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70 竜の調査隊、迷宮に潜る①

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「お待たせー」
「クロカゲ~、遅いよ~」
「こっちもゴタゴタしているんだよ、お客さんなんて初めての事だからね~♪」

待つこと数分、現れたのは真っ黒な、アンコと名乗った者と同型の虫の魔物、種類はアルトと言ったかしら? 後ろにも何匹か引き連れている。
……見た感じは、そこまで強そうでは無いわね。

「すんませんね~、本当は主様が対応できれば良かったんすけど、世界樹様の悪い癖が出ちゃいまして」
「いえ、対応して頂けるだけありがたい事ですので、お気になさらず」
「そう? いや~、まさかこんなに早く、知的生物に対応することになるとは思ってなかったんよ。まだ毒の処理、全部終わってないからね~」
「「毒?」」
「ま~、そこも含めてお話いたしましょ~か。お姉さん方大きいから、ちょっと奥にある広い道まで案内しますね~♪」
「分かりました。全員で行くこともありませんね、テレ、貴方はここに残りなさい」
「はい~」

私は、テレの頬に自分の頬を擦り付ける。その際、鱗を一枚引っ掻ける。竜族の挨拶の仕方だ、不自然に思われ無いはず。

「ガゥ(後は、お願いしますね)」(ボソ)
「……ガ~(分かりました~)」(ボソ)

この鱗には、所持している者に、生きている限り私の存在を感知させる術式が込められている。可能な限りの隠蔽術を込めているので、そう簡単に気付かれはしない。
もし私たちが死んでも、テレの火力なら追っ手を撒ける可能性は十分にあるでしょう。これで、ここまでの経緯は谷にまで届く。

「来るのは二体だけなん? (……、……)了解~♪ アンコ~、何体か置いていくから、後よろしくね~」
「う、うん。えっと、テレさんの事は、ぼくが対応するね・…・・」
「はい~、よろしくね~」
「もういい? こっちやで~♪」

クロカゲと呼ばれた魔物の先導に従い、シスタと共に進んでいく。何人か監視のために残されたか、当然ね、予想の範囲内だ。
しかし、アンコ殿が付いているのが不安ね、あれの対処法も考えないと。気が付いたら死んでいた、なんて状態もありえる。

「いや~ごめんね~、本当はもっとしっかりした所に案内したいんだけど、まだ何にも用意できてないんだよね~。大きめの部屋は有るけど、装飾も何もない部屋でね~。こんな事なら、もっと早く用意して置けば良かったよ。タラントに頼めば、色々作ってくれそうなんだけどね? 中途半端なものを飾りたくないとか言ってさ~。あ、タラントって言うのは、うちに居る魔物の種類の事でね、物作りが好き―――」

よ、よくしゃべる方ですね。こちらとしては、勝手に情報が流れて来るので、ありがたいですけど。

「―――で、最近は魔道具にも興味あるみたいでさ、色々挑戦しているみたいなんだけど、魔法はできても、魔術はできないみたいでさ~、魔法は魔力を変換するだけだから、感覚で出来るけど、魔術って計算とか式とか色々知識が必要なんでしょ? 行き詰ってるみたいでね~。良かったら、そこら辺も教えてくんないかな? あ、時間がある時で良いからさ」
「えぇ、私たちで良ければ」
「本当? ありがとね~、あ、ここが入り口だよ~♪」

着いたのは世界樹の根元、左右に巨大な根が伸びた間にできた開けた空間だった。
クロカゲ殿が二度三度、開けた地面を叩くと、その場所が割れ、地下へと続く下り坂が現れた。仕組みは、先ほど糞虫が落ちて行った穴と同じかしら?

