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2章
2章62話(163話)
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「その不安を、口に出してみませんか? 少しは不安が和らぐかもしれません」
口にして和らぐのかな……? 胸がざわざわするような、この不安……。
「……ファロン家がカナリーン王国の王族の血を引いていることも、私の魔力がジュリーの分もあるんじゃないかってことも……、私に流れる血のせいで、アンダーソン家の人たちに迷惑が掛かるんじゃないかって……、不安なの」
もう思い出せないマザー・シャドウの顔も。……どうすれば、この不安は拭えるのだろう。私のせいで、アンダーソン邸の誰かに迷惑を掛けるのが怖い。……ううん、違う。迷惑を掛けた後に、『お前なんて要らない』と言われるのが怖いんだ……。
「まだ成人していない子どもが、迷惑を掛けることを不安がってどうする?」
背後から声を掛けられて、びっくりして肩が震えた。振り返ると、お父様が苦笑を浮かべながら私たちに近付いて来た。
「お父様、どうしてここに……?」
「クリフ様とちょいと一杯ひっかけてたんだ」
くいとお酒を飲むフリをしたお父様に、カインが「お酒はほどほどに」と眉を顰(しか)めながら言葉を発する。そんなカインに「固いこと言うなって」と肩をすくめてみせるお父様。
「リザはどうしてここに?」
「目が覚めちゃって……。カインに付き合ってもらっていたの」
「そうかそうか。今日は良い月見が出来るからなぁ」
お父様は空を見上げて月を眺める。私も同じように月を眺めた。
「……リザ。お前はうちの子なんだから、迷惑を思いっきり掛けてくれて良いんだぞ?」
月を見たまま、お父様がそう口にした。私はお父様へと視線を向ける。私の視線に気付いたのか、お父様は顔をこちらに向けてにかっと笑う。
「……でも、迷惑は掛けたくないの……」
「リザは優しい子だからなぁ。だがな、親としてはもっといっぱい甘えて、ワガママを言ってもらいたいところだ。この二年間、ワガママらしいワガママもないし、寂しいぞぉ」
「……寂しい?」
「こーんなに可愛い娘が甘えてくれないなんて、寂しいに決まっているだろう?」
お父様の言葉を聞いて、私は目を瞬かせて、思わずぷっと吹き出してしまった。お父様はそっと私の頭に手を置いて、くしゃくしゃと撫でる。
「リザはきっと色々考えすぎちゃうんだよ。だけどな、大事なのは……リザがなにを大切にしたいと思っているかだ。それをきちんと自分で見定めれば、不安なんて吹き飛んでくぞ。なんせリザの家族は全員、お前の味方なんだからな」
お父様の口調は軽かった。軽かったけれど……私の心には、充分に沁み込んだ。
「リザはリザのまま、成長していこうな。その過程で色々なことがあるかもしれないが、そのすべてがリザの成長に繋がるだろうから。……背ももうちょっと伸びると良いな?」
「……それは私も思います……」
八歳になったエドと、十センチくらいしか変わらないのは……。しっかり食べているハズなのに……なぜ……?
「まぁ、小さいリザも可愛いんだけどな!」
「お父様……」
ひょいと抱き上げられて、上機嫌そうなお父様がくるくると回る。そしてぽんぽんと背中を叩いて、「心配するな、リザはうちの子だ」と力強く言ってくれた。……お父様とこうやって話すことってあまりないから、なんだか照れてしまう。
「冷えてきたな。そろそろ部屋で休もうか」
「はい、お父様」
お父様に抱っこされたまま、私は自分の部屋へと戻った。ソルとルーナ、カインも一緒に。お父様は私が眠るまで傍に居てくれた。……ざわざわとしていた胸は、すっかりとそのざわざわが消えていた。
口にして和らぐのかな……? 胸がざわざわするような、この不安……。
「……ファロン家がカナリーン王国の王族の血を引いていることも、私の魔力がジュリーの分もあるんじゃないかってことも……、私に流れる血のせいで、アンダーソン家の人たちに迷惑が掛かるんじゃないかって……、不安なの」
もう思い出せないマザー・シャドウの顔も。……どうすれば、この不安は拭えるのだろう。私のせいで、アンダーソン邸の誰かに迷惑を掛けるのが怖い。……ううん、違う。迷惑を掛けた後に、『お前なんて要らない』と言われるのが怖いんだ……。
「まだ成人していない子どもが、迷惑を掛けることを不安がってどうする?」
背後から声を掛けられて、びっくりして肩が震えた。振り返ると、お父様が苦笑を浮かべながら私たちに近付いて来た。
「お父様、どうしてここに……?」
「クリフ様とちょいと一杯ひっかけてたんだ」
くいとお酒を飲むフリをしたお父様に、カインが「お酒はほどほどに」と眉を顰(しか)めながら言葉を発する。そんなカインに「固いこと言うなって」と肩をすくめてみせるお父様。
「リザはどうしてここに?」
「目が覚めちゃって……。カインに付き合ってもらっていたの」
「そうかそうか。今日は良い月見が出来るからなぁ」
お父様は空を見上げて月を眺める。私も同じように月を眺めた。
「……リザ。お前はうちの子なんだから、迷惑を思いっきり掛けてくれて良いんだぞ?」
月を見たまま、お父様がそう口にした。私はお父様へと視線を向ける。私の視線に気付いたのか、お父様は顔をこちらに向けてにかっと笑う。
「……でも、迷惑は掛けたくないの……」
「リザは優しい子だからなぁ。だがな、親としてはもっといっぱい甘えて、ワガママを言ってもらいたいところだ。この二年間、ワガママらしいワガママもないし、寂しいぞぉ」
「……寂しい?」
「こーんなに可愛い娘が甘えてくれないなんて、寂しいに決まっているだろう?」
お父様の言葉を聞いて、私は目を瞬かせて、思わずぷっと吹き出してしまった。お父様はそっと私の頭に手を置いて、くしゃくしゃと撫でる。
「リザはきっと色々考えすぎちゃうんだよ。だけどな、大事なのは……リザがなにを大切にしたいと思っているかだ。それをきちんと自分で見定めれば、不安なんて吹き飛んでくぞ。なんせリザの家族は全員、お前の味方なんだからな」
お父様の口調は軽かった。軽かったけれど……私の心には、充分に沁み込んだ。
「リザはリザのまま、成長していこうな。その過程で色々なことがあるかもしれないが、そのすべてがリザの成長に繋がるだろうから。……背ももうちょっと伸びると良いな?」
「……それは私も思います……」
八歳になったエドと、十センチくらいしか変わらないのは……。しっかり食べているハズなのに……なぜ……?
「まぁ、小さいリザも可愛いんだけどな!」
「お父様……」
ひょいと抱き上げられて、上機嫌そうなお父様がくるくると回る。そしてぽんぽんと背中を叩いて、「心配するな、リザはうちの子だ」と力強く言ってくれた。……お父様とこうやって話すことってあまりないから、なんだか照れてしまう。
「冷えてきたな。そろそろ部屋で休もうか」
「はい、お父様」
お父様に抱っこされたまま、私は自分の部屋へと戻った。ソルとルーナ、カインも一緒に。お父様は私が眠るまで傍に居てくれた。……ざわざわとしていた胸は、すっかりとそのざわざわが消えていた。
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