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2章
2章61話(162話)
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「こちらへどうぞ」
「……わぁっ……!」
カインが扉を開けて中へ入るように促す。私が足を踏み入れると、月明かりに照らされた花々が見えた。月の光に照らされる花はとても幻想的で、思わず声を上げてしまった。
「エリザベス、上、向いてごらん」
「え?」
ルーナに言われて顔を上に向ける。そこには――とても大きくて綺麗な、月の存在があった。ルーナの毛並みのように白銀の月。……なぜだろう、胸がぎゅっと苦しくなった。そして、知らず知らずのうちに涙がこぼれた。二年前にこの屋敷で最初に見た月。それもこんな風に白銀の輝きを放っていたのだろうか……。
すっと、カインにハンカチを差し出された。私はそれを受け取って、涙を拭く。
「ごめんなさい。泣くつもりはなかったんだけど……」
「いえ。ふとした時に泣きたくなる時もあるでしょう」
カインがしどろもどろながらに慰めてくれた。泣いている子どもの扱いには慣れていないようだ。どうやっても、涙は引いてくれなかった。冷やさないといけないよね。朝食の時に心配を掛けてはいけない。……でも、どうして満月を見て、こんなにも胸が苦しくなったんだろう……? そんな私を、ソルとルーナがなにか言いたげに見ていた。……それでも、口にはしなかった。ソルもルーナも、たまに私に対してなにかを伝えたいような視線を向ける。気付いているのかはわからないけれど……。いつか、話してくれる日は来るのかな?
「まんまるー」
「月光に照らされて植物も嬉しそうだ」
ルーナとソルの言葉に、私はふふっと表情を綻ばせた。ぴょんぴょんと跳ねるルーナ、空から花々を見るソル。私も改めて花々を見た。
「……ありがとう、カイン。気分転換になったわ」
「いえ。……お嬢様のことについては、俺とリタには事情を教えてくれました」
カインの言う『事情』とは、恐らく私の出生とジュリーの魔力のことだろう。カインは家系図を見る時に一緒に居たから……、……リタは、どう思ったかな……。
「リタの様子が気になりますか?」
小さく首を縦に動かした。カインは目元を優しく細めて、
「大丈夫ですよ。驚いてはいましたが、『お嬢様はお嬢様だもの』、と」
柔らかい口調で言われて、私は安堵の息を吐いた。自分でさえショックを受けた出生と、ジュリーの話だ。
「……ここの人たちは、ずっと優しいね」
夢を見ているのではないかと思ってしまうほどに。
「……お嬢様。なにか、不安があるのですか?」
心配そうなカインの言葉。きっと、本当に心配してくれているんだと思う。アンダーソン邸の人たちはみんな優しくて、養女になってからずっと楽しく過ごして来た。二年前で終わったと思っていたファロン家との関係。……血の繋がりは、そう簡単になかったことにはしてくれないみたいだ。
「……不安だらけ、かな」
「……わぁっ……!」
カインが扉を開けて中へ入るように促す。私が足を踏み入れると、月明かりに照らされた花々が見えた。月の光に照らされる花はとても幻想的で、思わず声を上げてしまった。
「エリザベス、上、向いてごらん」
「え?」
ルーナに言われて顔を上に向ける。そこには――とても大きくて綺麗な、月の存在があった。ルーナの毛並みのように白銀の月。……なぜだろう、胸がぎゅっと苦しくなった。そして、知らず知らずのうちに涙がこぼれた。二年前にこの屋敷で最初に見た月。それもこんな風に白銀の輝きを放っていたのだろうか……。
すっと、カインにハンカチを差し出された。私はそれを受け取って、涙を拭く。
「ごめんなさい。泣くつもりはなかったんだけど……」
「いえ。ふとした時に泣きたくなる時もあるでしょう」
カインがしどろもどろながらに慰めてくれた。泣いている子どもの扱いには慣れていないようだ。どうやっても、涙は引いてくれなかった。冷やさないといけないよね。朝食の時に心配を掛けてはいけない。……でも、どうして満月を見て、こんなにも胸が苦しくなったんだろう……? そんな私を、ソルとルーナがなにか言いたげに見ていた。……それでも、口にはしなかった。ソルもルーナも、たまに私に対してなにかを伝えたいような視線を向ける。気付いているのかはわからないけれど……。いつか、話してくれる日は来るのかな?
「まんまるー」
「月光に照らされて植物も嬉しそうだ」
ルーナとソルの言葉に、私はふふっと表情を綻ばせた。ぴょんぴょんと跳ねるルーナ、空から花々を見るソル。私も改めて花々を見た。
「……ありがとう、カイン。気分転換になったわ」
「いえ。……お嬢様のことについては、俺とリタには事情を教えてくれました」
カインの言う『事情』とは、恐らく私の出生とジュリーの魔力のことだろう。カインは家系図を見る時に一緒に居たから……、……リタは、どう思ったかな……。
「リタの様子が気になりますか?」
小さく首を縦に動かした。カインは目元を優しく細めて、
「大丈夫ですよ。驚いてはいましたが、『お嬢様はお嬢様だもの』、と」
柔らかい口調で言われて、私は安堵の息を吐いた。自分でさえショックを受けた出生と、ジュリーの話だ。
「……ここの人たちは、ずっと優しいね」
夢を見ているのではないかと思ってしまうほどに。
「……お嬢様。なにか、不安があるのですか?」
心配そうなカインの言葉。きっと、本当に心配してくれているんだと思う。アンダーソン邸の人たちはみんな優しくて、養女になってからずっと楽しく過ごして来た。二年前で終わったと思っていたファロン家との関係。……血の繋がりは、そう簡単になかったことにはしてくれないみたいだ。
「……不安だらけ、かな」
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