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王国の絡繰技師 1

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 ――まさかこういうことになるとは……。

「――いやぁ、セト皇太子様が心の広い方で助かった」

 捕えられたはずのエンシが、今、何故かあたしの生活する屋敷内にいる。

「あなた、一体何のつもり?」
「その説明の前に、お前、足見せろ。皇太子様との約束だからな」

 言われて、あたしはしぶしぶ寝台に横たわる。エンシはあたしの寝巻きの裾を躊躇なく持ち上げ、治療と言う名の修理を開始する。
 一度ルークスによって捕えられ、セトのところまで連行されたエンシだったが、いろいろな理由が重なって解放されたのだった。その理由の一つが、あたしの足である。

「――ずっと隠していたのに、こんなところで明かさなくてもいいじゃない」

 あたしの足は義足だ。ロゼット帝国との戦争で建物の崩壊に巻き込まれ、太腿の中程から先の機能を失った。しかし、そこに駆けつけたエンシが人形の足に付け替えてくれたので、不自由はない。アスター王国の絡操人形技術は人に似せて作るだけでなく、義手義足などの医療技術にも明るい。先の戦争で失った手足を、あたしのように人形の手足で代用している人も多いのだ。

「結婚すればすぐに知られることだろうよ。夜を共にすることもあるだろうしな」

 ――よ、夜を共に……。

 うっかり想像して、あたしは全身を赤く染める。

「ったく、そのくらいわかってるだろ? 子どもじゃあるまいし」
「う、うるさいわね。この罪人が……」

 蹴り飛ばしてやりたいところだが、あいにく足は修理中のため動かせない。あたしはむすっとしたままおとなしくする。
 セトは捕えて突き出したエンシに対し条件を出した。というのも、あたしが足に異変を感じて気にしながら歩いていたのをエンシが見抜いたからだ。あたしの足がエンシの作品であると知ったセトは、早急に修理をするよう命じ、さらに不測の事態に備えて結婚式当日まで面倒を見るようにと告げた。つまり、エンシの滞在を許可したのである。

『ここでエンシさんを殺したりでもしたら、君にますます恨まれてしまう。それに、アスター王国の中でも優秀と言われている絡操技師の技術を失うのも僕個人としては忍びない。本国に送り返すのが筋なのかもしれませんが、その様子ですと黙って国を出てきたのでしょう。適当な書類を僕が用意しますので、せっかくですから式までゆっくりしていってください』

 セトの言葉を思い出す。彼が一体何を考えてこんな条件でエンシを屋敷に入れたのか理解できない。それ以上に、あたしのいる屋敷での寝食を許可する、その神経が最も謎に満ちている。

「大したことなさそうで良かった。ばねが少し伸びちまって、他の部品に当たっているのが原因だったみたいだな。限界超えて走ったりしたんだろ? 阿呆者が」

 さすがは国から任されるほどの絡操技師だ。少し見ただけで、壊れた原因をぴたりと当ててくる。

 ――全力疾走することになったのは、エンシが侵入したせいなんだけど……。

 エンシは宮殿から借りてきた工具を箱の中にしまい立ち上がった。

「ちょっと歩いてみろ」

 少し離れたところに立ったエンシが手招きをする。足の具合を確かめるのだろう。あたしは言いたい台詞を飲み込み、寝台を下りて彼の方に歩いてみる。違和感はきれいさっぱり消えて、それどころか以前よりも軽くなったようにさえ思えた。

「ほんと、あなたの腕は大したものね」

 あたしはエンシの前で立ち止まり、背の高い彼を見上げる。珍しく彼の顔には自慢げな色がなく、どこか思いつめたような気配があった。何かいつもと様子が違う――そう感じたとき、抱きしめられた。力強く、ぎゅうっと。

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