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3章:紹介の儀
紹介の儀 2-2
しおりを挟む「――しかし本当、エルヴィスのおかげで国が平和になったよなぁ」
ダヴィドが飲み物を手にしてすっとイレインとアナベルに差し出す。イレインはすぐにそれを受け取り、アナベルはちらりとエルヴィスへ視線をやる。
彼がうなずいたのを見てから、ダヴィドから飲み物を受け取った。
「これは?」
「カクテル。なんといっても美女がこんなにいるんだ、目の保養、目の保養」
ダヴィドの軽い口調に、アナベルはくすくすと笑う。イレインは呆れたように肩をすくめて、こくりとカクテルを一口飲んだ。
「――申し訳ございませんが、私少し気分が優れませんので、これで失礼致します。――アナベル、と言ったわね? 精一杯、エルヴィス陛下を支えるのですよ」
カクテルを一杯飲み干して、空になったグラスを近くにいた女性に押し付けるように渡すと、ふらりと歩き出すイレイン。
「王妃殿下、お供いたします!」
と、護衛の騎士たちが彼女に続いた。
――紹介の儀からたった一時間ほどしか経っていない。
残された貴族たちは困惑したように辺りを見渡すが、エルヴィスがすっと視線を巡らせるとびくりと体を硬直させた。
「王妃殿下、気分が優れないと仰っていましたが、カクテルを飲んで平気だったでしょうか……?」
心配そうにそう呟くアナベルに、ダヴィドはくくっと喉を鳴らして笑う。
「ドライマティーニは度数が高かったかね?」
「さあ。彼女がどんな酒を好んでいるのか、知らないからなんとも言えんな」
「あら、エルヴィス陛下、知りませんの?」
意外そうにアナベルが目を瞬かせる。
エルヴィスはうなずいた。
「彼女と食事を摂ることも、夜を共にすることも数えるくらいしかないからな……」
どこか寂しそうにそういうエルヴィスに、周りの貴族は困惑していた。
エルヴィスがこんな風に夫婦関係のことを口にすることが、これまでなかったからだ。
「――それは、寂しかったでしょう……?」
優しく、柔らかく……アナベルが声を発する。
誰の耳にも、エルヴィスを憐れんでいるように聞こえるだろう。
こつん、とアナベルの額に自分の額を当てるように重ね、「――今は君がいてくれるだろう?」と甘えるような声を出すエルヴィスに、アナベルは微笑んだ。
「はい、陛下。あなたのアナベルですもの」
甘く蕩けそう声。
ふたりの世界、とばかりに人目も憚らず見つめ合うアナベルとエルヴィス。
こほん、とダヴィドが咳払いをしたことで、ようやくここがどこかを思い出したかのように少し離れた。
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