仕度に時間をかけても~大丈夫ですね~。
仕度の前に~軽食をどうぞ~。夜会になると~、招待客の皆さんは軽食を食べる事が出来ますけど~王族の皆さんは~そんな暇ないですよ~」
「ありがとう。少しだけお腹に入れとくわね」
「空腹過ぎると、逆に気分悪くなっちゃいますからね」
とリリーも私に飲み物を運びながら、声をかけてくれた。
私は軽食をつまむと、夜会用のドレスに着替える。
「…不安だわ…」
私はダンスに全く自信がない。
田舎の貧乏貴族だった私は、夜会なんて殆んど無縁だった。
婚約者のオーランドとだって、踊ったのは学園時代のイベントと、卒業パーティーぐらいなものだ。
ここに来て、何度かダンスレッスンは受けているが、講師からも合格を貰えた事は1度もない。
「シビル様はダンス~苦手ですもんね~」
「大丈夫ですよ!そこも殿下のリードに任せれば良いんですって!」
「でも、結局、クリス様と一緒に練習出来たのって1度きりなのよね…」
クリス様との時間が合わず、2人で一緒にレッスンが出来たのは、ほんの2、3日前だ。
思わず溜め息を漏らす。
いくら憂鬱でも、時間は待ってくれない。
「さぁ、シビル様行きますよ!」
とリリーに促され扉を開けるとクリス様が既に準備万端で待っていた。
「シビル、このドレスもとても似合ってる。しかし…些か胸元が…開きすぎでは…」
夜会用のドレスは大きく胸元が開いている。私の貧相な胸も、デイジーの力業で寄せて上げて、何とか谷間が出来ていた。
私は生まれて初めての自分の谷間に感動すらしている。
「デイジーの汗と涙と努力の結晶ですので、褒めてやって欲しいぐらいです」
と私は笑った。
会場にはたくさんの貴族が待ち構えており、緊張で足が震える。
「シビル、大丈夫だ。俺にしっかり掴まってろよ?」
と小声でクリス様に囁かれ、私は小さく頷いた。
クリス様を掴む手にも力が入るというものだ。
覚悟を決めた私はクリス様と共に、会場へと大きく一歩を踏み出した。
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