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第3章

観光

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 改めてここの世界観を捉え直そう。


 ここは、乙女ゲームの世界だ。


 主人公が恋愛し、そして私――悪役令嬢がそのとばっちりを受ける世界。


 たったそれだけの話。


 が、本当にゲームの中に入った――というわけではどうやらないらしい。


 ゲームの中で一度も出てこなかったヴァンパイアに、ゲームのモブでもサブでもない、見知らぬ人々。


 知らない町。


 すべては、本当に息をしている。


 複雑なプログラミングで形作られた世界などではなく、ちゃんとした「現実」。


 一体全体どういうことなのか、乙女ゲームとここでと一体どんな因果関係があったのか未だによくわかっていないけど今私は「ヴァイオレット」として、この世界の冒険者として日々を生きている。


 いつ何があるか、本当のヴァイオレットの人格がいつ蘇るのか見当もつかないから、その間に楽しむだけ楽しんでおこうと、宿泊する前に町の観光をしたいとゼロに願い出た。

「さっきまで疲れたの眠たいだのなんだの言ってただろ」

「それとこれとは別よ。別腹」


 私は想像する。


 さっき通った可愛いお店、良いアクセサリー売ってそうだなあ。


 その店を見つけたおかげで、疲れと眠気が全部吹っ飛んだ。


「お前、自分の立場わかってんのか?」

 ゼノはうんざりした顔をする。

「近衛兵に追いかけ回されて、この町まで逃げた人間が取る行動じゃねぇだろ。」

「でも、この町にはまだ近衛兵は来ていないだろうし。ずっと逃げ隠れし続けたら、疲れるじゃない? 人間、生きてるならQOLを大事にしなきゃ」

「きゅーおーえる? なんじゃそりゃ」

「クオリティ・オブ・ライフ。人生の質を高めるのよ。私ずっと王都にいたから、こういう場所来たことないのよ。目立たないようにするから――駄目?」

「駄目だ。アホか」

「えーっ」


 2人で押し問答していると、

「それくらい良いんじゃないですか?」

 と、パーシーが私に助太刀をした。

「お前までそういうこと言うのか?」


 ゼロは顔を歪める。

「俺、さっさとこの首輪を外したいので、ある程度金を稼ぎたいんですよ。良い加減恥ずかしいし」


パーシーは憎々しげに自分の首輪に触れる。

「で、さっき見かけたんですけど、この町の掲示板に、今日の昼から夜まで飛び入りで参加出来る仕事があるみたいで。それ見てみたいんですよね」

「パーシーのあとについていくだけで良いから。お願い」

「あー……」


 ゼロは面倒くさそうに頭を掻く。

「面倒くせぇな」

「ゼロもすることしてきたら良いんじゃない? その間に」


 泊るのは夜だ。

 まだかなりの時間が残っている。


 ゼロは首を傾げたり腕を回したり、しばし何も言わなかったが。


 ややあって諦めたようにため息をつき、

「……くれぐれも変なことをするなよ」

 と言った。

 
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