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2章
2章58話(159話)
しおりを挟む「……シリルが魔物に襲われたことは後で聞くとして……」
お父様に睨まれて、シー兄様はすっと視線を逸らした。アミュレット、シー兄様に渡していて良かった……!
「……色々厄介なことになっているわけね。……そして、そんなあなたたちに朗報よ」
「朗報?」
「来月からこのソフィア様が精霊学科の教師になるの」
どんっと自分の胸元を叩いた。私とアル兄様は顔を見合わせて、それから「精霊学科?」と同時に首を傾げた。確か、アカデミーの授業にそんな学科はなかったはず……。
アカデミーの授業は大体男女別になっているけれど、人気だったり、逆にあまり人が多くない学科は男女共に学べることになっている。料理の授業が男女共に出来るのは、男性が重い物を持ってくれるから……とイヴォンが言っていたけれど、本当かどうかはわからない。
「新しく出来たのよ。精霊学科。クリフたちとも話し合ってね。エリザベスちゃんとアルフレッドちゃんは強制的に参加だからよろしくね」
ぱちんとウインクするソフィアさんに、私とアル兄様は「え!?」と驚きの声を上げた。
「リザはともかく、なんで僕も?」
「ヴィンセントちゃんも強制参加組よ!」
……確かに精霊と契約しているけれど……。ソルとルーナはどこか呆れたようにソフィアさんを見ていた。
「相変わらず賑やかな女だ」
「ねー」
……ソルとルーナはソフィアさんのことを昔から知っているのかしら……?
「なんだかこの後に話をするのが申し訳ないような……。だが、これも伝えておかねばならないことだろうから、言うよ」
カーラ様は私たちを見て小さく肩をすくめた。そして、どう伝えようかを迷ったのか、少し悩んだのか一瞬無言になり、それからすぐに私たちをじっと見つめた。
「この前、陛下に頼まれてジュリー・ファロンの健康診断を行った」
塔に閉じ込められたジュリーの……? 私がカーラ様を見ると、カーラ様は小さくうなずいた。
「身体は健康そのものだった。思考はまぁ……ちょっと、いやかなりおかしかったけれど、一番おかしいのは、彼女の魔力が全くないということだ」
魔力がない……?
「恐らく、じゃが……」
クリフ様が顎に手を置いて目元を細める。そして、クリフ様は私へと顔を向けて、トントンと目元を指で叩いた。
「エリザベスが宝石眼になったのは、ジュリー・ファロンの魔力をも取り込んだからじゃないかと思うんじゃ。呪いの書の効力かはわからぬが……、エリザベスかジュリーが宝石眼になることを企んでいたのではないかと考えての。どちらかの魔力を犠牲にして……」
「……そんな……」
「試しに彼女の魔力の属性を調べたんだが、魔力自体がないから属性も調べられなかった。この国で魔力を持たない貴族はかなり珍しい。そして――……」
「エリザベスの魔力の強さもまた、かなりの珍しさじゃからの」
私は驚いて口元を手で押さえた。……私の中に、ジュリーの魔力が宿っている……? 自身の魔力の高さの理由……。そんな私を慰めるように、すりすりとソルとルーナが頭を擦りつけてきた。くすぐったい。
「そんなことが……可能なのですか……?」
「カナリーン王国の者なら、可能でしょうねぇ。あの国、人を犠牲にするのは厭わない国だったし」
話を聞いていたらくらくらとしてきた。私の様子に気付いたお母様が近付いて来て、
「エリザベスは休みましょうか」と声を掛けてくれた。みんな、私の顔色が悪くなっていることに気付いたのだろう。今日の話し合いはこのくらいでお開きにしよう、というシー兄様の言葉に、全員が同意した。
「今日は色々なことを知って、頭と心が疲れちゃったでしょう?」
「……うん……」
「部屋に戻ってゆっくりお休み。ここは安全な場所だから」
ぽんぽんとお母様に頭を撫でてもらって、私は小さくうなずいた。ソルとルーナは魔法を解いて、一緒に部屋まで向かいベッドに横になることを選ぶ。リタが私の顔色を見て、慌てたようにネグリジェに着替えさせてくれた。……心配を掛けてしまったことに申し訳なく思いつつ、私は目を閉じる。……疲れていたから、すぐに眠りにつけた。
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