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俺は下僕

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裏山から家の見える場所まで来ると、その鬼は俺の背中からからヒョイと飛び降りた。そして身軽な様子で先に家の中へと入って行った。まるで何度か来たことのあるような、迷いのない様子に俺は慌てて後を追いかけて行きながら、これからどうしたものかと困り果てていた。

しかもこの鬼は、俺が祠へ近づいた時に忽然と現れたんだ。いかにも俺を待っていたかのようだったじゃないか。何か祠と関係があるのかもしれない。そう言えば、さっき何て言ってた?無理矢理に起こした?俺が鬼を無理矢理に起こしてしまったのか?


俺はその時、爺さんからの手紙の赤文字を思い出していた。期間と時間を絶対に守れと書いてあった…よな。俺は今日時間を守らなかった。朝7時から8時の間に水を祠に掛けなくてはいけなかったのに、寝坊した。あの鬼は喉を渇かしていて、浴びる様にペットボトルの水を飲み干したじゃないか。

考えれば考えるほど、俺がこの鬼を出現させた気がして来た。俺が庭先で立ち止まって考え込んでいると、鬼はひょこりと顔を出して言った。

「おい、下僕。さっさと入れ。」


今、この少年の様な風貌の鬼は俺を下僕と呼んだか?後から考えると、おれがこの鬼の下僕になったのは、まさにそう呼ばれたこの瞬間からだったんだ。家の中で寛いだ表情の鬼は俺を見て言った。

「…お前を見るのは初めてだな。あいつはどうした。藤一郎は。あいつに会ったのは十年ほど前だったな。あいつめ、酒を飲みすぎてお前の様に寝坊したんだ。…死んだのか?人間は短命だからな。」


和室の上座の座椅子にふんぞり返って座る少年鬼は、なかなかどうしての貫禄を見せていた。人間を短命というくらいだ。きっと相当な歳なのかもしれない。あるいは死なないとか?俺は自分の中の鬼のカテゴリーの情報を引っ張り出して来たけれど、絵本ぐらいしか情報が無いのでお手上げだった。

「…あ、あの、藤一郎は俺の爺さんです。俺は藤一郎の孫です。爺さんは腰の病気で病院へ入院してます。あの、入院とか分かりますか?」

鬼は俺をジロリと睨みつけると言った。

「あのな、我は藤一郎とは何度か一緒に暮らしてるんだ。大概の事はわかっておるわ。一緒に京都へ旅行も行った事もあるくらいだ。あいつはポカが多いのでな。我を起こしてしまいがちなんだ。一度起こされたら、我も時期が来るまで彼方へ戻れないのだ。まぁ俺もたまに起きてこの世を楽しむのはやぶさかでは無いしな。で、孫のお前、名は何という。」
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