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69 竜の調査隊?⑤
しおりを挟む「「「なぁ!!!???」」」
現れたのは巨大な穴。糞虫とその腰巾着の一匹は、何とか空中に留まることができた様だが、他の二匹は突然地面が消えたことに対応できず、そのまま落ちて行った。
「ムグゥ!?」
残った二匹も、穴から飛んで来た白い糸? で、口と羽を固められてしまった。あれでは、飛行もブレスもまともに出来ない。
しかも、追い打ちをかけるかのように、首や胴体に追加で糸が絡みつき、猛スピードで穴の奥へと引きずり込まれてしまった。……あれ、首の骨折れたんじゃない?
「兄貴!?」
私を抑えていた残りの腰巾着が私から離れ、穴へ駆け寄り覗き込む。
……あいつらが引きずり込まれる姿を、見ていなかったのか?
「あニ˝グ!?」
案の定、顔面を糸で雁字搦めにされ、そのまま引きずり込まれた。
― バコン ―
ドカドカと、壁にぶつかる様な音が響いていたが、地面が元に戻るとそれも聞こえなくなり、辺りを静寂が包む。
そこには、何事も無かったかのような更地が、広がっているだけであった。
(私は、下へ行って参りますわ)
(あれを見に行くなの? ……得るものあるなの?)
(……怪しい所ですわね)
(そうですね、余り期待しないで見てくると良いですよ)
(はい! それでは行って参りますわ、お父様、お母様)
……とりあえず、邪魔者は消えたわね。やっと自由に動けるわ。
「エレン様、お怪我はありませんか?」
「大丈夫よ、心配を掛けたわね」
呆気ない終わりに釈然としないけど、やっと竜王様の任務に移れるわ。
……そうなのよね、これからが本番なのよね。ただ、今回起きたスタンピードの原因を調べるだけだったはずなのに、どうしてこうなって仕舞ったのか……全部あの糞虫のせいね。あんな奴の事なんて、もうどうでも良いわ。今はこの主との対話の方が重要だ。
(さてと、やっとまともに会話ができますかね?)
す~~~~、は~~~~。切り替えろ、私!!
「改めまして、お初にお目に掛かります。私の名はエレン、こっちの青い竜は賢竜のシスタ、土色の竜は吐竜のテレ。此処より北、周りからは竜の谷を言われる地より参りました」
(これはどうもご丁寧に。俺はこのダンジョンを経営? 運営? ……どっちも同じようなものですね。とにかく、このダンジョンのダンジョンマスターです。以後よろしくお願いいたします)
あれぇ!? 今までの態度と全然違うんですけど!? いえ、初めの方はこんな感じだったか? と、とにかく、力だけの主なんて腐る程いる中、話の分かる主で本当に良かった。
しかし、ダンジョンマスター。私の予想は間違えではなかった……間違いであって欲しかった。
広大な領域に、豊富な魔力濃度。これだけで、この迷宮の強大さが分かる。少なくとも50年は経っているでしょうね。
しかも、核となっているのは恐らく、目の前の世界樹と思われる巨木。ダンジョンの性能は、核になったモノとダンジョンマスターの能力によって決まると聞く。
世界樹の迷宮
そんな、化け物みたいな組み合わせのダンジョンと戦争なんて、絶対にごめんよ!!
(なの? ……ウラッシャ~~~~~なの!!!!! イヤッフ~~~~~なの!!!!!)
「「「ひ!?」」」
何々!? 一体何事!? 私、何かミスった!?
(うぉ!? どうしたんですか?)
(見るなの! 迷宮の名前が【世界樹の迷宮】になってるなの!!!)
(ん? おや、本当ですね。認知されたからですかね?)
(もっと興味持てなの!!)
(ゲッフ! ギブギブ~)
争っている様だが、そこに険悪な雰囲気は感じない。ただのじゃれあいか?
(私がどれだけ切望していたことか、分かって―――)
(分かった、分かりました、話聞きますから。ちょっとクロスさ~ん、後ゲフ!? 御願しても良いですか~)
(は! お任せ下さい!)
(本ッ当にすいません! 後は他の者が対応しますので!!)
(それでねなの!! 神樹の一つとし―――)
ダンジョンマスターと思われる者の声が途切れる。
「「「……」」」
え? 置いてけぼり!?
「あの~~~……」
「「ギャフ!?」」
びっくりした! 足元から<念話>がとんで来た。そこには、黒い……ちょっと土色? の虫型の魔物が居た。いつの間に?
……違う、この魔物はずっと此処に居た。目の前に、ここに着いた時からずっと! 私たちが気付かなかっただけだ!?
なんで? 思い返せば視界にも入っているし、<魔力感知>でも感知している。なのに気付けなかった、意識できなかった……ヤバすぎる、なんなのこの魔物。
「わ、私、蟻のアンコと言います。その、よろしくお願いします……皆さんをおもてなしする様にと……あの……」
しどろもどろに成りながらも、声を掛けてくる。えっと、案内役って事で良いのかしら?
「えっと~、宜しくね~」
「あ、はい。よろしくお願いします……今、案内役が向かっているそうなので、あの……少々お待ちください」
こういう時、テレの物怖じしない性格は助かるわね。
今できる選択肢は、そこまで多くない。大人しく案内役が来るまで待つか、この会話が苦手そうな者から、少しでも情報を引き出すか。
「ここは~、ダンジョンなんですか~?」
「え? あ、はい、そうです」
「そうなんだ~、大きなダンジョンだね~、こんなに広いダンジョン~、私~、初めて見たよ~」
「そうなのですか? 僕たち外の事、良く知らないから……」
「そっか~、良かったら~、お話しませんか~」
「……良いの?」
「良いよ~」
ナイスよテレ! 情報の供給源は一つでも多い方が良い! テレにはここで待機してもらって、私たちが帰って来なかった時に、情報を持って帰ってもらいましょう。
シスタの方を見る、向こうも此方と同じ考えの様だ。こんな時、シスタは察しが良いから頼りになるわ。ダンジョンマスターが相手では、<念話>も鳴き声での会話も、聞かれてしまう可能性が高い。その事をちゃんとわかっているみたいね。
戦闘能力は殆どないけど、サポートと考えるとこの子ほど頼れる子も居ないでしょう。
……今回はそれほど、その能力も発揮できないでしょうけど。相手がダンジョンでは、使えるスキルが限られる。
「えっと、あの……有難うございます」
「外の事を知っといて~、悪いことは無いって~、御師匠様も言ってました~」
「はい、主様も外の事はとても知りたがっていました。それで、外に……偵察に行った……子は……」
話が不穏な方向に行ってない? 外に行った子って、あの糞虫が殺した魔物の事よね? よく見たら、姿も殆ど同じだし。
「ンッン! 貴方の主はどんな方なのかしら?」
「え? えっと……とってもお優しい方です」
よかった、見事な話題逸らしよ、シスタ。しかし、あれを優しいと言っていいのかしら?……思い返せば、かなり我慢強くはあるわね。あんな糞虫に敵として会ったら、私なら即叩き潰すわ。
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