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57 お散歩②

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しかし、これをそのまま放置するのは、勿体ないですね。なにせ、部屋の一室に、投げ捨てたかの様に山積みにされているんですもん。

「ちょっと『鑑定』」

【魔物の糸(優)】魔物が作る糸。様々な種類が存在する。武器、防具、装飾品、魔道具まで、様々な用途で使用される。
蜘蛛タラントの糸(優)】魔物【蜘蛛タラント】種から採れる糸。細く頑丈、魔力との親和性も高い。

思っていた以上に、素材として優秀ですね。【魔物の糸】の段階で(優)が付いている事からも、優秀さがうかがえる。
う~ん、手遊び…手遊びですか…結晶…糸…。

「そうですね、皆さんこういうのはどうですか?」

先ほどから、蜘蛛タラントが魔力結晶を削って球体などにしているのですが、その時に出たと思われる、その辺に転がっている欠片を適当に集め、糸を持ってくる。

「ちょっと、固まる糸の元、出してもらえますか?」
「…? …へ」

近くに居た蜘蛛タラントに頼んで、固まる糸を出してもらった。これはすぐに石みたいに固まるから、ここからは速さが求められますね。
見本ですし? ちょっと位不格好になっても、まぁ良いでしょう。
糸に魔力結晶の欠片をあてがい、接着剤代わりに固まる糸の元で止めていく。

始め興味なさげに…を装い、ちらちら視線を向けていた蜘蛛タラント達が、その内ガン見に変わり、完成間近になるとランランと目を輝かせていた。

「はい、どうぞ」

完成した“ブレスレット”を、固まる糸を出してくれた蜘蛛タラントの前足に着ける。

「!? …!!?? …へ! …へ! へ!!」

おぅ、そんなに喜んでもらえるとは。わらわらと蜘蛛タラント達が集まり、羨ましそうに俺が作った拙いブレスレットを見ている。
中には早速、自分たちで作り始めている子達も居る。ん? あの長さはネックレスかな? もう新しいことに挑戦しているよ、この子達。

これで、糸の消費先はできましたかね? 続けて行けば、器用さとかも上がるかも?

「あれ?」

新しい事に夢中になっている子達の中、本当に興味無さそうに、端の方で未だにクルクルと糸玉を巻いている子がいた。
…周りに結晶が全く無い。あ~この子、光物にそんなに興味ないのか。

「こんにちは」
「…」

うん、反応なし! 完全な引っ込み思案ですね。コミュ障とも言う。
趣味が周りと合わないんだろうな~、それが尾を引いちゃいましたか。一度こうなっちゃうと、変わるのは難しいんですよね~。
自分を偽る方法を見つけるか、没頭できることを見つけて、そこから同じ趣味の子との繋がりを持つなりしないと、コミュニケーションの仕方が分からないですよね~、分かる分かる。
偽ってもその場限りですし、余計に付き合いが面倒になるだけです。ここは、光物に関係しない趣味を見つけるのが良いでしょう。そこから、話ができる仲間ができれば、話せるようになるかもしれない。
う~ん、アレができるかな? 棒状の物を、いや、折角足が多いんだから、この子達の足を使って…

―――

「…へ!!」

作ったのは真っ白な布。教えたのは織物である。左右に糸を組んでいくだけだから、すぐに理解しても貰えた。編み物もできたらよかったんだけど、編み方なんて知らないですからね、断念した。
一応、こう言ったやり方もあると口頭では説明したので、この子達なら自力でたどり着くかもしれない。
他にも、糸になった状態じゃできなかったけど、出した直後なら染色が可能なことが分かったので、色付きの布もできる事でしょう。色については、その辺に生えている花が染料に使えた。

結晶を削るのが好きな子も居たが、大きめの結晶が少なく、時間を持て余していたようだったので、その子達には固まる糸の原料を、そのまま出してもらい塊を作製。それを削ることで、石膏像の様なものを勧めてみた。
試しに参考として、蜘蛛タラントの姿をモデルに作ってみた。小中大の順番で球体を三つ、真ん中の中球に足を左右に合計8本掘り出し完成。細い足とか、細かいのは流石に無理なので、岩に引っ付いている様な体勢をイメージしてみた。
今まで球体や、立方体しか作っていなかった為、これは衝撃だったらしい、他の子達も集まり、彫刻が蜘蛛タラント達の間で一気にひろがっていった。中には、彫刻に染色や小さめの結晶をあしらう子まで出ている。応用速いですね、君達。
この子達、無口なんじゃなくて、職人気質なんだ、今気付きましたよ。

「…へ…へ!」
「え? くれるなの?」

そろそろ移動しようと思ったその時、蜘蛛タラント達からブレスレットと、一角に魔力結晶が取り付けられた、ハンカチ程の布をプレゼントされた。

「ありがとなの! …私がハンカチの方なの?」

世界樹さんが、ちょっとがっかりした様な雰囲気で呟く。蜘蛛タラント達が申し訳ない表情をしちゃっているじゃ無いですか。

「世界樹さん、依り代を解除したら、身に着けていた物はどうなるんですか?」
「あ˝…」

普段寝ている時以外人型を取っている世界樹さんですけど、所詮は依り代。解除して仕舞えば、持っている物はその場に置いていくことになってしまうのです。だから、わざわざ装飾品を避けてくれたというのに…。ちなみに、食いものは速攻で消化され、栄養(魔力)になっている様なので、そこまで気にしなくても大丈夫。今はフォローの方が大事だ。

「ごめんなさいね~、家(うち)の残念な子が」
「…へ」
「残念ってなんなの!? そこ! 納得しないなの!!」

その後は、世界樹さんを適当にあしらいながら、蜘蛛タラントのエリアを後にする。さて、次は何処に行きましょうかね~。

―――

その後、貢ぎ物なのか自慢の為なのか、布や装飾品、彫刻やはたまた服まで、様々な物が蜘蛛タラントによって届けられることになる。
どんどん、生活が充実していく迷宮主であった。
また、彼らが作った様々な物が、このダンジョンの特産になるのは、まだまだ先のお話。
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