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第6章
デート
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魔王から、公務という名の「デート」に誘われたのは、結婚してからしばらく経ったある日のことだった。
「公務?」
部屋でくつろいでいると、当然魔王が、
「明日、公務に参加しろ」
と、上から目線で命令してきた。
私は、ソファから頭だけを傾けて、魔王に視線を向ける。
「私、明日もゾーイさんに魔法を教えてもらおうって思ってたんだけど」
「ゾーイをあまり拘束するな」
魔王はため息をついた。
「あいつには、他にも仕事を任せている」
「それはそうなんでしょうけど……」
話を聞く限り、ゾーイさんは結構優秀な魔族みたいで、私のお世話係の他にも、色々仕事をしているらしい。
メインは私の世話係なので、今は他のタスクを部下たちに引き継いでいる最中だとゾーイさんは言っていたけれど。
私の知らない間に、魔王からまた新たな仕事を任されたのだろう。
「ゾーイには明日、他のことをしてもらう予定だ」
「で、暇になった私に、その公務とやらをやってもらおうってわけ?」
「そういうことだ」
なるほど。
まあ、基本暇な私は、急に用事を言い渡されても、別に気にすることはない。
「わかったわ。……で、どういう公務なの?」
ここに来てからというものの、結婚式以外での公の場で私が登場することはなかった。
最近魔界に来たばかりの魔王の妻――魔王妃が、魔王の補佐やらなんかを当然出来るわけもなく、普段は趣味の魔法修行にばかりかまけている。
「国内の視察だ」
「視察?」
「魔王の威光を示すのもかねて、町や村の様子を確認するのを定期的に行っている。明日からそうすることに決めた」
「決めたって……。随分と突発的な行事なのね。まあ良いけど」
私は大きく伸びをした。
「というか、魔界にも町とかがあったのね。知らなかった」
よく考えれば、人がいるなら当然のことだが、私は今まで魔界では魔王城以外を出歩いたことがなかったから、すっかり頭から抜け落ちていた当たり前だった。
「明日行くのは、港町ヴォローゼだ」
「はーい」
「公務だから、ちゃんとした服を準備しておけとお前の付き人にも言ってある。お前もお前の準備を怠るな。魔王の妻としてな」
「了解です――で」
私はニヤニヤしながら、魔王に尋ねる。
「それって、デートのお誘いってこ――」
「うるさい馬鹿。調子に乗るな」
私の言葉に被せて魔王は捨て台詞を吐き、
「余は仕事がある」
と、すぐさま部屋を出て行った。
彼の顔がほんのり赤くなっていたのはさておき、
「調子に乗るなって言われても。私、あんたの妻なんですけど!」
という私の声は、魔王の耳にもきちんと届いているのだろうか。
「公務?」
部屋でくつろいでいると、当然魔王が、
「明日、公務に参加しろ」
と、上から目線で命令してきた。
私は、ソファから頭だけを傾けて、魔王に視線を向ける。
「私、明日もゾーイさんに魔法を教えてもらおうって思ってたんだけど」
「ゾーイをあまり拘束するな」
魔王はため息をついた。
「あいつには、他にも仕事を任せている」
「それはそうなんでしょうけど……」
話を聞く限り、ゾーイさんは結構優秀な魔族みたいで、私のお世話係の他にも、色々仕事をしているらしい。
メインは私の世話係なので、今は他のタスクを部下たちに引き継いでいる最中だとゾーイさんは言っていたけれど。
私の知らない間に、魔王からまた新たな仕事を任されたのだろう。
「ゾーイには明日、他のことをしてもらう予定だ」
「で、暇になった私に、その公務とやらをやってもらおうってわけ?」
「そういうことだ」
なるほど。
まあ、基本暇な私は、急に用事を言い渡されても、別に気にすることはない。
「わかったわ。……で、どういう公務なの?」
ここに来てからというものの、結婚式以外での公の場で私が登場することはなかった。
最近魔界に来たばかりの魔王の妻――魔王妃が、魔王の補佐やらなんかを当然出来るわけもなく、普段は趣味の魔法修行にばかりかまけている。
「国内の視察だ」
「視察?」
「魔王の威光を示すのもかねて、町や村の様子を確認するのを定期的に行っている。明日からそうすることに決めた」
「決めたって……。随分と突発的な行事なのね。まあ良いけど」
私は大きく伸びをした。
「というか、魔界にも町とかがあったのね。知らなかった」
よく考えれば、人がいるなら当然のことだが、私は今まで魔界では魔王城以外を出歩いたことがなかったから、すっかり頭から抜け落ちていた当たり前だった。
「明日行くのは、港町ヴォローゼだ」
「はーい」
「公務だから、ちゃんとした服を準備しておけとお前の付き人にも言ってある。お前もお前の準備を怠るな。魔王の妻としてな」
「了解です――で」
私はニヤニヤしながら、魔王に尋ねる。
「それって、デートのお誘いってこ――」
「うるさい馬鹿。調子に乗るな」
私の言葉に被せて魔王は捨て台詞を吐き、
「余は仕事がある」
と、すぐさま部屋を出て行った。
彼の顔がほんのり赤くなっていたのはさておき、
「調子に乗るなって言われても。私、あんたの妻なんですけど!」
という私の声は、魔王の耳にもきちんと届いているのだろうか。
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