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1章:踊り子 アナベル
踊り子 アナベル 16-1
しおりを挟むアナベルが戸惑っているうちに、エルヴィスたちは魔物をすべて倒していた。あっという間の出来事で、本当に魔物に襲われたかのかと言うくらい被害もなかった。
「冬が近付いて来ているから、少しでも蓄えようとしていたのねぇ……」
アドリーヌの言葉にゾッとしたように彼女を見るアナベル。アドリーヌは「あら」と口元を抑えて目元を三日月のように細くして笑った。
「ほら、アナベルの愛しい人が怪我をしていないか、確認しに行きなさいな」
「……う、うん……」
アドリーヌに背中を押されたアナベルは、エルヴィスに駆け寄った。近付いて来たアナベルに気付いたエルヴィスが、ふわりと微笑む。
「怪我はなかったか?」
「ええ、陛下たちが守ってくれたから……。怪我は? 大丈夫?」
「そんなに心配しなくても大丈夫だ。傷ひとつない」
「そうですよ、陛下は氷の魔法を使えるようになってから、めっちゃ強くなりましたからね!」
「そうなの?」
「はい。そりゃあもう。今まで陛下のことを嘲笑っていた大臣たちが恐れるほどに」
「おい、それを今、言うか?」
「そりゃあ言いますよ。寵姫になるアナベルさんは、すべてを知る権利があるんですから」
護衛の人たちの会話を聞いて、アナベルは驚いたように目を瞠る。国王と護衛の関係上、こんなにぽんぽんと会話を……まるで友人と話すかのようにするとは、と。その視線に気付いたのか、エルヴィスは肩をすくめた。
「確かに知る権利はあるが……、すべてはティオールについてからだ。このままデュナン公爵の屋敷に向かう」
デュナン公爵――……、レアルテキ王国に住んでいる者なら、一度は耳にしたことがある人物だ。
現国王、エルヴィスの従兄。社交性があり、交渉術も豊かで、彼が居なければ纏まらなかった外交が数多いとも言われている。
「……なぜ?」
首を傾げて尋ねるアナベルに、エルヴィスはぽんと彼女の肩に手を置いた。
「寵姫になる前に、会って欲しいんだ」
「……デュナン公爵に?」
「そうだ。大事なことだからな」
「……よく、わからないけれど……。きっと陛下がそう言うのなら、そうなのね」
自分がなぜ先にデュナン公爵に会う必要があるのかと謎に思いつつも、エルヴィスの真剣な様子にアナベルもうなずいた。
「ティオールまであと少しだ。この場所は先程魔物が現れたから、もう少し進んでからにしよう」
エルヴィスの言葉に、準備を始めようとしていた人たちは荷物をまとめて、あまり暗くならないうちに野宿先を探そうと歩き出した。アナベルも歩き出す。
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