【本編完結】そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

2章

2章60話（161話）

　――気が付いたら深夜だったようで、真っ暗だった。私、そんなに眠ってしまったの？　と辺りを見渡すと、ソルとルーナが気持ちよさそうに眠っていた。私が起きたことに気付いて、むくりと起き上がる。

「目覚めたか？」
「うん。すっかり眠っちゃったみたいね……」
「疲れてたから良いんじゃない？」

　励ますようにルーナに言われて、小さく眉を下げる。ぐぅ、とお腹が鳴って、思わずお腹を擦る。……昼食も夕食も食べていないから、お腹が空いた。ベッドから抜け出して、扉を開けるとカインが私に向けて視線を向けた。

「どうしました？」
「……お腹が空いちゃって……」
「ああ……。では、少々お待ちください」

　納得したようにカインはうなずいて、それからふっと表情を和らげて私を部屋の中へ戻した。ベッドに座って待つこと十分くらい……？　カインがなにかを持って来てくれた。

「トマトリゾットです。深夜ですし、少しでもお腹に優しいものが良いでしょう」
「あ、ありがとう」

　トマトリゾットに飲み水を持って来てくれたみたい。私はありがたくそれを頂いた。トマトの酸味とチーズのコク。お腹が空いていたからか、余計に美味しく感じる。コップに水を注いでくれたカインに、「ありがとう」と伝えると、ふるふると首を横に振った。

「ごちそうさまでした」
「美味しかった」
「それは良かった。皿は厨房へ持っていきますね。……それと、休めそうですか？」

　カインの問いに私は少し悩んだ。たくさん眠ったからか、目は冴えている。そんな私の状態を勘付いていたのだろう。カインはさらに言葉を続けた。

「少し、散歩をしましょうか」
「する！」

　カインからこういうことを誘ってくれるのはとても珍しい。思わず大きな声で返事をしてしまった。カインは一瞬きょとんとした表情を浮かべたけど、すぐに「先に片付けてきます」とお皿とコップをトレイに乗せて持っていった。

　すぐに戻ってきて、私が寒くないようにとストールを巻いてから部屋の外へと出た。ソルとルーナも一緒に行きたいみたいでついて来た。

「……深夜に歩くのって不思議な感じ。空気が冷たい」
「いつもこの時間には休んでいらっしゃいますからね」

　夜更かしは美容に悪いと何回も聞いていたからね……。だからこそ、なんだか悪いことをしているようでちょっとだけドキドキする。

「カインはいつ休んでいるの？」
「お嬢様が休んでいる間に休んでいますよ」

　私の護衛はカインと精霊であるソルとルーナしかいない。もっと護衛をつけている貴族もいるのだけど、お母様とお父様が『量より質』を重視した……らしい。アル兄様がこっそりと教えてくれた。そういうアル兄様の護衛は一体誰なんだろう……？　考えてみれば、アル兄様の護衛って見たことがない。エドの護衛も。

「ねぇ、カインはアル兄様とエドの護衛が誰か知っている？」

　ちょっと……いや、かなり気になって尋ねると、カインは少し考えるように視線を巡らせた。

「アルフレッド様は、かなり周囲の人たちに対して敏感なので、『自分の身は自分で守る！』と剣術を頑張っていらっしゃいますね」

　……え、それは……。護衛が居ないということなのでは……？　私が目を瞬かせていると、カインは小さく肩をすくめた。

「なので、こっそり護衛をつけているんです」
「こっそり？」
「こっそり。アルフレッド様に気付かれないように……」

　アル兄様……。……アル兄様は巫子の血を強く引いているから、近くの人の感情も感じ取ってしまうのかもしれない。……アル兄様とヴィニー殿下って、どちらのほうが巫子の力が強いのかしら……？