「狭くてごめんね~、うち等のリーダーが居る所まですぐだから、我慢してね~♪」

おそらく、軍事用の通路か何かなのだろう。狭いと言いながら、私達が並んで通るだけなら十分な広さがあった。クロカゲ殿の後に続いて、穴へと入って行く。入って早々感じたことは、魔力濃度が外よりも高い事だ。外ですら私達が居た谷と同レベルだというのに、ここは我々竜族ですら抵抗を感じるレベルの濃度。淀んでいる気配も無い事から、この状態がここの通常状態なのでしょう。

「お姉さんみたいな優秀な術者に教えてもらえるなんて、こんな機会ないね~♪」
「優秀だなんて、そんなことありませんよ」
「え~、でもさっき使ってた魔術、すっごい綺麗に見えたんだけどな~♪」

………………え? ま、待て! 落ち着け! 沈黙は不味い! 
余りに自然に、核心を突くような話を振られたせいで、思考が一瞬止まってしまった。そうだ、ブラフの可能性だってある! ここは自然に返答しなければ。

「何のことでしょうか?」
「え? 表に居るテレって方と繋がってるそれ、魔術だよね? 魔法と違って、凄く安定してるもん♪ 離れた相手と<念話>するためのモノかな? それともシンプルに、自分の居場所を伝えるモノかな? しっかし、分かりにくいね~♪ 魔力が全然漏れてないし、揺れも無いから、最初気が付かなかったよ~♪」

内容まで殆どバレてるー!? ちょっと!? 私の本気の隠蔽術式なのよ、なんで初心者にバレてるのよ!?
……本当に、何でバレたのかしら。割と本気で知りたいわ。

「……お見事です。良くお気付きになりましたね、何時お気付きに?」
「!?」

シスタが、驚いた眼でこちらを見る。下手に誤魔化すより、正直に言ったほうがまだ相手への心象はいいでしょう。
そもそも! 完全にバレてるのに、誤魔化すも何も無いわよ、畜生!

「ん? え~と、その魔術? 周りの魔力濃度に合わせて隠す術式みたいの入れてない? ダンジョン内と外で魔力濃度が違うから、その境目で歪みが起きてたんだよね~♪」

それが無かったら気付かなかったよ~と、先ほどと変わらない軽い感じに答えられた。
ふむふむ、成る程……そんなん想定できるかー!?
じっくり観察するなり、探すなりするならまだ分かるわよ? 魔力濃度がハッキリと違う場所自体は少ないけど、そう言った場所は、魔法や魔術の稼働に影響を与えるから。だけど、その境を跨ぐ一瞬で気付く奴なんて、居ると思わねーよ!!??
そもそもあんた、私らの前歩いてたでしょ!? なに? 見ないで気付いたの!? どんな感覚してるのよ!?

「魔法部隊隊長ともなると、これくらい気付かないとやっていけ無いんだよね~。うち的にはさっさと隊長なんて辞めて、畑仕事に専念したいんだけどね~♪ 下からの突き上げもあるし、一番適任だからって、辞めさせてくれないっんすよ~。お~い、お前ら~、隊長やりたいなら変わるぞ~?」
「いやっす」
「隊長の後とか、なにその拷問」
「隊長がしてる仕事とか、俺らができる訳ねぇじゃん」

隊長、魔法を使える魔物そのものが珍しいと言うのに、隊を作れるほど居ると言うの?
冗談だとは思うけど、隊長の座を譲ると言っているのに、部下と思われる者たちが間を置かず否定する。普通は上に立ちたいものでは? と思うが、どうやらクロカゲ殿が強すぎるのが原因の様だ。上の者が自分よりも圧倒的に強いと言うのに、そこに諦めや悲壮感などは見られない。
あぁ、クソ! 谷の現状と比べて仕舞い、心がざわつく……この精神状態は不味いわね、他の事に集中しましょう。

「……ちなみに、他に今の術式に気付いた方はいらっしゃいますか?」
「わかんないっす」
「隊長じゃ無いから、無理」
「だよね~」
「……い、違和感位なら」
「なに!? よし、今日からお前隊長やれ! 隊長命令!!」
「えぇ!? 無理っす! 言うならクロス様に言って、却下されてきてください」
「却下前提!?」

流石にこの個体が特殊なだけの様ね。こんなのがゴロゴロいたらやってられないわ……可能性がある個体はいるみたいだけどね!?
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